晞咲さんの人事異動
ゆいちゃんのインターンが始まって早いこと3週間が経った。
徐々に会社に馴染んでいき今や立派に活躍できるまでになったのであった。
「ちょっと、ここの計算式間違っていますよ!」
「そんなぁ~」
「ここも間違っています! 何回同じところ間違えるのですか!」
「えぇ! 何でまた間違ってるのぉ!?」
「しっかりしてください! 晞咲さん!」
……
そう、何気に書類仕事が得意ということが判明したゆいちゃん、今や計算ミスや不備が多い晞咲さんの教育係に任命されていた。
「おかしいわ! 舐め腐っていたあの娘に社会の厳しさを教えようとこの会社のインターンに招き入れたのにどうして立場が逆転しているの……」
「ほらっ、何サボっているのですか! キリキリ働けぇーい!」
「うぅ……」
晞咲さんに愚痴の1つもこぼすことを許さない鬼のような教育係となっていた。
-夜 晞咲宅-
「毎日毎日山のふもとから2時間かけて出勤、そしてあの娘にマウントを取られ疲弊する日々、冗談じゃないわ!」
自分のミスを棚に上げて一人憤慨している晞咲さん。
「こうなればもう早めにインターンを切り上げてもらうしかないわね……」
ピンポーン
「誰よ、こんな時間に。 はぁい」
ガチャッ
「ちょっと晞咲さん、会社に貴重品一式が入ったカバン忘れていますよ!」
ドアを開けるとそこにはゆいちゃんがいた。
どうやら晞咲さんの忘れ物を持ってきてくれたようだった。
「えっ、嫌だ私カバン忘れてたの!? ……あっ、ありがとうね」
「そんなツンデレは要りません。 それよりも晞咲さん、お話したいことがあります」
「なっ、何よ急に…… まっ、まぁ良いわ…… 立ち話も何だし上がっていったら」
「お邪魔しまーす」
招かれるままに晞咲宅にゆいちゃんが上がり込むのであった。
「好きな所に座ればいいわ。 あと何か飲む? と言っても麦茶しかないけど……」
「いえお構いなく。 それよりも晞咲さん、インターンを初めて早一カ月が経とうとしています」
「そうね、あっという間ね」
「かれこれ3週間晞咲さんの教育係として厳しく接して来ました」
「……」
「しかし一方にミスが減ることがありません。 このままではダメだと思うとの判断で晞咲さんの部署移動が決まりました」
「ねぇ、ちょっと待ちなさい? 確かにミスが多いのは事実だし弁明のしようがないけど、何でインターン生のあなたに辞令を出されているのかしら……?」
「あれ、言ってなかったでしたっけ? 働きっぷりと晞咲さんへの面倒見が買われて先日上長待遇になったのですが」
「聞いてないわよそんなこと! 何で私が手引きしてインターンさせているのに正式に上司みたいになっているの!?」
「そりゃあ晞咲さんよりちゃんとお仕事していますし」
「ぐっ……」
いつの間にか晞咲さんより上の立場になっていたゆいちゃん。
晞咲さんの面目が丸つぶれである。
「銭湯では備品を散らかしてお湯もまともに張れず散々だったみたいなのに何でそんなエリートキャリアウーマンみたいになってるのよ……」
「何か言いました?」
「いえ……」
「さて、企画営業部、企画の立案や各種営業活動をしてもらう部署はご存じですね?」
「ええ、そりゃああなたより長いこと勤めているんだし」
「この度晞咲さんには経理を離れてもらい企画営業部署に異動してもらうことになりました。 明日より異動を命じます」
「ちょっと待ちなさいよ! 何で経理からいきなり営業になるのよ!」
「それは晞咲さんが経理として『ポンコツ』だからです!」
ガーーーーーーーーーーン
「なっ、何よ! ポンコツだって良いじゃない!」
「いえ良くありません! お仕事なのですから!」
「ぐっ…… あなたにそんなこと言われるとは…… 屈辱……」
「異議はありませんね? それでは明日からはキャラ営業担当の水卜さんの下に入ってもらいます。 くれぐれも言うことを聞くように」
「わっ、わかったわよ! 今に見ていなさいよ! 営業で売上出してギャフンと言わせてやるんだから!」
「ほほぅ、それは楽しみにしておきますね~ 経理の仕事を慌ただしくさせる位の売上を期待していますよ~」
「ムカツクその顔! そのニタニタ面忘れないわよ!」
「それではこれで失礼します。 また明日会いましょう」
パタン
ゆいちゃんが帰宅し、これまでにない屈辱を味わった晞咲さんが一人闘志を燃やしているのであった。
「絶対に許さないんだから!!!」
-翌日-
「本日から経理から異動し企画営業の配属になりました晞咲心澄です。 全力で売上を叩き出す次第ですので皆さんご指導ご鞭撻の程よろしくお願い致します」
パチパチパチパチ
「まさか晞咲さんが営業に来るとは…… とりあえずよろしくね」
早速席にいる里の湯キャラ担当の水卜に声を掛けられる晞咲さん。
「水卜さん、しばらくの間色々お手間をお掛けすると思いますが許してください」
「それにしても気合入っているね。 まぁ良いことだよ。 経理でダメでも他はわからないから……」
「何としてもさとのゆいをギャフンと言わせます! あんな屈辱を味わされたのは生まれて初めてです!! 小学生の時に男子にクマさんのパンツをからかわれた以上に屈辱でした!!! 絶対に許しません!!!!」
「おっ、おうそうかい…… じゃあ頑張りましょうか」
こうして晞咲さんの営業としてのキャリアが始まった。
果たしてゆいちゃんを見返すことが出来るのであろうか。
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