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20話:お話し

 謁見が終わり、俺たちはカリオスに言われて客間に通された。

 客間には、俺とエイシアス、皇族のカリオスとリリア、リオナスに加えてイシュリーナと養子になったイリーシャの七名が座っていた。


「おいカリオス。はやく茶を出せ」

「お前ってやつは……」


 鈴を鳴らすとメイドがやって来て、紅茶を準備して各々のテーブルの前に並べると一礼して部屋を出ていく。


「てか、俺とエイシアスがいる必要あるか? ねぇよな?」

「二人は当事者なのだ。話くらいは聞きたいだろうと思ってな」

「まあいいや。帝国に来てから随分と楽しんだし、許してやるよ」


 俺が話し始めてから、イリーシャだけが顔色が優れないでいた。というより、白くなっていた。さすがに心配だったのか、イシュリーナが声をかけると。


「あ、あの……こ、皇帝陛下に、そ、そのような態度をとっても、その、大丈夫なのでしょうか?」


 イリーシャが俺を見ているが、答えたのはカリオスだった。


「こいつらだから許されるんだ。この二人を処罰などできない。不興を買って、帝国を滅ぼされたくないからな」

「で、でも、相手はその、個人ですよ?」


 怯えた感じで俺を見るイリーシャに、少し申し訳なく思う。あとでお菓子でも上げよう。


「イリーシャ。テオ様とエイシアス様が本気になれば、力で世界を支配できるくらいに強い。理不尽を、さらなる理不尽で捻じ伏せるような方だ」


 正解やね。理不尽にはさらなる理不尽で捻じ伏せる。それも、二度と牙を剥かないように徹底的に。


「そんな……」


 イリーシャの顔はさらに青ざめた。彼女は恐る恐る俺とエイシアスを見つめている。


「そんなに怖がらなくてもいい。私たちは別に無差別に力を振るうわけじゃない」


 エイシアスが柔らかい声で言った。


「そ、そうなんですね……」


 イリーシャは少し安堵したようだが、まだ緊張が抜けない様子だった。


「まあ、あまり気にするな。俺たちは敵意を向けられない限り、穏便にやっていくつもりだから」


 俺も軽く笑ってみせたが、それでも委縮しているようだった。イリーシャは「わ、わかりました」とコクコクと頷いていた。

 そんなイリーシャだが、緊張した面持ちでカリオスとイシュリーナに尋ねた。


「あの、平民の私が、本当にイシュリーナ様の養子にしていただけるのでしょうか?」


 答えたのはイシュリーナだった。


「イリーシャ。君は私と同じ、アルベルティアの王族の血が流れている、正当な後継者なのよ」

「イシュリーナ殿――いや。イシュリーナ大公の言う通りだ。血縁関係にある唯一の人でもある。だからアルベルティア家を再興するのだ」

「わ、私がそのような大役……」


 言いたいことは分かる。まだ十四歳ほどの少女だ。分からないことも多いだろう。

 俺だって知らんし。

 するとリオナスが何かを思いついたようだ。


「父上、イリーシャも大公を引き継ぐので、これからは貴族としての勉強をしなければならなりません。こちらで専門の家庭教師を用意するのはどうでしょうか?」

「そうだな。それがいいだろう」


 するとリリアも両手を合わせ、嬉しそうにしている。


「でしたら、私と一緒にお勉強はいかがでしょうか?」

「一人じゃ寂しいだろうし、よかろう。学院にも通わせよう」


 イリーシャの表情には驚きと戸惑いが浮かんでいたが、それでも彼女はリリアの提案に少し心を動かされたようだった。


「……リリア様と一緒に、ですか? それなら……少し安心です」

「そうだ、心配することはない。リリアも、貴族としての心構えや学問に詳しい先生たちから学んでいる最中だし、イリーシャも一緒ならすぐに馴染めるはずだ」


 カリオスが優しく頷いた。


「イリーシャ、一歩ずつでいいの。貴族としての知識や振る舞いは、これからゆっくりと覚えていけばいいわ。私もアルベルティア王家の者として、可能な限り教えてあげる。だって、あなたは今日から私の家族で、娘ですもの」


 イシュリーナも柔らかい声で彼女を励ました。イリーシャはイシュリーナの「家族で娘」という言葉に、涙を浮かべていた。


「ありがとう、ございます……私、一生懸命頑張ります!」


 イリーシャは涙を流しなら、決意を込めて頭を下げた。よほど、イシュリーナに「家族で娘」と言われたのが嬉しかったのだろう。

 そんな彼女の姿を見て、俺も微笑を浮かべる。どんなに大きな役割を背負うことになろうとも、彼女がその重みに押しつぶされないように、周りがしっかりと支えてやればいいのだ。


「それじゃあ、今度立ち寄った時は色々話を聞かせてくれよ。リリアとどうやって仲良くなったとかさ」


 イリーシャは俺の言葉に少し照れくさそうに笑みを浮かべた。


「はい、もちろんです。リリア様といろいろなことを学んで、いつか皆さんに堂々とお話できるようになりたいです」

「楽しみにしている」


 俺はイシュリーナにも告げる。


「イシュリーナ。次にお前と話すのを楽しみにしている。喧嘩なら買ってやる」

「嫌よ。絶対に殺す気でしょ」

「安心しろ。ボコボコにする程度だ」


 イシュリーナが小声で「化け物め」と言っていたのが聞こえた。

 うん。次会ったときはボコボコにしよう。イシュリーナ、覚えておけよ。


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