いざ、営業回り!
-10月某日-
「今日から企画営業に配属となったインターン生のさとのゆい君だ、皆よろしく頼むよ」
パチパチパチパチ
「えっと、皆さんよろしくお願いします…… 特に助けを求めることが多いと思うのでその際は」
ギロッ
「いえ、精一杯頑張りたいと思います! 経理で磨き上げたこの金銭能力を営業でも違和感なく発揮したいと思います!」
「金銭能力というのがよくわからないけどとりあえず頑張っていきましょう」
営業部長に紹介され、助けを請おうとするも晞咲さんに熱烈な視線を向けられて上手く行かなかったのでした。
パチパチパチパチ
「ではゆいちゃん、早速だけど外回りに行きましょうか」
挨拶を終えたゆいちゃんに晞咲さんが早速声を掛けてきた。
「いえ、今日は水卜さんと年明けに行われるゆっくり饅頭ライブの物販打ち合わせに同席したいと思います……」
「行きましょうか」
「えっ、あの」
「行きましょうか」
「……はい」
こうして早速晞咲さんと外回りに出ることになった。
-真宿-
「では早速飛び込み営業開始よ! 私達の知名度を上げるためまずは銭湯普及に対する活動についてのプレゼンテーションを行えるように交渉するのよ」
「ちょっと待ってください! 今時飛び込み営業なんて相手方に迷惑掛かるだけですよ!」
「仕方ないでしょ、かと言ってDM出したりテレアポしたって取り合ってもらえないんだから」
「えぇ、じゃあまず晞咲さんがお手本見せてくださいよ。 いきなりやれなんてそれこそブラック上司も良いところです」
「わかったわ。 ちょっと見てなさい」
-2時間後-
「どうかしら? シャンプーのラベル掲載にトリートメントの梱包箱への印刷枠の確保、真宿区の全銭湯に貼られるイメージポスターへの出演を取り付けたわ」
「いやいやいや、おかしいですよ!! 何で都合よく丁度イメージキャラクター探してたんだよねぇみたいな会社を三連続で引き当ててしかもその場に決裁者がいて契約締結しているのですか!? やり手の保険営業マンも顔が真っ青ですよ!」
「フフン、これが私の実力よ。 さぁ、私を見習ってあなたもやってみなさい」
-4時間後-
「三十件程突撃しましたけどどこも門前払い! どういうことですか!?」
「あれ、おかしいわね。 何でかしら」
打率10割の晞咲さんに対してゆいちゃんは未だに契約0件。
晞咲さんと天と地ほどの差が見受けられるのであった。
「普段の営業もだけど何となく良さそうな感じの会社に入ったらだいたい話聞いてくれてそのまま契約まで行くのに」
「いやそれ異常ですよ?! どこのギャグマンガの営業マンですか!!」
晞咲さんには天性の営業能力が備わっていたようだ。
「まぁとにかく良さげな所に目星を付けなさい。 私から教えられることは他にはないわ。 もっと頑張って色んな会社に飛び込みするのよ!」
「いやいやいや、何ですか、止めてください感覚で物事教えようとするのは! 全然参考になりません!」
「えー」
この日は一旦会社に引き上げることになった。
-夜-
「お疲れさまでしたー」
「あっ、ちょっと待ちなさいゆいちゃん」
「えっ、何ですか晞咲さん……?」
「今日のあなたの結果は見るも無残なものだわ。 私のエドゥケーションプランでは一日に契約を最低五件、一月で百件位は取ってもらう想定だったのよ」
「いやいやいや無理ですよそんなの!! 一件も取れなかったのは確かに反省する必要があるかもしれませんがそもそも今日営業着任初日ですからね!」
「というわけで訪問件数を一日二百件に引き上げようと思うわ。 明日は朝9時半に東真宿駅に集合よ。 一日三十件では恐らく足りないわ。 みっちり訪問させるから覚悟してね」
「明日はバックレようと思います」
「やっぱり家まで迎えに行ってあげることにするわ」
「9時半に東真宿ですねわかりました」
こうしてゆいちゃんにとって地獄とも呼べる営業の日々が幕を開けようとしていた。
-ゆいちゃん宅-
「疲れました! 三十件ですらとてつもない労力を要したのに二百件とか無理です!!」
家で早速愚痴だらけのゆいちゃん。
かなり参っているようである。
「あの入口に入った瞬間から出来レースのごとく話が進んでいくのは全く以て再現性がありません! 正直私がやるのは無理ゲーです!!」
晞咲さんが経理ではポンコツだったのに営業では抜群の成績を残せた理由が判明したのであった。
謎の幸運体質を発揮し、行く先々の会社で当たり前の様に契約を取って来ていたのだ。
だがゆいちゃん自身にその様な才がないことは自分自身で重々理解していた。
「このままだとあの天然営業体質に振り回されてボロ雑巾にされてしまいます。 本格的に対策を練らないといけませんね……」
-晞咲宅-
「はぁ、今日は流石にちょっと疲れたわ。 それにしてもおかしいわね。 当初の予定ではあの子が契約を取る度にちょちょいと2、3倍の契約を取って思いっきり高笑いしてあげようと思ったのに全然笑えない状況になってしまったわ」
どうやら晞咲さん、契約とは訪問してお喋りさえすれば取れるものだと思い込んでいたような節であった。
「流石に初日とは言えゼロ件なんてあり得ないと思っていたからちょっと考えてあげないといけないわね……」
晞咲さんは晞咲さんなりにゆいちゃんの事について考えてくれているようだった。
-翌朝-
「おはようゆいちゃん」
「晞咲さんおはようございます。 今日本当に二百件も訪問するのですか……?」
「そうね、私昨晩考えたの。 流石に二百件だとどうかなって。 あなたの場合簡単に契約取れそうも無いし」
その言葉を聞いてゆいちゃんの表情が明るくなる。
「晞咲さん! やっと現実を見て物事を判断してくれたのですね!」
「ええ、それに二百件回って契約ゼロ件なんて洒落にならないでしょ?」
「はい! 徒労に終わるだけです! ですからまずは頭を使ってどうすれば良いか作戦を」
「なので更に訪問件数を更に増やして三百件にしようと思うわ。 プラスで百件もすれば流石に一件位は取れるでしょ♪」
「え"……」
「私は普段はお喋りするだけで契約を貰えて来たから皆あんな感じで出来るものだと思っていたわ。 でも昨日のあなたを見て私がたまたま運が良かったんだなって思ったの。 誰もが皆一日何件も契約を取って来られるわけじゃないって。 だから根気よくあなたに協力するわ!」
「いや、あのちょっと……」
「散々煽られて憎たらしかったけど昨日の惨状を目の当たりにしたら流石にそんなこと言ってられなくなったわ。 一緒に頑張りましょう!」
「違います! そうじゃないですぅ! パワープレイで押し通せば良いものじゃなくて」
グイッ
「つべこべ言ってないで行くわよ! さぁ、張り切って行きましょう!」
「ギャァーーーーーー嫌だぁーーーーーーーーー助けてぇぇぇぇ」
こうして思いっきり手を掴まれて一日中街を引きずり回されるのでした。
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