2話:観光
目を覚ますと陽は天高く昇っており、今が昼時だというのが見て取れる。
隣を見るとエイシアスがまだぐっすりと寝ており、小さく寝息を立てていた。
昨夜、またまたエイシアスに誘惑されて致してしまったが、まあいいだろう。
エイシアスを起こさないようにベッドからおり、水を飲んで喉を潤して窓の外を見る。
今日は何をしようかと考える。
元々は海鮮料理を食べまくるのが目的だ。
昨日はかなり食べたが、それでもまだ食べてない料理が沢山ある。
今日もエイシアスと一緒に食べることになるだろう。
程なくしてエイシアスが起きた。
「ん~……あるじ、もう朝か?」
眠たそうで色っぽく、それでいて艶やめかしい声色で問いかけるエイシアスが、瞼を擦りながら俺を見る。
「もう昼だ。それと服を着ろよ?」
「ん、着させてくれ」
「自分で出来るだろ……」
とは言いつつも、俺はエイシアスに服を着せて髪を整える。
「面倒くさそうにしながらもやってくれる主は大好きだ」
「そうかい」
微笑むエイシアスは美しく、見慣れている俺でも見惚れそうになる。
しかし表情に出さないのが俺である。
俺のそっけない態度にエイシアスは「むーっ」と頬を膨らますが、それがまた可愛らし――じゃない!
「早くしろ。お腹空いた」
「うむ。同感だ」
俺とエイシアスが宿を出る。
昨日はただ、露店が立ち並ぶ場所で買い食いをしていただけで、本格的な観光は今日から。
今日行く場所は大市場と呼ばれる、港のすぐ隣に位置する大規模な市場のことで、このヴァルミス港の中心的な商業エリアのことである。
石畳の広場に沿って、露店や常設の店が軒を連ね、地元の特産品や各国から輸入した品まで様々な商品が並んでいると聞いた。
歩いて数分。すぐに大市場へとやってきた。
市場は非常に賑やかで、香辛料の香りや異国の果物などが山積みにされ、地元の漁師たちが新鮮な魚を売りさばいていた。
市場の上空には、カラフルな布や旗がはためき、異国情緒あふれる風景が広がっている。
街角で楽器を奏でる音楽家や芸人が即興のパフォーマンスを披露し、祭りのようなにぎやかさが絶え間なく続いていた。
「ずいぶんと賑やかなことだ」
「同感だな。けど、これもまた一興だろ?」
俺の言葉にエイシアスが同意する。
それから俺とエイシアスは市場を巡り散策する。
途中、エイシアス目当てで絡んできた輩がいたので適当にシバいておいた。
周囲の人はそれを見て笑っていたので、よくあることなのだろう。
「主よ、色々と変わった物も多い。興味がそそられる」
「他国からの品も多いからだろうな。買っていくか? どうせかさばらないだろ」
エイシアスには空間に収納する魔法がある。
なので俺たちはほとんど手荷物がなく旅をできているし、買い物もできる。
「うーむ。調度品がほしいくらいだ。あとで暮らす屋敷や城に置いておきたい」
「調度品って……」
あの城には何も置いてなかっただろ……
「私はこう見えて芸術を嗜むのだ。意外だろう?」
「意外だったね。城には何もなかったんだ」
「あったであろう? 花が」
エイシアスの言う通り、魔法で精巧に作られた花があった。
まさか鑑賞していたとは思いもしなかった。
「生きている花は、咲くたびに死を迎えると知りながらも、それでも花は美しさを誇る。しかし、魔法で作られた花は、現実では見られない色合いと美しさがある。また、手で触れることは出来ないが、心に触れる美しさがあるのだよ」
「なるほどな。なら今度、美しい花でも探しに行こうか」
「それでこそ主だ」
嬉しそうに微笑むエイシアスを見て「それもまた面白い旅になりそうだ」と思う。
エイシアスと一緒なら、退屈な人生にならないことだろう。
そう思うのだった。
その後、市場を巡って食べたり調度品を買ったりとしていると陽が暮れてきた。
俺とエイシアスは少し移動して港湾地区にやってきていた。
港のすぐそばに位置するこのエリアは、町で最も忙しい場所だ。
大きな木造の埠頭がいくつも連なり、各国からの船が停泊している。港湾地区の通りには商人たちが商品を積み下ろし、ロープや帆布が揺れる船の間を行き交う姿がある。
埠頭に並ぶ巨大な倉庫は、石造りで丈夫に作られており、風雨を防ぐために厚い壁と高い天井が特徴だ。倉庫の外には、馬車が停まり、荷物を運ぶ人々が絶えず働いている。
埠頭に近い道路沿いには、小さな酒場や飲食店が立ち並び、異国の商人や船乗りたちが一休みしていた。外には、目の前の海を眺めながら食事を楽しむことができるテラス席が広がり、港の風景を一望することができる。
テラス席がある飲食店で俺とエイシアスは夕食を食べることにした。
ヴァルミス港の夕暮れ時、空は鮮やかな朱に染まり、海と溶け合うようにして静かに広がっていた。日が沈むにつれ、港全体が柔らかい橙色の光に包まれ、船の帆や波間を漂う小さな漁船もその輝きを受けてゆっくりと揺れている。
テオとエイシアスは木製のテーブルに腰を下ろし、目の前に広がる光景にしばし見とれていた。潮の香りが心地よく鼻をかすめ、波が堤防に打ち寄せる音が遠くで囁くように響く。
注文して少し、目の前には、シンプルだが心を満たす料理が並べられた。
焼きたての魚と、港で採れた新鮮な貝のスープ。蒸し暑い日差しを忘れさせるような冷えた白ワインのグラスも、手元でキラリと夕日に照らされていた。
「やっぱり、ここでの食事は最高だな」
「同感だよ。この風景を眺めながらの食事は良い」
俺の呟いた言葉にエイシアスが頷いていた。
ゆっくりと魚を口に運ぶ。炭火で焼かれた香ばしさが口の中に広がり、しばし思わず目を閉じた。自然の味、そして港町の人々が育んできた土地の恵みが、全てこの一口に詰まっている気がした。
ふと、目を開けると、太陽はすでに水平線に沈みかけていた。海面は黄金のベールをまとい、そのきらめきは波とともに揺らめき続ける。
テオはグラスを手に取り、ゆっくりとワインを味わう。冷たさと甘さが喉を滑り落ち、夕日に溶け込むかのように心地よい余韻を残す。
「こんな時間が永遠に続けばいいのに」
「まったくだ」
空を見上げ、ゆっくりと息を吐いた。穏やかなひととき、忙しい日常の中で忘れかけていた安らぎが、ここにはあった。
遠くで鳴る港の鐘の音が、夕日とともにその一日を締めくくる。
やがて、陽が完全に沈むと、空は深い紫に変わり始め、街灯がひとつ、またひとつと灯りを灯す。
俺とエイシアスは再びフォークを手に取り、ゆっくりと食事を続けた。
日が沈んでも、心の中に残る温かさだけは、まだ消えそうになかった。
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