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13話:氷雪の女王4

 イシュリーナの目が氷のように冷たく輝き、彼女の手が広がると、広間全体が震え始めた。

 空気中の水分が凍りつき、結晶の粒が空間に浮かび上がっていく。瞬く間に凍りついた光景の中で、彼女は深く息を吸い込むと高らかに宣言した。


「さあ、これが私の魔術。凍てついた世界そのものを貴方たちに見せてあげるわ!」


 突如、彼女の周囲に氷の竜巻が巻き起こり、巨大な氷柱が次々と地面からせり上がってきた。柱は鋭利な氷の槍と化し、まるで自我を持ったかのように、俺とエイシアスへと向かって一斉に襲い掛かる。

 どれも致命的な威力を持ち、魔女の冷酷な意思が込められているのがひしひしと感じられる。


 だが、俺はただ、優雅に紅茶を飲みながらそれを見ているだけだった。

 エイシアスは、平然とその場に立ち尽くしていた。


「これが氷雪の女王の全力か?」


 呟いた俺は軽く笑い、肩をすくめる。


「……どうしたの? 動けないのかしら?」


 イシュリーナは冷笑を浮かべるが、その目には次第に焦りの色が宿り始めていた。

 彼女の攻撃は、エイシアスの周囲で消滅し、俺に届くことすらない。

 エイシアスが冷ややかな微笑を浮かべ、ゆっくりと手を上げた。その手から放たれる見えない力が、広間全体に広がっていく。

 彼女が放つ魔力をまるで無視するように、エイシアスの意志が周囲の空間を完全に支配し始めたのだ。


「その程度の氷の魔術で私を倒せると思っているのか?」


 エイシアスは氷の女王に向けて言い放ち、手を一振りする。

 その瞬間、イシュリーナの攻撃は全て消え去り、広間の冷気すらもエイシアスの魔力に圧倒されていく。

 イシュリーナは後ずさりし、初めての驚愕の表情を浮かべた。


「なん…だと? 私の魔力を打ち消した…? ありえない!」

「ありえない? それはお前の力がまだまだ未熟だからだ」


 俺は冷たく告げた。


「私たちにとって、この程度の魔術は子供のお遊びだ。さあ、氷雪の女王、まだ終わりじゃないだろう? もう少し、楽しませてもらおう」


 イシュリーナは唇を噛み、震えながらも再び魔力を高めていった。その凍てついた瞳に再び敵意が宿る。

 しかし、エイシアスの微笑が深まるのを見た瞬間、俺たちの余裕が何を意味するかをようやく理解したのだろう。


「さて、イシュリーナ……これが、お前が望んだ『戦い』の始まりだ」


 イシュリーナは一瞬動きを止め、冷たい瞳で俺たちを睨みつけた。

 彼女の手が再び広間全体に向かって上がり、強烈な冷気が巻き起こる。


「この私が……たかが二人の来訪者にこんな屈辱を味わうなんて! 許さないわ。凍てついた死の世界を見せてあげる!」


 広間中に氷の嵐が巻き起こり、空間そのものが凍りつくかのような冷気が体を突き刺した。

 しかし、俺もエイシアスも微動だにせず、その光景を冷ややかに見つめていた。

 イシュリーナの全力を尽くした魔術が周囲の温度を限界まで下げ、広間が青白い光で満たされる。

 だが次の瞬間、エイシアスがまるで何もなかったかのように一歩前に進み、その威容をさらに解き放った。


「その程度の氷では、私の歩みを止めることはできない。一つ、教えてやろう氷雪の女王よ。傲慢に、さらなる傲慢を以って踏み潰す。絶対者の戦い方というのを」


 エイシアスの周囲に、まるで逆巻く炎のような魔力が現れた。その力は冷気を瞬時にかき消し、周囲に熱気を漂わせ始めた。

 そして彼女が一振りの手で空を裂くように動かすと、強烈な風の刃がイシュリーナのもとに向かって飛んでいく。

 イシュリーナは慌てて防御の魔法を展開したが、風の刃は彼女の防御をものともせず、氷のように砕き散らした。


「くっ……! こんな、こんな馬鹿な……!」


 イシュリーナが苦悶の表情を浮かべ、立て直そうとする。


「自分が強いと思っていたんだろう? 私も主に出会うまではそうだった。もっと世界の広さを知るがいい」


 エイシアスはさらに一歩、イシュリーナに向かって歩を進め、背後に黄金のツノと漆黒の翼を広げるその姿で、圧倒的な覇気を放っていた。


「イシュリーナ、私の前で、このまま立っていられるならば褒めてやる。だが、神々すら恐れ慄いた私の力を甘く見るでない」


 エイシアスが両手を上げた。魔力に空気が震え、空間そのものが悲鳴を上げる。

 圧倒的な魔力に、宮殿が破壊されていく。魔力の余波でこれだ。この一撃を喰えらば、イシュリーナですら散り一つ残ることはないだろう。


「だけど――……」


 イシュリーナは顔を上げ、言葉を飲み込んだ。

 崩壊した宮殿の空には、煌々と不気味に輝く漆黒の太陽が浮かんでいた。


「あ、ありえない……こんなの、敵うはずがない……」


 その瞬間、イシュリーナは力の差を悟ったのか、ついに膝をついた。

 震えながらも彼女は顔を上げ、怯えと屈辱に満ちた声で叫んだ。


「……わ、わかったわ。敗北を認めるわ」



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