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18話:女神ルミナ

「では、その正義と信仰を捨てる時間だ」


 アルノーによって縛り付けられた聖王は、屈辱的な顔をしている。


「貴様! まだルミナ様を侮辱するか!」


 聖王なだけはあり、信仰心は確かなようだ。リリィは前回の俺に言われた通り、屈辱的ながらも黙っていた。


「ならば、お前の正義とはなんだ? 一体何を救った?」

「誰が強いかではなく、誰が正しいかを問うものだ。弱者を守るために力を使うのではなく、力に頼らずとも、誰もが生きられる世界を築くことが正義なのだ。それにより、多くの者が救われる」

「誰が正しいかを問う……? 正義とは、理想だけでは成り立たない。力なき者がどれほど正しくあろうとも、現実は変わらない。世界を動かすのは理想ではなく力だ。力に頼らず、誰もが生きられる世界を築く……? それは美しい夢だが、夢だけでは人は救えない」

「救える! 同じ理想を抱く者が集まれば、理想は現実となる!」

「実に愚かだ。力を求め、力を使う。強さを持って初めて、現実を変えることができる。正義とは結果だ。結果を残せなければ、その正義には何の意味もない。お前の言う正義は、ただの幻想なんだよ。少しは帝国を見習ったらどうだ?」


 帝国は実力主義の国だ。楽しみで仕方がないよ。


「あのような蛮族の国、見習えるわけがなかろう!」

「はぁ……少しは現実を見ろ」


 俺が手を伸ばし、握り締める。そのまま捻ると、聖王の腕は捻じ曲がり――千切れた。鮮血が舞い、聖王の絶叫が室内に木霊する。


「聖女。治してやれ。ただし、腕はくっつけるなよ?」

「……はい」


 駆け寄り治療するリリィに、聖王は憤慨した。


「聖女、貴様もヤツの言いなりか!」

「言いたいことはあります。ですが、私ではテオ様、エイシアス様に逆らったところで無様に死ぬだけです」

「……裏切り者め!」


 いいね。信頼が薄れていくのは見ていて気持ちがいい。

 聖女も自分の立場を理解しているようだ。


「さて、信仰を捨てる気になったかな? あるいは崩れ去ったかな?」

「そんな訳がなかろう!」

「そうか。おい、聖女。女神と話すことはできないのか?」

「……わかりません」

「やれ。魔力は貸してやる」


 聖女をこちらに呼び、背中に手を向けて魔力を流す。

 祈る聖女だったが、次第に淡い光の粒子が天に昇っていき、しばらくして一人の女性が現れた。

 見るだけで分かる。本能が告げている――人ならざる者だと。


「聖女よ。私をお呼びのようですね」


 女神像と似た見た目をしている。つまりは、本当の神であるということ。

 長く流れる白金色の髪を持ち、その髪は光そのもののように柔らかく揺れている。彼女の瞳は輝く黄金色で、どこか優雅で慈愛に満ちた眼差しをたたえており、肌は透き通るように白く、まるで純粋な光に包まれているかのようだ。


 彼女が纏う衣装は、光を織り込んだかのような白いローブで、その表面には繊細な金糸で太陽や星々を模した模様が刺繍されており、ローブの裾や袖からは、虹色に輝く神秘的な光が淡く漂っていた。

 背後には、光の羽が広がっており、その羽根は純白に輝いて、まるで太陽の光を反射するように煌めいている。


「……女神、様?」

「ああ、女神様……」


 聖王は感動のあまりか、涙を流していた。


「私はルミナ。人の子よ、あなたの祈りは届いております。よくぞ災いを防いでくれました」

「い、いえ……」

「あなたに私を顕現できる力は持っていなかったはずですが、どうして――」


 そこで俺とエイシアスがルミナの視界に入った。彼女はそれだけで理解したようだ。


「なるほど。テオ様。あなたですか。聖女に魔力を貸し与えたのは」

「ご名答」

「つまり、あなたが私に用があるのですね」


 一瞬、エイシアスに視線が向けられたが、すぐに俺を見つめる。

 そこに、割り込む者がいた。聖王である。


「め、女神様! その者に天罰を! あの者は女神ルミナ様を侮辱したのですよ!」

「私は構いません。それに、本来の私でも、あなたと戦えば勝てません。滅ぼされることでよう。彼女まで従ているのです。はなから勝負になりません」


 聖王は絶句しており、リリィも女神自身が俺とエイシアスに勝てない発言を聞いて、驚愕していた。

 まあ、推定だけどレベル8000くらいじゃない?


「神を名乗るだけはあるな。まあまあの強さだ」

「……世界の法則すら自在に操る術を人の身で会得し、神々すら超越する力を持つ。さらには神々協力して封印した天魔を恭順させるテオ様にそう言っていただけるのは光栄ですね」

「解説ご苦労さん。で、お前は俺の敵か?」

「いえ。私はあなた様の敵ではございません」


 ふむ。死にたくないからかな?

 

「この聖王は信仰を捨てないようでな」

「……自由ではないのですか?」

「まあな。だが、信仰で民は救えるか? 力こそがすべてだと思わないか? 力がないから殺される。死んだらただの弱者だ」

「傲慢ですよ」

「傲慢さ。お前が俺より強いと証明するならば、従ってやろう。神々を相手に、俺は戦うつもりだが?」

「御冗談を。あなたを止められる者は、人間にも、神々にも存在しません」

「へぇ、ならこれからは俺の言うことを聞けよ?」

「……何を命令するつもりですか?」

「俺の邪魔をするなってだけだ。邪魔するなら滅ぼす。どうせ大した干渉もできないんだろ?」

「神を脅すのですか……ですが、このように力を借りなければ顕現はできません。できても加護を授けるのと神託程度ですよ」

「そうか……本題だ。お前を呼んだ理由は一つだ。コイツ、聖王の信仰は必要か? これに答えたら帰ってもいい。ただし、答え方には気を付けろ?」


 一瞬沈黙する女神ルミナだったが、首を横に振った。


「……いいえ。必要ございません」


 女神ルミナは、一瞬何かを言いたそうにしていたが、俺とエイシアスを敵に回したくなかったのだろう、必要ないと言い切った。


「わ、私の信仰が、必要、ない……?」

「ええ、結構です。聖女リリィ、あなたがこの国を導くべき存在となりなさい。それに、テオ様、少しは我々神々の神託に耳を傾けてはいただけませんか?」

「あ? 今は人間様の時代だ。まともに干渉もできない無力な神々が、出しゃばるんじゃねぇよ」

「それを言われては返す言葉もございませんね。出過ぎた発言。お許しください。では、私はこれにて失礼いたします」

「ああ、ご苦労だった」


 聖王は消えていく女神ルミナに、手を伸ばすが力なく下ろされた。女神ルミナに見捨てられ、茫然自失となる聖王の身体が光り輝く。

 光は聖王から抜けていき、天へと昇っていく。


「わ、私が授かった力が……加護が消えていく……」

「さて、女神様に見捨てられたな? もうお前の信仰は必要ないそうだ」


 絶望の表情を浮かべる聖王だが、まだ教育は続く。


「さて、女神に見限られ、正義すら執行できない。お前は無能だ。そんな無能に、次の教育だ」




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