2話:魔都に向けて
門まで行くと呼び止められた。
「止まれ。フードを取るんだ」
俺とエイシアスは顔を見合わせて頷き、フードを取った。
「ふむ。見慣れない顔だな」
訝しむ魔族の兵士に、俺は当たり障りないことを返す。
「旅をしていてな。向こうから来たんだが、何もないところだな」
「私も主と一緒に旅をしている」
魔族の兵士は納得いった表情を浮かべた。
「こんな時に変わった奴だな。まあ、あの辺りは人間たちとの戦争で草木も生えない土地になっちまったがな。それで旅の者だったな。通っていいぞ」
「そうだ。宿はあるか?」
すると兵士は宿を教えてくれた。
「助かるよ。このまま魔王城がある街に行こうと思っていたが、方角はどっちだ?」
「魔都なら北に行ったところだよ。ここより栄えているから、楽しめると思うぞ」
「ありがとう」
兵士にお礼を告げた俺たちは町の門をくぐり、足早に進みながら町の様子を観察した。
魔族領の町は、帝国のそれとはまるで異なる雰囲気を醸し出している。
建物のデザインからして、何か不思議で神秘的な力が宿っているような印象を受ける。
町の通りには、魔族と思しき者たちが行き交い、独自の装飾を施した衣服や、帝国では見られないような異なる道具を身につけている者もいる。
エイシアスが指で作った幻術で私たちも魔族の姿を模しているが、周囲の魔族たちが私たちを一瞥するものの、特に不審な様子はない。
それどころか、幾分好奇の目を向けられているようだが、街を歩く者たちの足取りには落ち着きがあり、緊張感は感じられなかった。
「空で見たより大きい街だな」
「辺境とはいえ、戦争になれば最前線になるからではないか?」
エイシアスの言葉に、俺は納得した。このまま南下すれば人類圏となっている。戦争になれば、たちまち最前線になる。ゆえに街を囲む城壁も頑丈で、防御面を考えていることが見て取れる。
エイシアスは周囲を見回しながら話す。彼女の目が鋭く、町の細部まで観察しているのがわかる。
俺たちはしばらく歩き続け、町の中心部に近づくと、ひと際目立つ大きな広場が現れた。その中央には、巨大な石造りの塔がそびえ立っており、塔の周りには多くの魔族たちが集まっている。
近くの人に聞いていたが、今日は市場が開催されているらしく、それで賑わっているとのことだった。
市場を散策し、兵士が教えてくれた宿に向かう。
思ったより帝国にあった宿とさほど違いは見受けられなかった。
「二人ですか?」
「ああ。一泊していく」
「では二人で銀貨一枚になります」
それを聞いて俺はエイシアスの方を見たが、首を横に振られた。
つまり、魔王領で仕える通貨は持っていないということになる。不審がっていた店番だが、無視してエイシアスに聞いてみる。
「あの素材持っているか?」
「アレか? どうするのだ?」
受け取ったソレを店番に見せる。
「旅をしていたが魔物に襲われてな。金は持っていないが、代わりにこれでどうだ?」
「こ、これは……ワイバーンの鱗ですか⁉」
空を飛んでいると襲ってくるので、赤丸の餌になっていた。
余ったのをエイシアスの収納空間にしまっていたのだ。使う機会がなかったが、これで支払えるならそれが一番だ。
店番が奥に行き、一人の男性を呼んできた。
「ここの宿の管理者をしている者です。それで、ワイバーンの鱗で支払いをしたいと」
「ああ。魔物に襲われた時に金は失ってな。これなら持っているんだ。どうだ?」
「ええ、構いませんよ。ですが、もらい過ぎですので、余りをお支払いします」
お金をもらえるのは有難いので受け取っておく。
先に食事を済ませ、部屋で休むことにした。
翌朝、店番の人に魔物の素材を売れる場所はあるか聞いてみると、どうやらあるようだった。
「それでしたら鍛冶屋に持っていけば買い取ってくれるよ。どこの街にでもあるから。ただし、肉とかは素材を取り扱う店があるから、そこで買い取ってもらうといい」
「助かる。おまけにもう一枚やるよ」
ワイバーンの鱗を投げ渡し、俺とエイシアスは宿を出て行った。
何か言っていたが、ワイバーンの鱗など腐るほどあるので返してもらわなくて結構だ。
「金の心配も無くなったし、街を出たら赤丸に乗って北上するか」
「そうしよう」
門を出る前に、門番に魔都について聞いて尋ねる。
「魔都までどれくらいかかる?」
「魔都なら徒歩で二週間くらいだな」
「そうか」
魔都へと続く街道を進む俺とエイシアスは、人目が見えなくなったところで赤丸に乗って空へと飛び立った。
「んじゃ、魔都に行くか」
赤丸なら明日か明後日には到着するだろう。
そういえば、ゼフィルスにどうやって知らせようかな?