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9話:クズ勇者

 街中が慌ただしいことから、魔物の大群が押し寄せているのを知ったのだろう。

 前線に向かうのだろう一段の中に、他とは違った装備を身に着けている、黒髪黒目の男性がいた。


 この世界で黒髪は数が極端に少ないだけで、特別珍しいというわけではない。

 しかし、黒髪黒目となれば話は変わる。かつての勇者も黒髪黒目であり、神聖視されてきた。そしてこの前の勇者の召喚の話しから、あの者は勇者だろうと推測できる。


「アレが勇者か」

「貧弱ではないか」


 勇者を見たエイシアスがそう呟く。

 俺も同感だ。魔王がどの程度の強さを持ち合わせているかは不明だが、勇者にしては弱いとしか言えない。

 勇者の話し声が聞こえてきた。


「どうしてこの俺が前線なんだ!」

「ゆ、勇者様……勇者様が前線に出れば、味方の士気が向上します。それに、みなさんが勇者の勇士を見たがっております。これを乗り切れば、一気に世界に名を馳せることでしょう」

「ふん。そうか……俺の名が世界に……クックック。これで女が言い寄ってくるな。俺は主人公なんだ」


 あー……うん。この勇者、クズだわ。

 女神様、召喚する人間違ってるぞ……

 しかも、どう見ても元同郷の奴だ。

 まあ、死んだら死んだで、それはそれでいいか。俺に喧嘩を売ってくるなら殺すけど。


「もうしばらくしたら、最初の戦闘が始まるな」

「そのようだね」


 魔物の気配が近くなっていた。

 かなりの速度で、こちらに進攻してきているようだ。

 光の騎士団の実力を基準に考えると、それを上回る強さを持っている個体が、それなりの数存在するようだ。


「主、危なくなったら助けるのか?」

「さあ、気分だろうな。この国を助ける義理はないが、良くしてくれた人はいるからな」


 美味しい料理を提供してくれた店主や、宿屋の娘などだ。

 そういった人たちには、死んでほしくないという気持ちが僅かにある。


「そういうものか。そのような感情はあまり理解できないな」

「少しずつ理解すればいいさ」


 そういって俺とエイシアスは、再び観察することにした。

 観察をはじめてから数時間後。

 ついに魔物の大群が、目で見える範囲に捉えた。

 街を囲む城壁の上から、一人のローブに身を纏った男性が声を上げた。


「魔法士、攻撃魔法の準備をはじめよ! 加減などいらん! 全力で魔物どもを焼き払うのだ!」


 詠唱が聞こえ始め、数々の火球が放たれた。

 着弾と同時に爆発を引き起こし、先頭の魔物が死んでいく。そこから次々と魔法が撃ち込まれるが、数は一向に減った様子がない。

 次第に一人、また一人と、魔力が尽きたのか膝を突いている。


「神聖リュミエール王国の守護者たち。光の騎士団よ! 魔物からルミナリアを守護するのだ!」


 そこに先頭に立つ、勇者が白金の剣を引き抜いて天に掲げた。


「俺は剣崎勇吾。女神ルミナ様の加護を受けた、異世界の勇者だ! 恐れるな! 我らは一人ではない! 仲間がいる限り、負けることなど無い! 全力で行くぞ!」

「「「おお!」」」


 勇者の演説で士気が向上する。

 勇者の名前は剣崎勇吾というらしい。やっぱり元同郷じゃねぇか。

 そんな剣崎の口元には小さな笑みが浮かんでいた。


「う~ん。やっぱり自分を大きくみせて、この後言い寄られるのを期待しているのか? バカか?」


 このような状況で、あんなことを考えている勇者はすぐに殺されることだろう。

 理想と現実の区別ができていない、愚か者だ。

 城門が開き、騎士たちが魔物へと突撃していく。


 先頭に立ち、他よりも高性能そうな鎧を着ている七名が、光の騎士団をまとめる騎士団長だろう。

 次々と魔物を切り伏せ、次第に数を減らしていく。

 勇者も当初は引け腰だったが、魔物が倒せるとわかると、自身が付いたのか前に前にと出て魔物を切り伏せていく。


「勇者様、前に出過ぎです! 陣形が崩れてしまいます!」

「うるさい! 俺に指図するな! 俺は勇者だ! この程度問題ない!」

「ですが――」


 一人の騎士団長の言葉を聞かず、勇者はさらに前に前にと出ていく。

 その光景を見て俺は呆れてため息が出てしまった。


「あの勇者、陣形というのをわかっていないのか?」


 俺の言いたいことをエイシアスが代弁してくれた。


「ほんとにな。呆れて言葉もでない」


 四苦八苦しながらも、なんとか魔物の軍勢を押し止めていた。

 聖女も援護をしており、騎士たちを強化したり回復させたりと忙しそうに動いていた。

 彼女も頑張っているようだ。

 しかし、後ろに控えているあいつは倒せるかな?

 俺は後方に控えている、他とは一線を画す魔力を有する魔物の気配を察知して、そう思うのだった。


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