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5話:無謀な勇気

 翌朝、俺とエイシアスは宿の食堂で軽い朝食を済ませると、商業区域へと足を運んだ。

 朝の空気は清々しく、商業区の賑わいはさらに活気を増している。

 露店がずらりと並び、それぞれが色とりどりの商品を並べて客を引き込んでいた。


「今日は商業区を見て回るか。何か面白い物があるかもしれない」

「主が興味を持つ物なんて、食い物くらいじゃないか?」


 エイシアスが軽口を叩く。


「こういう場所ではまだ食べたことがない物や、面白いアイテムなんかが見つかることもある」


 朝の市場は匂いが豊かだ。香辛料の香りが漂い、焼きたてのパンや果実の甘い匂いが混じり合っている。

 露店の一つでは、鮮やかな紫色の果実が並べられ、店主が熱心に商品を説明していた。


「魔果かというのか……魔族領でしか育たないとはな」


 俺は果実を手に取り、店主に尋ねる。


「そうだ。滋養強壮にいいし、甘酸っぱくて癖になる味だ。特に旅人にはうってつけだぞ」


 一つ買ってその場でかじると、確かに爽やかな甘酸っぱさが広がり、エネルギーが満ちる感覚を覚えた。


「エイシアスも食べてみるか?」

「どれ」


 エイシアスが俺の魔果を持つ手を持ち、自分の口元に寄せて齧った。

 咀嚼して飲み込んだエイシアスの表情が満足そうにしていた。


「悪くないね」

「だろう? いくつか買ってくか」

「そうしよう」


 店主に言っていくつか買っておいた。これでいつでも食べることが出来る。

 さらに歩くと、今度は武具や装飾品を並べた露店が目に入った。

 どれも職人の手作りで、細やかな彫刻や魔力を込めた品が目を引く。

 一つ、黒曜石でできた小さなペンダントが気になったので手に取った。


「それは『夜影の護符』と呼ばれている。持ち主の闇の力を増加させると言われている品だよ」


 店主が説明する。


「効果は保証できるのか?」


 俺の問いに、店主は自信ありげに笑う。


「もちろんさ。この街で詐欺を働くような真似はしないよ。それに、見たところあんたはそんな小細工が必要ないくらい強そうだがな」

「良い目をしているな。正直に言えば、俺が持っていても必要ない」

「だと思ったよ。隣のお嬢さんも必要なさそうだ」


 エイシアスは「こんなものに縋る必要はない」と言ってすぐに興味を無くしていた。

 店主は呆れていた。

 冷やかしの詫びをして他を回る。


 一通り商業区を見て回った後、俺たちは屋台が集まる広場に足を運ぶ。

 ここでは各国の料理が楽しめるようで、どれも魔族特有のスパイスや調理法を活かしたものばかりだ。


「どれも良さそうだが……まずはこれだな」


 俺が選んだのは、赤いソースに漬け込んだ焼き肉串だ。一口噛むと、肉の旨味とスパイシーな風味が口いっぱいに広がる。

 エイシアスも肉串を手に取り、黙々と食べ始めた。


「……確かに旨い。だが主、ここは酒も試してみるべきだろう」


 屋台の一角で振る舞われていた魔族の地酒を注文し、一杯ずつ飲む。甘みの中にほのかな酸味があり、スパイスの香りが独特だ。


「宿で飲んだ酒とはまた違い、これも悪くない」


 エイシアスが感慨深げに呟く。

 その後も、俺たちは商業区を隅々まで見て回り、珍しい品々や料理を堪能した。

 商業区での賑やかなひとときを終え、俺たちは魔都の中央にそびえる魔王城へと足を向けた。

 そろそろ魔王とお話をしようではないか。


 魔王城の正門前には屈強な魔族の衛兵たちが立ち並び、鋭い目つきで周囲を見回している。

 その一人が俺たちに気づくと、訝しげな目でこちらを見た。


「止まれ、ここは魔王城。何用だ?」

「魔王に用がある。ゼフィルスに「テオが来た」と言えば分かる」


 訝しむ視線を向ける衛兵。


「ゼフィルス様に? ふざけたことを抜かすな! 証明するものを見せろ。そうすれば通してやる」


 穏便に済ましてやろうかな? と思ったが変更だ。

 俺は低い声色で告げる。


「二度は言わん。早く伝えに行け」

「何を言っている! 捉えるぞ!」


 最終忠告を無視した衛兵は、俺に武器を向け攻撃したが、それは一メートル手前で阻まれたように止まった。


「俺の忠告を無視した罰だ。死んどけ」


 驚く衛兵を前に、俺が指を鳴らすと爆散して血の花を咲かせた。


「主よ、強硬手段か?」

「無駄に待つより、こっちから行ってやる」


 強者の歩みは止めれない。

 エイシアスの手のひらに小さな火球が生まれる。

 それを人差し指で弾くと、閉ざされた門へと飛んでいき、轟音と共に盛大に吹き飛んだ。


「では行こうか、主よ」

「だな」


 堂々と城内へと向かう俺たちの前には、騒ぎを聞きつけた兵士たちが集まり、武器を突き付けてくる。

 一度は見逃してやるので忠告することに。


「道を開けろ。俺たちの道を阻むなら、問答無用で殺す」


 殺気を振り撒くと、魔族の兵士たちは顔を青くさせながらも、武器を向けて来る。


「勇気があるのか、ただの愚か者か……」


 俺は軽く首を鳴らし、集まる魔族の兵士たちを見渡した。彼らの目には恐れと、それを覆い隠す必死の決意が宿っている。


「なら、教えてやる。お前たちの“勇気”がどれほど無謀かを」






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