11話:勇者の覚醒
対峙するアルノーとゼフィルス。
アルノーは、ゼフィルスの出方を伺っていた。正面から挑むことなどできない。自分よりも圧倒的な格上を相手にそのようなことできない。
瞬間。ゼフィルスの影が揺らめき、そこから棘のようなものが伸びて襲い来る。
神聖魔法を纏った剣で切り伏せる。
「ふむ。神聖魔法を相手にするのは厄介だ」
「なら、このまま軍勢を引いても構わないが?」
「すわけがないだろう? 優勢でいるのにどうして撤退する必要がある」
「だよな」
アルノーは地面を踏みしめ、一瞬でゼフィルスへと迫り剣を振るう。
互いに何度も何度も打ち合う。打ち合うごとに火花が散る。
距離を取ると、影から先ほどのような影を使った攻撃が飛んでくる。
「――チッ」
しかし、アルノーの攻撃はキレが落ちてきていた。それは魔物との戦いで体力、魔力ともに消耗していたからに他ならない。
「光の守護者とも呼ばれる騎士団長がこの程度だとはな」
「馬鹿にするでない!」
アルノーは光魔法で閃光使い、ゼフィルスの目を眩ませ、背後を取った。そのまま神聖を纏った剣で切り裂こうとして、後ろに飛んだ。
直後、先ほどまでアルノーが立っていた場所に無数の棘が生えた。
避けていなければ、今頃は串刺しになっていたことだろう。
「我がなぜ、【影刃】と呼ばれているか、それを見せてやろう」
ゼフィルスが剣を横に振るった。
瞬間、黒い斬撃が一直線に伸び――アルノーの左腕が斬り飛ばされた。
「――くっ!」
血が流れ、地面に赤い染みを広げる。
「避けたか。貴様は腕一本で済んだようだが、お仲間はどうかな?」
「何を言って――っ」
声が出なかった。
振り返ったそこには、百に届くかという、上下に分かれた部下たちの姿があった。
あの一瞬でこれだけの数が殺された。アルノーは冷や汗を流す。
一人の将がこの強さ。魔王は一体、どれほど強いのかと。
しかし、自分は守護者に選ばれたのだと、剣を構える。
「そうか」
ゼルフィスは何も言わずに剣を構える。
再び二人は剣を交えた。
ゼルフィスの足元から広がる影が、棘となって攻撃してくる。足、胴体と傷が増えていく。
「どうして一瞬で殺さない?」
「貴様が誇りある騎士だからだ。不満か?」
「……いいや。お前は魔物、いや。魔族だな?」
「当然だ。魔将は魔族しかいない」
その時、後ろから声が聞こえた。
「アルノー団長、加勢します!」
光の騎士団の団長たちだった。
ボロボロだが、それでも加勢に駆けつけたようだ。
「一人を相手に複数人で戦う。それが騎士のやることか?」
「邪悪なる者め、お前たちを滅ぼせるなら卑怯な手だって使ってやる!」
第三団長が言い放つ。
他の団長たちも同じなのか、反論しない。
「魔物は進軍させる。お前たちの相手はバルゴスにしてもらうとしよう」
ゼフィルスがそう告げると、黒い獅子が動き出し、触手を伸ばして騎士団長たちに攻撃を加えた。
「――チッ!」
「アルノー、こいつを倒してすぐに助けに行く! そまで待っていろ!」
「アルノー、死ぬなよ!」
そう言って騎士団長たちはバルゴスとの戦闘に入ってしまった。
周囲の魔物も攻撃を再開し、激化を極めた。
「勇者と聖女を殺すまで退く気はないんだな?」
「当然」
「仕方がねぇ、最後まで抗うとするか」
片腕となったアルノーは、剣を構える。
すると、アルノーの身体が光輝き、腕が再生した。
後方の城壁を見ると、聖女が祈りを捧げていた。
「聖女か。厄介な力だ。先に始末するべきか」
「させると思うか?」
「ならば、貴様と勇者を殺し、最後に始末するとしよう」
ゼフィルスが剣を振るい、アルノーが神聖を纏い斬撃を防いでいく。
片腕故に、徐々に追い込まれていく。
足元からは棘による攻撃に、癒えた体に再び傷ができる。
「ぐっ⁉」
出血が増え、アルノーが片膝を突いた。
迫る影の斬撃を前に目を瞑るが、いつまで経っても攻撃が来ることはなかった。
目を開けると、目の前には勇者である剣崎が聖剣を構えていた。
「ゆ、勇者様……?」
「俺がやらないとだろ!」
「無茶です! ここは一度撤退を!」
剣崎にとって、アルノーは剣を教えてくれた師匠である。いくら剣崎の性格がクズでも、友人を見捨てるということはしたくはない。
「ここで逃げたら、勇者じゃねぇ!」
だから恐怖でガチガチになりながらも、逃げたい気持ちを押さえながら、彼は聖剣を構える。
その瞬間、聖剣がかすかに震えた。剣崎は目を開け、鋭い光を放つ刃を見つめた。剣が応え始めたのだ。彼の覚悟に応じて、剣がまるで生きているかのように、彼の手の中で力を増していく。
「力を貸せ、聖剣!」
剣崎は全身から湧き上がるエネルギーを感じた。魂と一つになるかのように、聖剣は光を放ち、まばゆい黄金の輝きが大地を照らす。その光は瞬く間に闇を打ち払い、剣崎を包み込む。目の前の世界が一瞬、白く染まった。
剣崎は立ち上がり、剣を高々と掲げた。空気が震え、周囲の大気が激しく渦巻く。聖剣からは無限の力が溢れ出し、勇吾の全身に流れ込む感覚があった。今や、彼は人の枠を超えた存在となっていた。