3話:皇帝の頼み
「テオよ。帝国には観光だけか?」
「当たり前だろ。武神祭なんていう面白そうなもの、見て見たいだろ」
「そうか。士官してほしかったが、無駄のようだ」
「力を重視するという一点においては、好感が持てる国だ。他はいらないけどな」
「その通りだ。帝国は何より力を重視している。テオやエイシアスの力は欲しいくらいだ」
笑みを浮かべるカリオス。
「俺にとって力は自由で、自由とは力だ。力さえあれば、何をしても許される。そうは思わないか?」
「然り。しかし、力だけあっても、国は管理できない。恐怖で管理すれば、いずれは崩壊を辿る」
「当然だな」
「ふふっ、気が合うではないか」
「俺も思っていたところだ。しかし、本当に士官はしないのか?」
「俺は自由に世界を回る旅をしている。そのあとは、レグムントの王家に屋敷をもらっているから、そこで暮らすさ」
「なんと。なら帝国からも屋敷を提供しよう」
「いらいって。帝国に来たら適当に顔を出してやるよ。城で世話してくれよ」
「なら、旅立つまで城で自由にするといい」
「ならお言葉に甘えるとするよ」
まあ、宿代を出さなくていいなら、都合がいい。それに、皇帝とはもう少し話してみたい。
すると、一人の貴族が反発した。
「私は反対です! どこの馬の骨とも分からない者を城で暮らさせるとは、危険極まりないです! 口ぶりからは、勇者を見殺しにし、あまつさえ魔王軍の将を見逃した。さらには聖王を殺している。危険です!」
その反発に、さらに声が大きくなっていく。
「静まれ!」
カリオスの一言で静まり返る。
そしてカリオスは続ける。
「テオも言っただろう? 力とは自由の象徴だと。強者だからこそ、許される。それがこの世界の摂理だ。貴様らも、テオとエイシアスから滲み出る濃密な魔力が分かるはずだ。二人を敵に回せば、帝国は簡単に滅ぶぞ」
「そ、それは……」
「強者だからこそ許されるのだ」
カリオスは俺へと顔を向ける。
「すまないな。城では自由にしてくれて構わないが、禁書には立ち入らないほしい。そえと、場内の者をなるべく殺さないでほしい。まあ、度を越えた者は殺して構わん」
「わかったよ。しばらく世話になるんだ。それくらいは受け入れるさ」
それから謁見はすぐに終わり、騎士から皇帝が呼んでいると話が来たので、会うことにした。
部屋に入ると皇帝のカリオスの他に、リリアともう一人の青年が座って待っていた。
促される前に席に座ると、青年が先に口を開いた。
「私は皇太子のリオナスだ。妹を助けてくれたこと、感謝する」
「気にするな」
「うむ。主の気まぐれだからな」
用意された紅茶を啜るエイシアスに、俺は呆れてしまう。
「それで、わざわざ何の用だ?」
俺の問いに、カリオスが応えた。
「個人的な話だ。強いことは知っているが、一体レベルは……」
「9999だ。ほら」
俺はステータスを開示して見せた。
三者三葉に驚き、何度も見ていた。
「まさか、エイシアスもか?」
「当然だ。まあ、主のお陰だが」
「お二人は魔の森の深層で暮らしていたそうですよ」
「ははっ、それは強いわけだ。英雄や勇者ですら足を踏み入れない森で暮らしていたか……納得だ」
「聞きたいのはこのことじゃないだろ?」
「然り。ここに居る間、二人を鍛えてほしいのと、他に頼みたい依頼がある」
「鍛えるのは宿の恩としていいが、依頼とは?」
皇帝から直々に依頼となると、難易度が高いと予想できる。
断ってもいいが、宿の恩くらいは返さないとな。
カリオスは真剣な表情を浮かべ、重々しく口を開いた。
「帝国北部にある山脈の麓に魔女がいる」
「魔女? でも魔法使いだろ?」
カリオスは首を横に振った。
「違う。アレは、魔術だ」
「魔法と何が違うんだ?」
すると俺の問いに答えたのはエイシアスだった。
「魔法は、自然のエネルギーや元素を操る術で、火や水、風、雷など、既存の自然現象を引き出す形で行使される。魔法の行使は比較的安定しており、使い手が多い。特に実戦での攻撃や防御、回復に役立ち、戦場で頻繁に使用される。ただし、魔法には制約があり、使い手の資質と訓練によって制限が生じ、強大な力を得るには長い年月を要するんだ」
カリオスが「その通りだ」と頷いた。万年生きるエイシアスだからこそ、あそこまで強大な魔法を行使できるということだ。
エイシアスは続けて魔術について説明する。
「一方で、魔術は強大で危険な力を秘めた術として恐れられている。自然の法則を超越し、異界の存在や古代の精霊などと契約を結ぶことで超自然的な力すら引き出す。魔術の発動には血や使い手の命や精神に大きな負担をもたらすことが多い」
エイシアスは「神代から存在するけど、魔法とは違いとんだ欠陥品だね」と呆れた様子だった。
「数百年、その魔女により山脈の一部は氷に閉ざされている。魔女の名はイシュリーナ。魔王すら恐れ、手を出すことがなかった【氷雪の女王】だ」