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21話:次なる旅

 場が和み談笑していると、カリオスは俺とエイシアスが、次にどこに行くのか尋ねてきた。


「テオ。次はどこに行くつもりだ?」

「帝国は大体楽しんだからな。次は魔族領に行く予定だ」


 その言葉に、場がシーンと静まり返った。


「急に静かになってどうしたんだ?」


 するとイシュリーナが呆れながらも答えてくれた。


「普通、魔族領には行く者はいない」

「いや、俺がいるだろ」

「それはそうだが……」


 カリオスが同意するように口を開いた。


「テオ。お前が最初来た時にその話は聞いていたが、本当に行くのか?」

「当たり前だ。ゼフィルスと約束しているからな。魔王と話したいから伝えておけよって」

「そうか。なら、頼みたいことがある」

「うん? 場合による」


 カリオスは「それでいい」と言い、真剣な表情で話し始めた。


「どうにか人類と魔族の戦争にならないようにしてほしい」

「え? 嫌だよ」


 即答した俺に、誰もが無言となる。

 無関係な第三者だからこそ、楽しんで見ることが出来る。

 リリアがおずおずと手を挙げて、その理由を聞かれる。


「テオ様、理由をお聞きしても?」

「勇者のいない人類が、魔王軍にどうやって対処するのか見たいからだ」


 その言葉に、リリアは驚いた表情を見せる。


「えっと……テオ様、それは少し、酷ではありませんか? 人々が苦しむことに……」


 俺はリリアの言葉を遮るように軽く手を上げた。


「リリア、それが世界の流れというものだ。それに俺とエイシアスが戦争に関われば、片方に肩入れする形になるかもしれない。それはそれで面倒だろう? それとも、第三者として両方とも蹂躙してほしいのか?」


 その傲慢な言葉に、一部の者は顔をしかめ、また一部は唖然とする。そんな中、エイシアスが楽しそうに笑いながら言った。


「あははっ、主は本当にブレることがないね」

「当然。俺は人類存亡の危機よりも、楽しむことが最優先だ。まあ、戦争が起きるかどうかは魔族側の出方次第だろう。俺が行けば、少なくとも魔王とは直接話せる。そこで何が起きるか、楽しみじゃないか?」


 俺の言葉に、カリオスは溜息を吐きながらも諦めた様子で言った。


「本当に理不尽な野郎だな。テオのことだから、断るとは思っていた。まあ、情報をくれるだけでも有難い」

「万が一、本当に人類が滅ぶような状況になったら、俺が適当に手を貸してやる。だが、それまでは俺とエイシアスは見物でもしているさ」


 カリオスは額に手を当てて苦笑する。


「本当に……テオ、お前はどうしてそんなに余裕なんだ? 他の誰よりも強いのは知っているが、その態度がな……」

「簡単なことだ。俺は誰よりも強いからだ。だからこそ、全ての出来事をただの『暇つぶし』として楽しむ余裕がある。何か問題でも?」


 俺の自信満々な言葉に、全員が呆れるような、それでいて認めざるを得ない表情を浮かべる。

 その空気の中、エイシアスがやや茶化すような口調で口を開いた。


「主が本気で怒ったら世界が滅ぶんじゃないか?」

「……知らんよ。俺だって知らないし」

 本当に分からない。国がいくつか滅ぶんじゃない?

 俺がそう答えると、イシュリーナが微かに微笑みながら口を挟んだ。


「テオ様、あなたに何かを言っても無駄よね」

「お前も分かってきたじゃないか、イシュリーナ。その調子でいてくれよ。いつでも相手してやる」

 その言葉に、イシュリーナは少し呆れた顔をしながらも「遠慮しておくわ」と断られた。

 すると突然、リリアが意を決したように言葉を絞り出した。


「テオ様、それでも私はお願いしたいです。どうか、人類が無駄に滅びるようなことだけは……」


 リリアの瞳は真剣そのものだった。その必死な様子に、一瞬だけ場の空気が変わる。

 続けてリオナスも頭を下げた。


「テオ殿、エイシアス殿。私からもお願いする」

「……リリアにリオナス、あまり期待するな。だが、俺の気が向いたら何かするかもしれない。その程度だ」


 俺がそう言うと、リリアとリオナスは困惑しつつも少しだけ安堵した表情を浮かべる。

 俺の気まぐれに期待するなんて、随分と楽天的なものだ。

 エイシアスが俺を見て、くすくすと笑った。


「主、案外優しいところもあるじゃないか」

「そう見えるなら、そう思っていればいいさ」


 ふと、窓の外を見ると茜色に染まっていた。


「テオ、いつ出るのだ?」

「明日の早朝にでも行って来る」


 カリオスは「そうか」と呟き、リリアも「寂しいですね」と言っていた。

 イシュリーナにとって、俺はいない方が落ち着くだろう。まあ、なんか付き物が落ちたように晴れやかな表情だから、心配するだけ無駄だ。

 一番はイリーシャだろう。貴族、それも大公となったのだ。


「イリーシャ」


 俺が声をかけるとビクッと肩が震え「はひっ」と返事をした。


「ちゃんと勉強しろよ? 見たことないようなお土産を持って来てやる」

「本当ですか⁉」


 パァッと笑顔になるイリーシャ。なんか、妹を見ているような感覚になる。

 前世にも今世にも俺に妹なんていないけどね。


「テ、テオ様、約束ですから!」

「『様』はいいよ。約束だ」

「はい、テオさん!」


 こうして雑談をしながら、夕食まで時間を潰すのだった。


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