8話:きっと助けてくれる
リリィの元を訪ねてから一週間がすぎた。
その間、特に変わったことはなかった。俺とエイシアスの捜索も今まで通り行われている。
「そろそろ飽きてきたな」
「うむ。何か起きると思っていたが、何も起きないね」
リリィに一言言ってから立ち去る予定ではいる。流石にルミナリアを出て行って、知らずに捜索を続けられるのは申し訳ないからな。
俺にだって申し訳ない気持ちになることはある。
とはいっても、ここまで何も起きないようではつまらない。
「食料を少しだけ買い込んでおくか」
「では行くのか?」
「ここにもう用はな――ッ!」
俺は途中で言葉を止めた。街の外から多くの魔物の気配がするからだ。
エイシアスも迫り来る気配を感じ取ったのか、口元には笑みを浮かべていた。
「面白そうなことになりそうだな。なあ、主?」
「ああ。さて、俺たちは見物でもするとしようか」
俺とエイシアスは大聖堂の先端に移動し、これから起きるのを見物することにするのだった。
◇ ◇ ◇
王宮に一人の騎士が駆け込んできた。
「聖王陛下、大変です!」
「何事ですか」
尋常ではない形相で駆け込んできた騎士に、政務を行っていた聖王は問い質す。
「そ、それが、大森林方面で魔物の大群が観測されました! 数は一万を超えるかと! このままでは、ここ、首都ルミナリアに到達します!」
その報告に、聖王のみならず、他の大臣や護衛に当たっていた騎士達までもが驚愕の声を上げる。
一万の魔物の大群が押し寄せれば、結界があるとはいえ破られることになる。
それだけは何としても防がなければならない。
「全ての騎士を動員し、急ぎ防備を固めよ! 冒険者にも召集をかけるのを忘れるな!」
「直ちに!」
騎士が出ていくと、少しして王宮内が騒がしくなり始めた。
聖王が護衛の指揮に尋ねる。
「聖女リリィと勇者様は?」
「聖女様は大聖堂に。勇者様は王宮内に女性を連れ込み、その……」
「言うな。まったく……」
勇者は召喚されてから数日後、色々と注文を付け始めたのだ。
女がいなければ助けないと言われ、渋々首都の外の街から娼婦を呼び出し用意した。
今では聖女リリィを狙っている始末。
早々に手を打たなければならないのだが、勇者故に処罰することもできないでいた。
しかし実力はあり、光の騎士団団長を超える強さを手に入れている。
聖王は大きな溜息を吐いた。
「勇者様には働いてもらうとしよう。光の騎士団と共に前線に配置するように。聖女リリィには怪我人の治療を優先させよ」
「はっ!」
さらに指示を出していき、程なくして部屋で一人になった。
そんな中、聖女が神託の話をしたことを思い出す。
「女神ルミナ様さえ、恐れるような強さを持つ男か……」
聖女の話しでは、一週間ほどまでに部屋にやって来て話したと言う。
聖女の警護は厳重なはずだが、それを容易く突破し、周囲に気付かれることはなかった。
それだけで高い実力だと伺える。聖女に危害を加えていたなら、この時に殺されているはずだ。
それに聖女は会話の内容を話してくれた。
「楽しませてくれ、か……傲慢な。これだから強者というものは」
強い故に自分勝手が許される。
神託にあった例のテオという男の片割れには、美しい女性がいたという。
その者も強者なのだろうと推測できる。
そのような強者を刺激せずに協力してもらえ、それが今回神託であった。
「無茶を申すものだ……」
胃に穴が空きそうだ。また治療してもらわないと。
聖王は疲れた表情を浮かべるのだった。
扉にノック音が響く。
「リリィです。入ってもよろしいでしょうか?」
「入りなさい」
リリィは「失礼します」と言って部屋に入る。
「全ての準備が整いました。勇者様もすでに騎士団と共に前線へ」
「わかった。それで、テオという者は見つかったか?」
「いえ。あれから探してはいるのですが、見つかりません。ただ……まだこの街に居るのは確かです。彼がこのような場面は見過ごさないと思います」
「楽しんでいるのか……」
その言葉にリリィは「はい」と返事をする。
「ですが、彼はきっと助けてくれると信じています」
「だといいのだが……」
不安に駆られる聖王だった。
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