表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

56/108

17話:教育の時間2

「わ、私を教育、だと……?」


 ガタッと勢いよく立ち上がる聖王。てか、こいつの名前知らないけど、まあ問題になるわけでもないしいいか。


「だ、誰かいないのか!」


 声を荒げ、助けを呼ぶ聖王は、そこでリリィに視線が向けられる。


「せ、聖女よ。今すぐ結界を張り、私を守るのだ!」


 リリィが俺に顔を向ける。その目には「やってもいいの?」と問いかけているようだった。

 俺をいくら恨んでいようが、性格と実力を知っているのでやりたくないのだろう。というか、死にたくないと言った方がいいか。俺は軽く頷くことで了承する。


「わかりました」


 リリィが聖王を守るように結界を展開した。これが聖女の結界か。脆そうな結界だな~とか考えていると、聖王が勝ち誇ったような笑みを浮かべた。


「ははっ、これなら貴様の攻撃など効かない! すぐにでも騎士たちが来て、貴様を捕らえるだろう。楽に死ねると思うなよ」


 うん。どうやら勘違いしているようだ。

 そもそも、騎士たちは俺が王宮に入って来た時に、王宮にいるすべての騎士に囲まれたが、「死にたいならかかってこい」と言ったのに、俺の顔を知らない騎士たちが攻撃してきた。

 その数、百は下らないだろう。襲ってきた騎士たちは一瞬で、エイシアスの魔法によって細切れにされた。その後、王宮に居るすべての騎士たちは顔を青くしており、少しだけ躾けをした。


「騎士は来ない」

「な、なにを言って……」

「はぁ、仕方がない。呼んでやるよ」


 俺が指を鳴らすと、部屋の外から光の騎士たちが流れ込み、両端に立って忠誠のポーズをとった。

 代表の片腕の騎士、光の騎士団第一騎士団長のアルノーが俺の前で跪き、首を垂れる。


「テオ様、お呼びでしょうか?」


 その光景に聖王のみならず、リリィまでもが目を見開いて驚きを露にする。

 光の騎士を含めたすべての騎士たちは俺を憎んでいた。

 だから、しっかりと躾けをしてやったのだ。この通り、今では忠犬だ。


「お前たちのご主人様が呼んでいたぞ。忠犬なんだろう?」

「あのような王、我らの主人ではありません。命令を聞く義務もないでしょう。我ら一同、あなた様のために」

「「「あなた様のために!」」」


 騎士たちが声を揃えてそう叫ぶ。


「アルノー。あ、あなたたちは光の騎士。女神様の忠実なる騎士なのですよ⁉」


 リリィが叫ぶが、アルノーは首を横に振って否定した。


「聖女様。女神ルミナが我らを助けてくれましたか? 神託というあやふやな情報で、助けた気になっている小心者ですよ。助けもしない神を信仰するだけ無駄です。いい加減、現実を見てください」


 アルノーにそう言われて、リリィも聖王も絶句していた。光の騎士であり、その筆頭騎士団長が言っていいセリフではない。ましてや、神を侮辱しはじめたのだ。


「め、目を覚ましてください! 今ならまだ――」

「我らは夢を見過ぎていたのですよ。先の戦いだって、女神は助けてくれましたか? 少しでも力を貸してくれましたか?」

「ッ! そ、それは勇者様を遣わせて……」

「それは女神に言われて、私たちが呼んだ結果です。忘れてはいませんよね?」

「うっ……」

「正義など幻想に過ぎません。信仰に頼る者は弱者であり、力なき理想にすがるのは愚かです。我々騎士団が信じるのは、テオ様の力のみ。テオ様に従うことで、我らは真の強さを手に入れる。強者だけが、真に世界を導くことができるのです。信仰を捨て、力を信じる。それが、我々の正義だ」

「狂っています……」

「貴様、本当にアルノーなのか……?」


 聖王に問われたアルノーは立ち上がり、聖王に向き直る。


「ええ。テオ様の忠実なる僕です。テオ様とエイシアス様こそ、我らが信じるのに値するお方だ」

「もういい。控えろ」

「はっ」


 そう言ってアルノー引き下がり、俺とエイシアスの後ろで直立不動の姿勢を保つ。

 俺は聖王へと歩みを進め、結界の前で立ち止まる。それを見た聖王は、俺が結界を破壊できないと思ったのか、笑みを浮かべた。


「はっ、貴様がいくら強くても、聖女の結界を破壊することなどできない」


 俺は結界に手を伸ばし、デコピンした。次の瞬間、結界はパァンッと弾け飛んだ。


「……え? あ? は?」

「やはり一撃で……」


 リリィには予想できたようだ。そこまで驚きはしていなかった。

 しかし、聖王は驚きのあまり固まってしまっている。


「さて、自分がどのような者を相手にしたか理解できたかな?」


 これも教育の一つ。

 俺はアルノーに命じる。


「アルノー。俺も座りたいから席を用意しろ」

「仰せのままに」


 俺の意図を汲み取ったアルノーが聖王に近づく。歩み寄るアルノーにビクビクする聖王は、次の瞬間、胸倉を掴まれて床に投げ捨てられた。


「うぐっ」


 投げ捨てた聖王を無視して、アルノーは俺の前に跪く。


「テオ様に相応しい席をご用意しました」

「御苦労」


 俺は聖王が座っていた玉座に腰を下ろして足を組む。するとエイシアスが「私も失礼するよ」と言って、俺の膝の上に座りもたれかかる。

 お前は自分で用意しろと言いたいが、まあいいか。


「さて、教育はまだ始まったばかりだ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ