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13話:拒否権はない

「テオ、様……?」

「そんな顔するなよ、聖女」


 俺は空からその惨めな姿を見下ろしながら、口元に笑みを浮かべる。勇者が死んだ? それがどうしたっていうんだ。そもそも、俺にとってはその程度の存在に過ぎなかったんだ。彼がどんなに足掻こうと、彼が死のうが生きようが、世界は変わらない。


「……助けて、ください」

「勇者が死んだから俺に泣きすがるなんて、まるで無力な子どもだな。そんな勇者(ヤツ)に頼っていたこと自体が間違いだ」


 俺の声は軽い調子だが、その言葉がリリィの心を深く突き刺すのが手に取るように分かる。彼女の肩は震え、絶望の淵に沈んでいる。

 つい先ほどまで、俺はこの戦いを見物して楽しんでいた。勇者がどれだけ抗えるか、期待していた部分もあるが、結局その程度だった。


「魔王を倒すために、異世界から勇者を召喚する。散々「あなたは勇者様です。選ばれた人なんです」と持ち上げておいて、このザマか」


 面白過ぎて思わず笑ってしまう。

 彼女が拳を握りしめ、こちらに向ける憎悪の視線が痛いほど伝わってくるが、俺にはそれすらどうでもいい。俺とエイシアスを楽しませてくれれば、それでいいのだ。

 ゆえに騎士たちからも、怨嗟の籠った憎悪の視線が向けられようと関係ない。


「……笑いに来たのですか? 散々楽しんだのではないですか?」

「ああ、楽しませてもらったよ」

「女神ルミナ様からの神託で、あなたが危機を救うと仰っていました。助けに来た、と解釈しても?」


 俺は吹き出しそうになるのを堪えながら、彼女を見下ろす。

 神託、神の御言葉――そんなもの、まだ信じているのか? この世界の人間は、本当に滑稽だ。


「女神様は俺がこの国を救うと思っているのか? 国の危機に姿すら現さない神を信じているのは滑稽だ」


 俺は肩をすくめ、嘲るように笑った。


「助けに来たと解釈してもいい、だって? 勘違いも甚だしいな。俺は、ただ――面白いからここにいるだけだ。言っただろ? 楽しませてくれよって」


 実際、十分に楽しませてもらった。


「お前たちを救うためじゃない。そもそも、誰かに救いを求めてる時点で、弱者なんだよ。神に祈ることしかできない愚か者に、俺が手を差し伸べると思ったか?」


 俺は彼女の反応を楽しむように、挑発的な笑みを浮かべ続ける。信仰なんて、所詮は無力な者が作り出した幻想だ。俺はそんなものに縛られる存在じゃないし、必要ともしない。

 転生特典をくれたジジイには感謝しているけど、信仰などはしていない。


「き、貴様! 聖女様が頼んでいるのに……!」

「我らの信仰を侮辱するか!」


 騎士団長らしい者たちが声を荒げる。

 俺とエイシアスはゆっくりと地面に降り、リリィに告げる。


「この程度滅ぶなら、さっさと滅べばいい。俺は最後まで楽しませてもらうがな」

「貴様ぁぁぁあ!」


 一人の騎士団長が斬りかかってきたが、重力の壁によって阻まれる。


「失せろ」


 俺はその人物を一瞥し、指を鳴らした。

 乾いた音が響き、斬りかかってきた騎士団長は爆散し、血肉を撒き散らす。

 一瞬の出来事に誰もが固まる。リリィも、何が起きたのか理解できていないようだ。

 しかし、すぐに気を取り戻し、騎士団長が殺されたとこで周囲から殺気が注がれる。多くの殺気を前に、俺はフッと笑う。


「お前たち程度で俺を殺せるのか? 楽しませてくれた礼だ。相手してやる」


 挑発すると、多くの騎士たちが俺へと襲いかかる。しかし、俺がトンと靴で地面を叩くと、襲いかかってきた騎士たちは、一瞬にして地面に血の染みを広げることになった。

 攻撃をしてきた百を超える騎士が、抵抗すら許されずに死んだ。

 その事実のみが残り、再び攻撃してくるようなことはなかった。


「あ、言い忘れてた。敵なら誰であろうと殺すから」


 そうして俺は座り込み憎悪の視線を向けてくるリリィと向き合う。


「だがまあ、この街には良い料理を出す店主や、良くしてくれた宿屋の娘もいる。そんな人たちを見殺しにはできない。だから俺からのささやかなお礼の気持ちだ」


 俺は指を鳴らす。

 乾いた音が鳴り響き、魔物たちが何かに押し潰されたかのように、地面に血の染みを広げた。

 数千の魔物が一瞬で死んだことに、誰もが驚きを隠せないでいた。

 騎士団長たち総がかりで挑み、倒せなかったバルゴスという獅子も一瞬で死んだ。

 残るのは、魔王軍の魔将であるゼフィルスのみとなった。

 ゼフィルスから、ヘルム越しにでも驚きが伝わってくる。


「ゼフィルスといったか?」

「……ああ。どうした? 魔王軍に入るなら、口添えをしよう。その力があれば――」

「黙れ。聞いているのは俺だ」

「悪いが――」


 こいつは立場をまだ理解していないらしい。俺はゆっくりと立ち上がり、ゼフィルスに視線を向けた。


「拒否権? お前にそんなものがあると思ってるのか?」



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