2話:良い宿屋
街に入り、俺とエイシアスはまず、宿を探すことに。
街を散策しながら宿屋を探す。
ほどなくして、美味しそうな匂いが漂ってくる宿屋があった。
「これは当たりか?」
「私もそう思う」
エイシアスも同じことを思ったようだ。
「食欲がそそられる料理を出す宿が悪いはずがない。だって、いい料理を作る人に悪い心なんて持てるはずがないから」
「主の言う通り、これは心良き料理人に間違いない」
俺とエイシアスはその宿屋に入ると、一人の少女が料理を運んでいた。
ちょうど夕食時だったようだ。
「あっ、いらっしゃい! お二人さん?」
「二人だ。部屋は一つでいい。空いているか?」
「ちょうど一室、空いてるよ」
運が良かったようだ。
それに運んでいる料理を見ると、当たりのようだ。
「んじゃ、とりあえず一週間で」
「はーい。えっと――」
会計を済ませ、部屋の鍵をもらう。
「旅人さん、夕食はどうするの?」
「一度部屋に行ってからここで食べる」
「それじゃあ準備しておくね!」
部屋に入ると、とても清楚に保たれており、隣との壁も分厚いようだ。
ただ、あまり五月蠅くしては隣に響くだろう。
「悪くない宿だ」
「うむ。あの娘も中々に良い心を持っているようだ」
エイシアスも気に入ったなら良かった。
下の食堂に降りて席に着くと、すぐに先ほどの少女が料理を運んできた。
「はいよ、今日はボアのステーキだよ」
大きな木製のテーブルに置かれたのは、ワイルドボアという魔物の肉のステーキ。
鉄板から立ち上る香ばしい煙が食欲をそそる。焦げ目が付いた厚い肉は、ナイフで切り裂けそうなほどにしっかりとした赤身を持ち、周囲には溢れ出した肉汁がじゅうじゅうと音を立てている。
香草の香りがふんわりと漂い、付け合わせの野菜には濃厚なソースが滴り落ち、湯気を上げている。ナイフを通すと、驚くほど柔らかく、簡単に肉の断面が現れた。中はほんのりとピンク色を残し、ジューシーさを感じさせる完璧な焼き加減だ。
一口噛むと、まずは香ばしい焦げ目の風味が口いっぱいに広がり、次いで濃厚な旨味が押し寄せる。普通の肉では感じられない、どっしりとしたワイルドな味わいが口の中に広がり、まるで森の力が凝縮されたような味だ。噛むたびに広がる豊かな風味とともに、肉汁が舌の上を踊るように流れ込む。
俺は用意されたエールを片手に持ち流し込む。
「――ぶはぁ! 美味い!」
「噛むたびに肉の旨味が溢れ出して、まるで森そのものを食べているみたいだ。力が漲ってくる感じがするよ……普通の肉とは全然違う。これを食べたら、どんな戦いでも乗り越えられそうだよ」
エイシアスも絶賛していた。
当たりというか、大当たりを引いてしまったようだ。
「お気に召したようでなによりだよ!」
「これは明日も楽しみだ」
「期待せざるを得ないな」
「ありがとう! 二人みたいな美男美女に言われたらお父さんもお母さんも喜ぶよ!」
少女は「ゆっくりしていってね」と言って他の仕事に戻っていった。
俺とエイシアスはゆっくり食事を楽しむのだった。
翌朝、朝食を食べていると、昨日の少女が話しかけてきた。
「二人も勇者を見に来たの?」
「ん? まあ、そうだな。どんな奴か見に来ただけだ。あと、聖女も見れるなら一目見て見ようかなと」
「聖女様なら大聖堂だよ」
「そうなのか? 聖女について全く知らないから説明してくれると有難い」
「いいよ!」
少女は聖女について説明する。
聖女は、女神ルミナから特別な加護を受けた存在であり、国と信仰の象徴として崇められる重要な役割を持つという。女神ルミナの意志を体現し、国民や騎士たちを導く精神的なリーダーとして、その影響力は大きく、聖王にも並ぶという。
聖女の主な役割は、女神の代行者として神託を授かるのが役目なのと、信仰の守護者として国、民の支えになること。
勇者召喚の儀式や、収穫祭、祝福を行う祭典などの儀式においても不可欠のようだ。
「聖女はどうやって選ばれるのだ?」
エイシアスが少女に問う。
俺も気になっていたが、大体は予想が付く。
「生まれつき特別な力を持つ少女が選ばれることが多いみたい。新たな聖女が必要となった場合は、神殿の司祭や占い師たちが神託を受け、その候補者を探すみたいだよ。候補者は若い女性で、厳しい試練を乗り越えて聖女としての資格を証明しなくちゃいけないみたい」
「聖女に選ばれるのも大変だな」
「だね~。聖女になれれば特別な力だって授けられるのに」
「特別な力?」
聖女というだけあって、神聖な力なのだろう。
少女は「詳しくは知らないけど」と前置きをして話してくれた。
聖女は、他の者にはない特別な神聖な力を持っており、この力は、女神ルミナから直接授けられたもので、国や民を守るために使われる。
邪悪な存在や呪いを浄化し、祈ることで病気や呪われた土地が浄化されるらしい。
聖女は、女神ルミナからの神託を受け、国の未来や危機を予見することができる。この予言の力は、戦争や国難の際に重要な役割を果たすと言う。
最後は勇者の召喚。
聖女が儀式を行うことで、異世界から女神の祝福を受けた勇者を召喚するというものだ。
「まあ、他にもあるんだろうけど、公になっているのはこのくらいだよ」
「勉強になった。ありがとう」
俺は少女にチップを渡す。
「これくらいお安い御用さ! また何かあれば声をかけてね!」
そう言って少女は仕事に戻ってしまった。