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4話:宿を取るにも金がない

 魔都の鍛冶工房区に向かった俺とエイシアス。

 鍛冶工房区に足を踏み入れると、街の中心部とはまた違った空気が流れていた。

 金属が打ち合わされる鋭い音が絶え間なく響き、熱気が立ち込めている。

 至るところに煙突が立ち上り、時折、煙とともに赤い火花が空へ舞い上がる。


 通りを歩くだけでわかる。ここは職人たちの街だ。装飾に凝った店は少なく、無骨な石造りの建物が並んでいる。そのほとんどが工房か鍛冶屋の店だろう。

 通りすがりの魔族たちは、皆どこか忙しそうに見える。服は煤で汚れ、手は金属加工で荒れている者が多い。


「ここなら素材を換金する場所がありそうだな」


 俺は呟き、エイシアスに目配せをする。


「どこでもいいのかい?」

「買い取ってくれればな。適当に探してみるか」


 目の前に見つけた大きな工房に向かう。

 その入り口には重厚な鉄の扉が据え付けられており、扉には「グラム鍛冶工房」と刻まれた看板がかかっていた。

 店内に足を踏み入れると、温かい空気とともに鉄の匂いが鼻を突く。


 中では大柄な魔族の男が炉の前に立ち、真っ赤に焼けた鉄を叩いている。

 彼の後ろには、様々な武具が無造作に並べられていた。

 剣、槍、鎧――どれも精巧で、どれほどの実力者が使うものなのか想像がつくほどの出来だ。


 近くの作業台で帳簿を見ていた別の男が、俺たちに気づいて顔を上げる。

 彼は薄い灰色の肌を持つ魔族で、目つきは鋭いが、商売人らしい冷静さが漂っていた。


「お客さんか? 武器を見に来たのか、それとも素材の取引か?」

「素材だ。旅の途中で手に入れたんだが、見てくれるか?」


 俺は懐からワイバーンの鱗を取り出し、テーブルの上に置いた。

 その瞬間、彼の目が輝いた。鱗に指を触れ、慎重に裏表を観察する。


「……ワイバーンの鱗か。しかも状態が良い。旅の途中で手に入れた割には、保存も完璧だな。どれくらい持っている?」

「一頭丸々倒したからな。だから必要なら追加もできる」


 俺の言葉に、男は興味深そうに笑った。


「なるほど、いい素材だ。武具を作るには申し分ない。だが……あんた、どこで手に入れたんだ?」

「旅の途中、ワイバーンが襲ってきたから仕方なくな」


 あまりにも当然のように言うと、彼は一瞬だけ目を丸くしたが、すぐに笑みを浮かべた。


「面白い奴だ。これだけの鱗を取るには、それなりの腕が必要だろうにな」


 男は再び鱗を見て、少しの間考え込むような仕草をした後、俺に値段を告げた。


「一枚で金貨三枚、どうだ?」

「悪くないな。枚数はどうする?」

「量によるが、鱗だけなら少し上乗せしてもいい。追加で牙や爪があればさらに高く買い取るぞ」


 まあ、どれくらいが標準の金額か分からないが、ワイバーンなどいつでも倒せるので気にしない。

 エイシアスに伝えて鱗を二十枚、牙をいくつかと爪もいくつか取り出した。

 彼は状態を確認し、素材を置いて金額を提示する。


「どれも状態が良い。全部合わせて金貨145枚でどうだ?」

「交渉成立だな」

「なら金を持ってくる。少し待ってろ」


 奥へと言って十分ほどで皮袋に入った金貨を渡してきた。

 確認するように言うが、俺は確認せずにエイシアスにしまうように言う。


「いいのか?」

「いつでも狩れるからな。それに職人はそういったぼったくりをしないだろう?」


 驚く顔を浮かべ、次の瞬間に彼は吹き出した。


「はははっ、面白いやつだな。当然だ」


 俺はお礼を言って工房を後にした。

 工房を出て、次に向かう場所は宿だ。通りすがりの魔族におすすめの宿を尋ね、教えてもらう。

 聞き出したので、宿に向かう。宿屋の場所は商業区域の近くに集まっているようだった。


「宿屋で一息つくか」


 俺はエイシアスに向かって呟く。慣れない街だが、素材の換金でそれなりの資金も手に入った。これで当面の問題は解決したと言っていい。


 商業区域に向かう途中、通りを歩きながら周囲を観察する。

 鍛冶工房区の無骨な雰囲気とは対照的に、商業区域は賑やかで多様だ。華やかな装飾が施された店舗が並び、人々の声が飛び交っている。屋台では魔族特有の食材を使った料理が並び、どれも香ばしい匂いを漂わせていた。


「この辺りは賑やかだな。宿も期待できそうだ」


 きっと料理も美味しいことだろう。


「魔族領の酒も気になる」

「今夜にでも飲むか」

「うむ」


 教えてもらった宿屋を探す。しばらく歩くと、街角に立つ建物に辿り着いた。

 「月影の宿」と看板に記された宿屋は、木と石を組み合わせた趣のある造りだった。明るい灯りが漏れており、外観からして悪くない印象を受ける。

 中に入ると、受付には年配の女性魔族が座っており、穏やかな笑顔を浮かべていた。


「いらっしゃいませ。ご宿泊ですか?」

「ああ、一泊お願いしたい。それと、食事も付けてくれ」


 彼女は帳簿を取り出し、部屋の空き状況を確認する。


「お部屋は一つでよろしいでしょうか? 一泊銀貨三枚になります。食事付きですと、四枚になります」

「それでいい」


 金貨を渡すとお釣りで銀貨六枚をもらった。銀貨十枚で金貨一枚。十進法とは良くある話だ。

 彼女は鍵を手渡してきた。


「二階の奥のお部屋です。食事は一時間後に準備できますので、食堂へお越しください」


 部屋に向かう階段を上り、ドアを開けると、必要最低限の家具が揃った落ち着いた部屋が広がっていた。窓から見える外の景色には、魔都の一部が一望できる。


「悪くない部屋だな」

「こんなものだろう。次の行動を考えるには十分な場所だ」


 その日の夜、俺とエイシアスは魔都の夜景を窓から眺めながら、晩酌を楽しむのだった。



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