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2話:雑魚が、囀るなよ

 夕方頃には帝都アルグラシアに入り、俺とエイシアスは王城に向かう。

 まあ、数日世話になるくらいはいいだろう。


「到着いたしました」


 同伴していた騎士が馬車の扉を開ける。

 先に降り、俺はエイシアスとリリアに手を差し伸べる。ここは紳士に対応しよう。


「ふふっ、主らしい」

「テオ様、ありがとうございます」


 案内されるがまま部屋に通される。リリアが少しお待ちくださいと言い、部屋を出て行った。それから体感で三十分ほどが経過し、同伴していた騎士がやってきた。


「テオ様、エイシアス様。皇帝陛下がお呼びです。私の後に付いてきていただきたい」


 まさかの皇帝直々のお呼びとあらば、行ってやろうじゃないか。

 俺とエイシアスは騎士の後に付いて行き、重厚で、それでいて荘厳な扉の前で待たされる。


「お二人をお連れいたしまた!」


 騎士が声を張り上げると、扉が開いた。

 玉座の間は、その名にふさわしく圧倒的な威厳と豪奢さに満ちている。テオが足を踏み入れた瞬間、冷たく光る黒曜石の床が、彼の足音を響かせ、巨大な空間に静寂を生む。玉座の間は、天井までそびえる柱が並び、それらには古代の戦士たちの彫刻が施されており、彼らの勇姿がまるで生きているかのようだ。


 壁には、帝国の歴史を描いた壮大なタペストリーがかかり、戦場での勝利や英雄たちの姿が色鮮やかに描かれている。天井からは無数の煌めく水晶のシャンデリアが下がり、その光が黒曜石や大理石の床に反射して、部屋全体を神秘的な輝きで包み込んでいた。


 奥には、玉座がそびえ立っている。それは真紅の絨毯が敷かれた広間の中央にあり、金と黒の装飾が施された重厚な椅子だ。背もたれには帝国の紋章が大きく刻まれ、まるでその力が目に見えるかのようだ。


 俺の視線は玉座へと吸い寄せられる。そこには、威厳をたたえた帝国の皇帝が座している。

 彼の視線は鋭く、部屋のすべてを支配しているかのように感じられる。

 その周囲には、重鎮たる貴族や高位の魔法使いたちが整然と立ち、各々の立場を示すかのように着飾っている。香の煙が微かに漂い、厳粛な空気が一層引き立てられていた。


 エイシアスの城より劣るが、それでも似たような雰囲気を感じられる。

 緊張などはしていない。そのまま歩みを進める。玉座の前まで来るが、俺とエイシアスは跪いたりしない。どうして強者である俺たちが、俺たちより劣る存在に膝を突いて首を垂れなければならないか。

 しかし、周囲からは無言の圧力がかけられるが、その程度気にすることなど無い。


「無礼者め! 早く跪くのだ!」


 一人の筆頭騎士だろう者が剣に手をかけ、声を荒げる。俺はその者を睨みつけて告げる。


「黙れ。力量差も理解できない雑魚が、囀るなよ。殺すぞ?」


 殺気を解き放ったその瞬間、すべての騎士が剣を抜き、魔法使いが杖を構えた。

 しかし、それに待ったをかけた人物がいた。それは玉座に座る皇帝自身だった。


「待て。皆の者、武器を収めろ。客人よ、失礼した」

「しっかりと首輪をかけて、手綱を握っておけ。程度が知られるぞ?」

「ククッ、アッハッハッハ!」


 すると皇帝は急に笑い出した。


「すまない。我はカリオス・フィア・バルデリア。バルデリア帝国の皇帝だ。かなり我が強いな。しっかりと教育し直そう」

「そうしろ。じゃないと、つい殺しちまう」

「面白い。まずはリリアを助けてくれたこと感謝する。褒美を用意するが、何がいい?」

「特に必要ねえよ。リリアに言われて、数日世話になるくらいだ。それで十分だ」

「そうか。まあ、旅をしているのなら褒美は金にしておこう。適当に用意させよう」

「勝手にしろ。それで、俺たちを呼んだ理由はなんだ?」


 するとカリオスは、リリアを一瞥してから口を開いた。


「神聖リュミエール王国から来たと聞いた。勇者とは会ったか?」

「遠目から見ただけだよ。あいつ、魔王軍の魔将に殺されていたぞ。弱すぎて腹を抱えて笑ったよ」

「あの【影刃】とかいう魔族すら倒せない雑魚だとはな。見ていて面白かったが、それだけだね」


 俺とエイシアスの感想に、周囲は騒めく。リリアも聞いていなかったからか、表情が固まっていた。


「見ていたのか?」

「うん? 当然だろ。魔族が攻めて来るという楽しそうな展開、見なくちゃ損だろ。まあ、聖女のリリィも殺されかけてたが」

「……聖女は無事なのか?」

「無事だよ。まあ、世話になった住民もいたから、軍勢は片付けてやったが。魔族の将は、楽しませてくれた礼に見逃してやったよ」


 俺の見逃した発言に、非難が飛んでくる。

 雑魚がうるせぇな……

 俺のイライラが溜まっていく。


「なら、帝国が滅びそうになっても、俺たちは高みの見物をさせてもらおう。楽しませてくれることを願うよ」

「テオといったな。随分と傲慢だな」

「……お前も聖王みたいに正義を語るのか? あいつは犬の躾もできないようだったから、聖王に躾がどういうものか教育してやったよ」

「つまらない最後だったね」

「ほんとにな。もっと頑張ってくれていいのに。まあ、いないヤツの話しはいいや」

「まさか、聖王を殺したのか……?」


 俺は笑って答える。


「当然だ。誰に手を出したか、教えてやっただけだ。今はあの女神に言われて聖女が頑張ってるんじゃねぇか」


 その言葉に、謁見の間は静まり返ったのだった。




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