5話:汚い花火だ
宿に戻った俺とエイシアスのその後は特に変化はない。
また面倒な奴が絡んできたなくらいの感覚だ。
王族の護衛を殺した時点で問題なのだが、怖気づいたのか追って来る様子はなかった。
「明日はどうするのだ?」
食事をしているとエイシアスが問うてきた。
俺は思案する。
レオナードが何かしてくる可能性はあるが、脅威でもなんでもないので今は無視一択だ。
海鮮料理を楽しみ、ヴァルミス港の観光名所はほとんど巡ってしまったので、ここで出来ることはほとんどない。
「どうしよっか」
俺の呟きにエイシアスも考えてくれている様子。
もう数日ゆっくりダラダラしていてもいい気がしてきた。ヴァルミス港はわりと過ごしやすい街で、料理もおいしいので文句なしだ。
そこで俺は思い出した。
「冒険者ギルドに行ってなかった」
「む? 金には余裕があるだろう?」
「そうだけど、どういう依頼があるのか気になってな。ここって港町だし」
港町なら変わった依頼もあると思うんだよね。
「なるほど。では明日はギルドに行ってみるとしようか」
「だな」
翌日。俺とエイシアスの機嫌は最悪だった。
なぜなら、宿の前で騎士たちが待ち構えていたからだ。
後ろの方ではレオナードが立ってニヤニヤと笑みを浮かべている。
そんなレオナードが一歩前に出て口を開いた。
「聞け、冒険者。貴様らは王族に対する不敬罪で拘束する」
「それで?」
「……は?」
レオナードから間抜けな声がもれた。
俺とエイシアスが許しを乞うと思っていたのだろうか?
「要件がそれだけなら行くぞ? 今日は冒険者ギルドに行こうと思っていたんだ」
「邪魔をするでない」
その言葉にレオナードや騎士、周囲の人たちまでもが唖然としていた。
行こうとして、騎士が立ち塞がり剣を抜いた。
「……何の真似だ?」
「拘束すると言っているだろう⁉」
俺は思わずため息を吐いてレオナードを睨み付ける。
「王子、昨日言ったはずだよな? 次は殺すって。まさか忘れたわけではないだろう? それかあれか。手紙を読んで俺へのやつ当たりか?」
殺気を込めて告げると、レオナードが怯え後退りながらも、次の瞬間にはキッと怒りを露にした。
「先ほども告げたはずだ。不敬罪だと。そこの女も一緒だ」
「だとさ。エイシアス、どうする?」
「昨日、次は殺すと言ったんだから殺していいのでは?」
「だよな。まあ、気分次第かな」
俺とエイシアスの会話に、騎士たちの表情がより一層引き締まる。
全員が剣を抜き、構える。
いつもなら賑やかな通りも、今では静寂に包まれている。
そして、俺は静かに指を構えた。
空気が一瞬凍りつくように感じたのは、周囲の者だけではない。
まるで世界そのものが息を潜め、俺の動作を待っているかのようだった。
指先がゆっくりと近付く。緊張が高まり、心臓の鼓動が耳に聞こえそうだ。音も、声も、すべてが薄れていく中で、俺の口元が僅かに弧を描いた。
騎士の一人が危険を察知したのか、動こうとして――乾いた音が響いた。
――パチンッ
その音は周囲の空気を切り裂くように響き渡った。すぐに、目に見えない力が足元から湧き上がり、騎士たちを一斉に押し潰し始める。重力だ。
「……!」
誰もが驚愕の表情を浮かべ、身体を支えようとするが無駄だ。膝が折れ、力が抜けたように全員が地面へ沈み込んでいく。顔を苦悶に歪めながら、抵抗しようと必死にもがいている。
だが、俺が操る重力は容赦なく彼らの体を押し下げて、地面に這いつくばらせる。
抵抗するだけ無駄だ。
心の中でそう呟いた。
彼らが見ているのは、ただの現象じゃない。俺の意思、俺の力そのものだ。
騎士たちは、まるで巨大な手に押し付けられるかのように、額を地面にこすりつけ、呼吸さえ苦しくなっているのがわかる。
「い、一体……なに、が……」
苦しそうな声が耳に届く。
無様な姿に目を向けると、誰もが地面に顔を埋め、全身を押し潰されている。
膝も手も震えているが、どうやっても持ち上がらない。
どれだけ強靭な意志や体力を持っていようとも、重力の前では無意味だ。
「……その程度か?」
俺が冷たく見下ろしながら、今度はコツンと靴先で地面を叩く。音と共に、さらに強い力がかかり、騎士たちがさらに地面に押し付けられる。
まるで彼らの体が大地に飲み込まれるかのようだった。
息遣いだけが苦しそうに響く中、俺は重力の支配を少し緩めた。
事情も知らずにレオナードに連れてこられたのだ。一回くらいはチャンスを上げようではないか。
顔を上げた彼らは、俺を恐怖に染まった目で見上げていたが、その瞳に映るのはただの絶望だった。
地面に這いつくばり、無力さを突きつけられたその瞬間――彼らは、俺に逆らうことが愚かだとようやく理解したのだろう。
「見逃すのは一度だけだ」
そこの王子と違ってこの騎士たちはとても利口だ。
俺は未だに無事なレオナードへと一歩ずつ歩み寄る。一歩近づくごとにレオナードが一歩ずつ後退り――壁に当たった。
「あ、そ、その……」
何かを言おうとしているが、関係ない。レオナードは俺の忠告を無視したのだ。
そこに一人の騎士が俺に口を開いた。
「あの……」
「なんだ? もしかしてコイツを庇うのか?」
「……はい。我が国の王子です。どうか見逃しては――」
その瞬間、口を開いた騎士の身体が弾け、血肉を撒き散らした。
誰もが押し黙った。
問答無用で殺したからだ。
周囲の人々がその光景を見て悲鳴を上げたが、俺は構うことなく告げる。
「言ったはずだ。見逃すのは一度だけだと。それはコイツも同様だ。昨日、忠告した。次は殺すと」
「ヒィッ……⁉」
レオナードが尻もちを着き、地面に染みを広げる。
王子なのに民衆の前で漏らすとは、なんと情けない……
「覚悟はできているんだろうな? いいや。しているはずだ」
「ご、ごめんなさい! ごめんなさいごめんなさ――」
「黙れ」
俺はレオナードの頭を鷲掴みにし、顔を近付ける。
「忠告はした。それをお前が無視したんだ。それに、最初に喧嘩を売ったのはお前だろ」
「お、俺は王族だぞ! このようなことあってはならない!」
「はぁ? なら俺を殺してみろよ。できないんだろ? だから部下をこんなにも引き連れて来たんだ。お前は弱者だ。冥土の土産に教えてやる。権力なんて暴力の前では無意味だ。知れて良かったな。来世で活かせよ」
俺はレオナードを上に放り投げる。
「ま、まってく――」
そして――爆散して血の花を咲かせた。
「汚い花火だ」
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