3話:神殿と庭園
当初は不穏な気配を感じていたが、ここ数日はエイシアスと共に楽しい日々を送っている。
海岸で海を眺めながら、漁師が海に出ていく姿が見られる。
「今日もエスリオン様のご加護があられますように。ほら、お前もエスリオン様に祈願するんだ」
息子だろう青年を叱りつける漁師の親子の姿があった。
エスリオンとは、ここシーヴェリス王国で崇拝されている海と航海の守護神であり、海洋貿易に繁栄をもたらす存在とされている。
王国と古くから結びついているが、聞いた話なのでそこまで細かいことは知らない。
「主よ、今日はどうするのだ?」
エイシアスの問いに俺は考える。
この数日である程度は見て回った。行ってない場所は神殿くらいだろうか。
「神殿でも行ってみるか?」
神殿と聞いてエイシアスの表情が曇る。
どうしたのかと尋ねるとエイシアスはその理由を答える。
「神などどうしようもない存在だろう? それに存在しない神に祈るなどどうかしている」
まあ、俺もどうかしていると思う。
前世でも他宗教な世界だったので違和感はない。
この世界でも色々な宗教があるも、俺はどうでもいいので詳しくは知らない。
「でも遠くから見ても綺麗な建物だろ? 見る分にはいいんじゃないか?」
「それもそうか」
納得したことで俺とエイシアスは、丘にある神殿へと向かった。
程なくして神殿が見えてきた。
ヴァルミス港の東側、緩やかな丘にそびえ立つエスリオン神殿は、まるで海を見守るかのようにその威容を示している。
白く輝く大理石の壁は、昼間の太陽の光を浴びて海のように青く輝いていた。
夕暮れには赤く染まり、夜になると月光を反射してまるで幻想的な光を放っているように見えたのは凄かったのを覚えている。
神殿へと続く道は、石畳で整えられ、丘を登るにつれて次第に視界が開け、目の前に広がる壮大な建築物が姿を現した。
入り口の前には、巨大な階段が広がり、その両脇には海の神エスリオンを象徴する二頭の海竜の像が立ち並んでいる。これらの像は、荒々しくも優雅な曲線を描き、海の力強さと神聖さを表現しているかのようだ。
「これは思ったより壮観だな」
「いやしない神のために建てるとは、人間とは愚かだな」
「おい、俺も馬鹿にしているか?」
「主は別さ。主以上に素敵な人はいないさ」
まあいいかと俺は神殿へと視線を移し階段を登っていく。
階段を登りきると、正面に扉があった。
扉は真鍮製で、神秘的な光沢を放っている。その表面には、海を渡る船と、嵐を静める神エスリオンだろう姿が彫り込まれ、海の神が船乗りたちを守ってきた古代の伝説を伝える。
扉の上には、風化したが威厳を失わない古代文字が刻まれており、「エスリオンよ、海を征するものたちを守り給え」と記されている。
ちなみに俺は古代文字など読めない。
読んだのはエイシアスである。
神殿は全体としてシンプルでありながら、力強さを感じさせるデザインが施されている。
円柱が並ぶ回廊は、建物の周囲を取り囲み、潮風が吹き抜けるたびにその柱間で静かな音が響く。
円柱の一つ一つには海洋生物が彫刻され、古代の職人たちが海への畏敬を込めて作り上げたことが窺える。
エイシアスが「ほぉ……」と感嘆の声を零していることからも、美しい仕上がりだと分かる。
内部に進むと、そこは外の壮大さとは対照的な静寂が支配する神聖な空間があった。
中央に据えられた祭壇には、波の形を模した彫刻が施された水晶の器が置かれ、そこに神聖な海水が満たされている。その水は常に澄んでおり、船乗りたちは航海の安全を祈って、この水を掬い上げて自らの額に塗るという。
というか塗っていた。
エイシアスがその光景を見て「理解ができない……」と呟いていたのはご愛敬。
俺は天上を見上げる。
天井は高く、中央に開かれた丸い窓から差し込む自然光が、常に祭壇を照らしていた。
外の海の穏やかさ、あるいは荒れ狂う波が、その光の強さや揺れ具合で表現されるのだろう。時折、窓から差し込む光が虹のように広がり、訪れる者の心に平穏をもたらしているかのようだった。
エイシアスも悪くないと思っているのか、静かに神殿を鑑賞している。
そのまま移動して神殿の外に出た。
神殿を囲む庭園には、海風に揺れる青い花々が咲き誇り、静かに波の音が聞こえてくる。
船乗りや商人たちは、神殿の前で一息つき、祈りを捧げる前にこの庭園で心を落ち着けていた。
遠くにはヴァルミス港が見下ろせ、船が行き交う光景は、まるでエスリオン神自身がそれを見守っているかのように見える。
俺とエイシアスは庭園に置いてある弁へと腰を下ろした。
「白亜の神殿に青い花。悪くないセンスをしているよ」
「お眼鏡に叶ったようでなによりだよ。でも、芸術とかにあまり興味がない俺でも綺麗だと思った」
俺は素直な感想を口にする。
俺の言葉を否定しないあたり、エイシアスも同様のことを思っているのだろう。
庭園でのんびりと、波の音を聞きながら過ごすのだった。
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