表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/108

5話:汚い花火だ

 宿に戻った俺とエイシアスのその後は特に変化はない。

 また面倒な奴が絡んできたなくらいの感覚だ。

 王族の護衛を殺した時点で問題なのだが、怖気づいたのか追って来る様子はなかった。


「明日はどうするのだ?」


 食事をしているとエイシアスが問うてきた。

 俺は思案する。

 レオナードが何かしてくる可能性はあるが、脅威でもなんでもないので今は無視一択だ。

 海鮮料理を楽しみ、ヴァルミス港の観光名所はほとんど巡ってしまったので、ここで出来ることはほとんどない。


「どうしよっか」


 俺の呟きにエイシアスも考えてくれている様子。

 もう数日ゆっくりダラダラしていてもいい気がしてきた。ヴァルミス港はわりと過ごしやすい街で、料理もおいしいので文句なしだ。

 そこで俺は思い出した。


「冒険者ギルドに行ってなかった」

「む? 金には余裕があるだろう?」

「そうだけど、どういう依頼があるのか気になってな。ここって港町だし」


 港町なら変わった依頼もあると思うんだよね。


「なるほど。では明日はギルドに行ってみるとしようか」

「だな」


 翌日。俺とエイシアスの機嫌は最悪だった。

 なぜなら、宿の前で騎士たちが待ち構えていたからだ。

 後ろの方ではレオナードが立ってニヤニヤと笑みを浮かべている。

 そんなレオナードが一歩前に出て口を開いた。


「聞け、冒険者。貴様らは王族に対する不敬罪で拘束する」

「それで?」

「……は?」


 レオナードから間抜けな声がもれた。

 俺とエイシアスが許しを乞うと思っていたのだろうか?


「要件がそれだけなら行くぞ? 今日は冒険者ギルドに行こうと思っていたんだ」

「邪魔をするでない」


 その言葉にレオナードや騎士、周囲の人たちまでもが唖然としていた。

 行こうとして、騎士が立ち塞がり剣を抜いた。


「……何の真似だ?」

「拘束すると言っているだろう⁉」


 俺は思わずため息を吐いてレオナードを睨み付ける。


「王子、昨日言ったはずだよな? 次は殺すって。まさか忘れたわけではないだろう? それかあれか。手紙を読んで俺へのやつ当たりか?」


 殺気を込めて告げると、レオナードが怯え後退りながらも、次の瞬間にはキッと怒りを露にした。


「先ほども告げたはずだ。不敬罪だと。そこの女も一緒だ」

「だとさ。エイシアス、どうする?」

「昨日、次は殺すと言ったんだから殺していいのでは?」

「だよな。まあ、気分次第かな」


 俺とエイシアスの会話に、騎士たちの表情がより一層引き締まる。

 全員が剣を抜き、構える。

 いつもなら賑やかな通りも、今では静寂に包まれている。

 そして、俺は静かに指を構えた。


 空気が一瞬凍りつくように感じたのは、周囲の者だけではない。

 まるで世界そのものが息を潜め、俺の動作を待っているかのようだった。


 指先がゆっくりと近付く。緊張が高まり、心臓の鼓動が耳に聞こえそうだ。音も、声も、すべてが薄れていく中で、俺の口元が僅かに弧を描いた。

 騎士の一人が危険を察知したのか、動こうとして――乾いた音が響いた。


 ――パチンッ


 その音は周囲の空気を切り裂くように響き渡った。すぐに、目に見えない力が足元から湧き上がり、騎士たちを一斉に押し潰し始める。重力だ。


「……!」


 誰もが驚愕の表情を浮かべ、身体を支えようとするが無駄だ。膝が折れ、力が抜けたように全員が地面へ沈み込んでいく。顔を苦悶に歪めながら、抵抗しようと必死にもがいている。

 だが、俺が操る重力は容赦なく彼らの体を押し下げて、地面に這いつくばらせる。


 抵抗するだけ無駄だ。


 心の中でそう呟いた。

 彼らが見ているのは、ただの現象じゃない。俺の意思、俺の力そのものだ。

 騎士たちは、まるで巨大な手に押し付けられるかのように、額を地面にこすりつけ、呼吸さえ苦しくなっているのがわかる。


「い、一体……なに、が……」


 苦しそうな声が耳に届く。

 無様な姿に目を向けると、誰もが地面に顔を埋め、全身を押し潰されている。

 膝も手も震えているが、どうやっても持ち上がらない。

 どれだけ強靭な意志や体力を持っていようとも、重力の前では無意味だ。


「……その程度か?」


 俺が冷たく見下ろしながら、今度はコツンと靴先で地面を叩く。音と共に、さらに強い力がかかり、騎士たちがさらに地面に押し付けられる。

 まるで彼らの体が大地に飲み込まれるかのようだった。


 息遣いだけが苦しそうに響く中、俺は重力の支配を少し緩めた。

 事情も知らずにレオナードに連れてこられたのだ。一回くらいはチャンスを上げようではないか。


 顔を上げた彼らは、俺を恐怖に染まった目で見上げていたが、その瞳に映るのはただの絶望だった。

 地面に這いつくばり、無力さを突きつけられたその瞬間――彼らは、俺に逆らうことが愚かだとようやく理解したのだろう。


「見逃すのは一度だけだ」


 そこの王子と違ってこの騎士たちはとても利口だ。

 俺は未だに無事なレオナードへと一歩ずつ歩み寄る。一歩近づくごとにレオナードが一歩ずつ後退り――壁に当たった。


「あ、そ、その……」


 何かを言おうとしているが、関係ない。レオナード(コイツ)は俺の忠告を無視したのだ。

 そこに一人の騎士が俺に口を開いた。


「あの……」

「なんだ? もしかしてコイツを庇うのか?」

「……はい。我が国の王子です。どうか見逃しては――」


 その瞬間、口を開いた騎士の身体が弾け、血肉を撒き散らした。

 誰もが押し黙った。

 問答無用で殺したからだ。

 周囲の人々がその光景を見て悲鳴を上げたが、俺は構うことなく告げる。


「言ったはずだ。見逃すのは一度だけだと。それはコイツも同様だ。昨日、忠告した。次は殺すと」

「ヒィッ……⁉」


 レオナードが尻もちを着き、地面に染みを広げる。

 王子なのに民衆の前で漏らすとは、なんと情けない……


「覚悟はできているんだろうな? いいや。しているはずだ」

「ご、ごめんなさい! ごめんなさいごめんなさ――」

「黙れ」


 俺はレオナードの頭を鷲掴みにし、顔を近付ける。


「忠告はした。それをお前が無視したんだ。それに、最初に喧嘩を売ったのはお前だろ」

「お、俺は王族だぞ! このようなことあってはならない!」

「はぁ? なら俺を殺してみろよ。できないんだろ? だから部下をこんなにも引き連れて来たんだ。お前は弱者だ。冥土の土産に教えてやる。権力なんて暴力の前では無意味だ。知れて良かったな。来世で活かせよ」


 俺はレオナードを上に放り投げる。


「ま、まってく――」


 そして――爆散して血の花を咲かせた。


「汚い花火だ」


最後までお読みいただいてありがとうございます!


【私から読者の皆様にお願いがあります】


『面白い!』

『続きが気になる!』

『応援したい!』


と少しでも思っていただけた方は


評価、ブクマ、いいねをしていただければモチベーション維持向上に繋がります!


現時点でも構いませんので、


広告↓にある【☆☆☆☆☆】からポチッと評価して頂けると嬉しいです!


お好きな★を入れていただけたらと思います!


よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ