新たなお仕事
-9月某日-
「晞咲さん凄いじゃない、一ヶ月で営業成績課内一位になるなんて!」
「ふふっ、課長、これが私の実力ですよ。 まだまだ頑張って稼いでみせますよ」
経理部門から営業に異動になって早一ヶ月、晞咲さんの成績は右肩上がりでとても好調のようであった。
「皆も晞咲さんに負けずにもっと頑張ってくれまえ」
シーン
「あっ、あれ……」
課長の声に何も反応は無かった。
「フッ、何やら調子が良いみたいですねぇ晞咲さん」
「クッ、さとのゆい、涼しそうな顔してぇ……」
颯爽と現れたゆいちゃん、晞咲さんの異動前に煽り散らかし絶対にギャフンと言わせると燃えていた晞咲さんであったのだが……
「凄いじゃないですか晞咲さん! 今月課内の成績1位って聞きましたよ!」
「ふふっ、これが私の実力よ。 どうかした、恐れ入ったかしら?」
「まぁまだ私の会計処理能力の前には全く及んでいないようですがね~、いやぁお仕事出来ると毎日が楽しいですよ~これぞ経理の王者の風格というやつですかね~」
「んぎぃぃぃぃ、この○○! 絶対に許さないわ今に見ていなさいよかくなる上はっ」
「晞咲さん抑えて抑えて、そんな言葉遣いしちゃダメダメ」
課長に止められる晞咲さんを前にゆいちゃんは相変わらず煽り散らかしているのであった。
「そんなに怒っちゃダメですよ、しわ増えちゃいますから。 ほら、朝駅前で貰ったスキンケアの試供品です」
「ありがとう。 ……って違―う! あなたのせいでしょ!?」
「そうやってすぐ人のせいにする。 晞咲さんの悪い癖ですよ」
「あなたねぇー!!」
「あっ、晞咲さーん、人事部長が呼んでますよー」
他の社員によって騒動勃発前に休止させられた。
「ほらほら呼ばれてますよー、早く行きましょう」
「グッ、あなた今に見てなさいよ……」
もはや日常の光景になりつつあったのだが、転機が訪れることになるとはこの時知る由も無かった。
-月末-
「いやぁ今月の会計処理も何とか終わりました。 来月からはインボイス制度も始まるので作業が増えて更に大変そうですが頑張っていきましょう」
「あっ、さとのさん、人事部長が呼んでるから行ってちょうだい」
「えっ? 人事部長さんがですか? はーい、わかりましたー。 そういえばこの間晞咲さんも呼ばれていましたが、あれ以降かなり大人しくなりましたね。 何かあったのでしょうか」
コンコン
「失礼しまーす」
「おお、さとの君、わざわざありがとう」
「いえいえ、そんな。 それで私に何の御用でしょうか……?」
「ああ、うん、さとの君もインターンを始めてだいぶ経ったし、仕事にも慣れてきたようだね」
「はい! おかげさまでもう経理の業務はバッチリです!」
「うんうん。 そこでせっかくのインターンだからね、経理だけでなく色んな仕事をやってもらおうと思ってね。 来月から企画営業の職に就いてもらいたくてね」
ダラダラダラダラ
人事部長の一言で急に冷や汗を大量に流すゆいちゃん。
脳裏でただひたすらアカン気がするという直感がうずめいているのであった。
「で、ですが人事部長、まだまだ私経理で学べていないこともありますし、もうちょっと経理部門で頑張りたいなぁ~なんて……」
「いやいや、何を謙遜しているの。 正直君の経理能力はかなり優秀で将来そのまま我が社に入って欲しい位だよ。 それはそうと来月からインボイス制度も始まって処理作業が増えてしまうのでね。 インターンのさとの君にも大変な負担を掛けてしまうことが予想されるからね」
「そ、そんなこと気にされなくても大丈夫ですよ~ ぜ、全力で頑張りますから~」
「そうは言ってもね。 残業も増えてかなりの負担が経理部門に圧し掛かるからインターン生の君に残業させて長時間働かせるわけにはいかないからね」
ダラダラダラダラ
冷や汗が加速するゆいちゃん。
「というわけで来月からは企画営業の晞咲さんの下で新たな仕事に取り組んでみて欲しいんだ」
「ドヒャアアアアアアアアアアア!!! よ、よりによって晞咲さんですか!? 私はキャラ担当の水卜さんの下が良いなぁ…… なんて」
「水卜君は社内にいないことも多いからね。 それに今一番成績を伸ばしている晞咲さんの下であればきっとさとの君ももっと成長出来ると思うんんだ」
「それはそうかもしれませんが……」
「というわけで来月からまた頑張ってね!」
「いえ、でもやっぱり今ノリに乗っている晞咲さんにいきなりインターン生の面倒を任せるのは酷なのではないでしょうか!?」
これまでことあることに晞咲さんを煽り散らかしてきたゆいちゃん、何が何でも絶対に止めないといけない案件だった。
「まぁでもそこは大丈夫だよ。 そもそもさとの君にインターンをさせてあげようと頑張っていたのも晞咲さんだしね。 そこはさとの君も晞咲さんから色々学びつつ彼女のことを支えていって欲しい」
「あはははは…… そ、そうですか……」
もはや冷汗が脂汗になっていた。
「あら、ゆいちゃん、丁度良いわ。 これからちょっと今後に向けて準備したいからちょっと来てもらえるかしら?」
「ききききき晞咲しゃん!?」
背後に突如として現れた晞咲さん。
衝撃のあまりに後ろに思いっきり退くのであった。
「いやね、この子ったら♪ そんなに驚かなくても良いじゃない」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
「(ふえぇぇ、笑顔なのに目が笑っていないです……) か、可愛くて綺麗なここみお姉ちゃん! 私もっと経理のお仕事頑張って陰からここみお姉ちゃんをサポートしたいです♡」
「フフッ、そう。 でもね、もう経理の仕事は『私と違って』完璧みたいだから、新しいこともやってみましょう♪ 大丈夫よ、私がたくさん可愛がってあげるから♪」
「人事部長!! 考え直してください!! このままじゃ私、フンゴッ!」
「それでは人事部長、来月から頑張って『教育』しますので準備のためゆいちゃん連れて行きますね」
「うむ、頑張ってね晞咲さん、あとゆいちゃんも」
「フンゴー!! フゴフゴ!! フンフフゴー!!!」
こうして晞咲さんに抱えられながら連行され、次月から晞咲さんの下で働くことになったのだった。
果たしてゆいちゃんの運命は如何に。
「フゴフゴフゴフゴーー!!!(嫌ですーー!!!)」
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