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7話:楽しませてくれよ?

 逃げてきた俺とエイシアスは、のんびり街を散策していた。

 街中は光の騎士と一般騎士が、俺とエイシアスを探し回っている。

 しかし、誰も俺らには気付かない。エイシアスが認識阻害の魔法をかけているからだ。

 今、みんなからは俺とエイシアスは別人に見えている。


「とりあえず宿を取り直すか」

「主よ、私を野宿させないでくれよ?」

「当然だろ。俺は布団で寝たいんだ」


 もう二度と地べたで寝たくない。

 痛いし、寝ずらいしで最悪だ。魔の森で、エイシアスの城で寝泊まりするまでずっと簡易的な寝床だったのだ。ほとんど地べたと言っていい。

 適当な宿を探して、それなりに良い部屋を取ることに。


「主のことだから、すぐにこの国を出ると思っていたが」

「騎士と鬼ごっことか面白そうだろ。それに、神託で俺とエイシアスを探していた。聖女と勇者もいるんだから、近々何か起こりそうだろ?」


 神託で俺を指名した女神ルミナが、何者なのかはこの際だからおいておくとして。

 絶対に何か起きるという予感がある。


「ふむ。そう言われたら気になる」

「だろ?」

「主の言う通り、大人しくその時を待つとしよう」

「だな」


 俺とエイシアスの方針は決まった。

 あとはその時を待つだけである。



 ◇ ◇ ◇



「まだ、テオ様は見つからないのですか?」

「はい。泊っていたと思われる宿屋を見つけたのですが、もぬけの殻だったようです」

「え?」


 騎士から報告を受けていたリリィは、思わず声を上げてしまった。

 まさか逃げ出すとは思っていなかったのだ。

 どうして逃げたのかはわからないが、あの時の目を見ればわかる。

 私たちに良い印象は持ち合わせていないのだろう。だから関りを持ちたくなかったのだろう。


「かの者はまだこのルミナリアを出た形跡はございません」

「捜索は続けてください。見つけても丁重に接してください。テオ様の力はルミナ様ですら分からないほどのようですから」

「なっ⁉ それは“使徒”では……?」


 使徒とは、神の御使いと言われ、この国では神聖視され崇め奉る存在だ。

 聖王ですら膝を突かなければならないのだ。


「いえ。それであればルミナ様がそうおっしゃります。ですので、使徒ではないでしょう」

「わかりました。では、引き続き捜索をさせていただきます」

「お願いいたします」


 下がっていく騎士を見届け、リリィはドカッと疲れたように座り、窓から見える月明かりを眺めた。

 そこに二人の人影が写り込んだ。

 それはあの時、大聖堂で視線が合った少年であり、探していた人――テオとエイシアスであった。

 リリィが窓を開けると、二人が窓際に近づくと空中に椅子が現れ、それに座った。


「やあ、聖女様。今宵は良い夜だと思わないか?」



 ◇ ◇ ◇



 夜の散歩に出ていた俺は、なんとなく聖女と話したくてエイシアスとともにやってきた。

 逃げて時を待つってのもアリだったが、ほんの気まぐれだ。


「……ええ。とても良い夜だと思います。テオ様」

「俺の名前を知っていたか。神託か? それも宿で名前を調べたか?」

「神託です。そちらの方は?」


 視線を向けられたエイシアスは自己紹介をする。


「私はエイシアスだ。小娘、覚えていなくても構わない」

「エイシアス様ですね」


 一瞬の静寂。先に口を開いたのはリリィだった。


「私は今代の聖女をしていますリリィと申します。大聖堂で目が合いましたね」

「リリィか。まあ、覚えておくとしよう。大聖堂か。たしかにあの時は目が合ったな。まあ、そんなことはどうでもいい。どうして俺を探している?」


 俺がそう告げながら威圧すると、リリィは小さくだが「うっ」と苦悶の声を漏らす。


「め、女神ルミナ様の神託で、迫る危機にテオ様のお力が必要なのです。ですから――」

「断る」


 俺は言葉を途中で遮って答えた。

 しかし、俺の答えを聞いたリリィは驚いた表情を浮かべた。


「く、国の危機なんですよ⁉ どうしてお力を貸して下さらないのですか?」

「ははっ、魔王が復活した程度で勇者を召喚。神託で人探し」

「……何が言いたいのですか?」


 リリィの張り付けた笑みが消え、真剣な表情となる。


「全部女神ルミナとかいうやつの言いなりか?」

「――っ! ルミナ様を侮辱するのですか⁉」

「どう捉えるかはお前次第だ。そんなだからお飾りなのさ」

「……」


 リリィはそれを聞いて黙ってしまった。


「よく考えることだな。それじゃあ、行くとしよう。まだまだ面白そうなことが起きそうだ。当分は見学でもさせてもらうさ」

「聖女よ、少しは楽しませてくれよ?」


 俺とエイシアスはそれだけ告げてリリィの元を去るのだった。


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