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4話:聖女

 祭壇を後にした俺は、ルミナリアの大聖堂の中にある光の泉の前に立っていた。静けさが漂うこの場所では、心の鼓動だけが聞こえるようだ。

俺は、巡礼者の一人が水を手にすくい、顔を洗う姿を目にした。彼の顔には安堵の表情が浮かび、まるで心の中の重荷が取り去られたかのようだった。


 まあ、俺はやらないんだけどね。

 周囲の巡礼者たちも、それぞれに異なる想いを抱えているのだろう。彼らの中には、愛する者のために祈る人、過去の過ちを清めようとする人、そして新たな一歩を踏み出す勇気を求める人がいるはずだ。


 そんなもの、俺だったらクソくらいだと吐き捨てる。

 祈ったところで願いなど叶えてはくれない。

 エイシアスを見るとつまらなさそうな表情を浮かべていた。


「つまらなさそうだな?」

「当然だ。なんの魔力も神聖さも感じない。ただの泉だ」

「だな。だが、それに縋る人、祈る人がいる。それが人だ」

「そのようなものか」


 俺とエイシアスは巡礼者に睨まれるが、それを無視して大聖堂の中を見学する。

 巨大で荘厳な扉の前では、多くの人が跪き祈りを捧げていた。

 何をしているのか隣の旅人だろう人に聞いてみた。


「アレは何をしているんだ?」

「あれか? 過去の英雄や聖女、騎士たちに祈りを捧げているのさ」


 どうして扉なのか?

 そんな俺の疑問に旅人は答えた。


「あの扉の先は地下に繋がる階段がある。その先に納骨堂があるんだとさ」


 詳しく話してくれた。

 大聖堂の地下には、聖なる騎士や過去の聖女たちの遺骨が安置された納骨堂がある。ここは光の力で守られているとされ、亡き英雄たちが永遠の安らぎを得る場所とのこと。

 納骨堂前で信者たちはここで亡き者たちへの祈りを捧げ、平和を願っているらしい。


「ふーん」


 正直言ってどうでもよかったし、興味もなかった。

 俺が死霊魔法とか使えれば、興味が湧くのだろう。過去の英雄など戦力強化に仕えるからだ。


「そうか。ありがとさん」

「別にいいってことよ」


 旅人と別れ、エイシアスにそろそろ出て行こうかと尋ねる。


「うむ。もう見るところはないな。聖女も勇者もいないようだ」

「だな。ただ観光しただけになった。外の露店で何か食べるか」

「そっちの方が楽しそうだ」


 大聖堂を出ようと、入ってきた場所へと向かうとざわついていた。

 すると騎士たちが道を開くように先導しており、後ろから一人の少女が歩いてきた。

 周囲の人が「聖女様だ」と膝を突いて祈りを捧げていた。


俺は思わず嘲笑を抑えるのに苦労した。

 これが、この国が崇める『聖女』とやらか。予想以上にか弱そうな存在だ。まるで、嵐の中に置かれた一輪の花のように見えるが、俺にとってはただの脆いガラス細工だ。いつ砕け散ってもおかしくないような――その程度の存在。


 しかし、目を引いたのは彼女の髪だった。柔らかなピンク色で、まるで朝焼けに染まる雲のように、風にそよいでいる。その髪は長く、腰まで流れ落ち、光を受けて輝いている。

 それは、この冷たい世界に差し込む唯一の温もりのようだった。


 整った可愛らしい顔をしているが、表情は典型的な聖職者のそれだ。清廉で、感情を押し殺したような穏やかな表情を浮かべている。大きな瞳は澄み切っていて、まるでこの世の汚れを一切知らないかのような無垢さがそこにはあった。それがまた腹立たしい。

 俺からすれば、この無知で愚かな姿はただの嘲りの対象でしかない。だが、彼女がどれほど無力であろうと、それを示すことはこの場では控えておこう。


 彼女の服装は神聖な儀式にふさわしい装いで、女神ルミナに仕える者らしく、白を基調とした純白のローブを纏っている。そのローブには、金糸で繊細な刺繍が施され、光を反射して輝いていた。肩や胸元には薄いベールのような布が垂れ、まるで光そのものを纏っているかのような神秘的な雰囲気を醸し出している。足元まで続くその衣装は、静かに揺れるだけで、彼女の歩くたびにふわりと浮かび上がる。


 美しい? そうだな、誰かがそう評価するだろう。だが俺には、ただの飾り物にしか見えない。


 彼女の手には、神聖な杖が握られている。細く長いその杖は、彼女の力を示すものだろうが、私にはその力がどれほどのものかなど興味が湧かない。私の目に映るのは、その杖を握る小さく繊細な手と、杖の先端に取り付けられた光の石だけだ。


 そして、彼女の姿の中で最も滑稽なのは、その背中に揺れる光の紋章だ。ピンクの髪が風に舞うたび、その光の模様が露わになる。信仰の象徴としての力を示しているのだろうが、俺にはただの無意味な装飾にしか見えない。それが彼女に何かを与えるとは到底思えない。強さは力によってのみ示されるのだから。


 彼女がこちらに視線を向けた瞬間、その澄んだ瞳が一瞬だが俺を捉えた。

無垢な光で俺を見つめるその目には、何の恐れも、疑いもない。まるで、この世界が全て美しいもので満ちているかのように信じきっている表情だ。その純粋さに、俺はただ鼻で笑った。こんなに脆く、無防備な存在がいるのかと。


「まるで飾り物だな。つまらないものを見た気分だ。期待して損した」


 俺はわざと声に出して呟く。

彼女にはそれが届いており、驚いた表情をしていたが、すぐに先ほどの表情に戻った。

 ただその瞳で俺をジッと見つめ続けていた。


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