ハイパースピリチュアルシリアス(?)
見つけていただいてありがとうございます。
私小説と言いつつフィクションです。すみません。
今日、巨木が倒れた。
たんなる巨木とおもわれそうだが、それは街のハズレの山のてっぺんに生えた一本杉だった。いや、杉だったかどうかは定かではない、一本だけ山のてっぺんにあるさまをあらわしたく。そんな印象弱めな杉かなにかは、町外れに生えている。町外れにあるからして印象は薄いのだろう。
そんな巨木が倒れた。
なにがあったのか。
一応付け足すと、魔法や超能力、宇宙人などはこの世にはない。
たんなる街の一本杉がだ。倒れてしまったらしい。
それは街に住むしがない学生の自分にも伝わってきた。
なんでだろう。気にするのは自分くらいだった。
みんなスマホやゲームをいじったり、友達と話しているばかり。先生が話したこんな話題、だれももう気に留めていない。ほんのさっきのことなのに。
なにかおいていかれた気分だ。うろ覚えの小説の内容によれば、ちいさな事件にも子どもたちが疑問を持ち、街中を駆け巡るシーンが当たり前のように描写されていた。いや、時代の差だろうか。僕が幼い頃それを読んだ頃には、もう古いな、という感想しか浮かばなかった気がする。そんなシーンにとらわれるように寂しさを覚えるのは、なんだろう、やはりおかしいのかもしれない。
その小説の時代にはスマホはなかった。僕の幼い頃にはもう、少なくともインターネットくらいはあった。僕は中学まではインターネット大好きだった?怪しいサイトをよけたり、SNSに興じたりしたかもしれない。
しかし、今はなんだか、そういったものたちに取り残されている気がする。
僕はひとり帰路についた。友達はいなかった。いや、普段ならいる彼は、今日はいない。なんでだったっけ。受験?そうだ、日にちが違うんだ。彼は頭がいいから、きっと受かるだろう。
僕はもうすぐだ。
枯葉を踏みしめた。杉に葉はない。
そういえば、友達の彼はあの大学に行くのなら、僕はまた友達を作り直さないといけないな。またひとりか。もう願書は出してしまったし、受験する大学は変えられない。
どんどん取り残されていく自分を感じる。枯葉が道路と歩道のすきまで、風に少しずつおされて、ずれていく。いやそうに。
あ、排水口に落ちた。
非常に悲しくなった。胸が締め付けられた。いつか僕もいやいや大人になって、いろいろ失ってしまうのだろう。こわいな。たぶん。
一時期は感情のない自分をイメージして自分に酔っていたものだが、やっぱり感情くらいはだれにでもあるな。たぶん。自分の頭の中であれ、一応いうと個人差くらいはあるかとは思うが。これはSNSでひどく批判を受けたときの防衛策が癖になったものだ。あのときは落ち込んだ。数日休もうかとも思ったが、親はそれを許さなかった。
ふと、振り返る。下ばかり見て歩くだけでも疲れる。坂道はつらい。荷物が重いのすら、置き勉禁止を真面目に守る自分のせいだと言われるのは、なんだか悲しい。真面目ではいけない?親がそれを許さない家庭で、僕はどうやってそれを獲得したものか?
見上げた山には、何も生えていない山。小さく、何かが一つ置かれているようだ。
あれが一本杉か。いや、杉かどうかはわからないが。
彼もひとりぼっちであり、自ら選んだでもないだろうに、動けないままそこで生きざるを得ない。たぶんそうなのだろう。
かわいそうに。かわいそうだろう、そうに決まっている。
しかも、たしか先生の話によると、今朝倒れたそうじゃないか。
雷のせいだろう。たしかに、朝は暗く曇り、爆音のような雷鳴があった。
僕はこたつから出てこない猫をなだめ、心配しながら家を出たのだ。
……どうなってる?いま、あの木は。
なんだか不安で、僕はあるきだしていた。
坂道の上へ。
疲れた。荷物くらい置いてくればよかった。
しかし、重い荷物をそうとは感じずに持ち運ぶ方法も見つけたし、無駄はない、かもしれない。貧乏性、とあの子は言うだろうか。いや、今までの話に関係なく、これは小学校まで一緒だった女の子の話。いまではもう遠く、彼氏とやらの一人や二人いるのだろう。ぼくはほどほどの進学校もどきに進んだが、あの子の進学先は知らない。だが、ある日見かけたあの子は、もうすっかり別人だった……。また、さみしくなった。こういつまでもうじうじ引きずってるように考えてしまうから、呆れられるところもあるのかもしれない。
しかし、今はそんなこと、どうでもいい。
一本杉だ。杉かどうかは定かではないが。
つらい登山道のさなか、僕は何度も自問自答した。
彼に僕は感情移入してるのだ。そういうことにしたいんだ。もう途中からは登りがきつすぎて、多少どうでも良くなっていた。しかし、振り返ると街が見渡せた。もうずいぶん高くに登ってしまった、後戻りはできない、したくない、と思っていた。
だから、杉を見ないと気がすまなかった。
ぼくはカンで歩いた。たぶんこっちが一本杉のあるほうだ。山は急斜面で、足元の坂道に注意を払うのに精一杯だ。前など見る暇がない。背中の重い教科書たちもそうさせている。だから、置いてくればよかったのに。
ふと、前を見る。一瞬だけだった。
杉はなかった。
かわりに、目の前には満開の桜があった。
ぼんやりと僕は近づいた。自問自答のしすぎでハイになっていたのか、桜を冬に見ても動揺しなかった。夢か何かと思った。
一本杉ではない、一本桜だったんだ。倒れてすらいない。
もしかすると、ホームルームの最後、先生は巨木が倒れたなんて言ってなかったのかもしれない。全部僕の勘違いだ。朝の雷はあったが、それもあって、聞き間違いに拍車がかかっていたのだろう。友達とほとんど関わらないまま過ごしていると、だれにも話さずして確認もないまま、ひとりで早合点することはよくあった。移動教室をひとりまちがえたりしても、聞ける人がいないとカンに頼る羽目になる。または意を決して先生に聞く。ひとりなのに勇気あるね、とか他所で言われるのはこのせいかもしれない。ちなみに、かしこい友人はさっさと一人で、行ってしまう。賢いから仕方がないのだ。たぶん。
ぼくは勝手に感情移入していたはずの一本杉、もとい一本桜に近づいた。
満開だ。この間はひどく冷え込んでいたし、すこしの気温上昇を春と勘違いしたのかもしれない。にしても咲き過ぎだが。
ぼくはこんな奴に感情移入していたのか、と膝を打った。
重い荷物を置き、花見をすることにした。
思えば、勘違いや一人芝居ばかりで、悩んでは一点突破ばかりして、ぼくはたいして周りが見えてなかったのだろう。
この山には、一人動けず、仕方なく生き、ぼくが動揺するほど不慮の死を遂げたやつはいなかった。ぼくも周りをもっと見てれば、なにか変わっていたかな。あの華やかで疎遠なあの子のように。さすがにそこまではないか。いや、それもわからないしな。
ぼくは教科書を山にぶちまけたくなった。しかしさすがにやめといた。山は露でしめっていたし、もう受験とはいえまだ勉強しないと。
山にぶちまけられたあとの教科書を拾いに行くのも自分だけだ。当たり前だが。
かわりにかばんを投げた。かばんはびっくりするほど斜面を転がり落ち、拾いに行った僕は桜の花びらで滑った。縁起悪いな。
桜の木は嘲笑うように僕を見下ろしていた。あの子みたいで、むっとした。
僕はあの子みたいにはなれない気がした。嫉妬するくらいなら、どうせ無理だろう。
じゃあ、杉の木になろう。せめてそっちくらいは。
ここにはない、たんなるイメージの一本杉。
どんなかよくは知らないが……あの針葉樹だろう、たぶんそうだろう。あとで一人で調べておくから、気にしないでくれ。ぼくはそして、帰路につく事にした。山は風もあり寒いから、そんなに長居できなかっただけだが。満開の桜があっても、冬は冬だしな。
さあ、巨木は倒れた。
僕の中での巨木はもう倒れた。まあすなわち、たんに自分の勘違いや思い込みを例えただけだが。
さらに自分だけの世界に入り込んでしまった気がするのは否めないが、気にしない。一人で生きるとは多少なりとも、そういうものかもしれないし。
受験はなんとか受かった。あまり高望みしなかったからか。賢い友達とはやはり別れてしまったが。
あれからあの桜はどうなったかというと、それはわからなかった。あの登山道は思ったよりトラウマで、あれきり登る気がしなかったのだ。
とおもったら、数年後、冬に満開になる奇跡の桜としてメディアで紹介されていた。今更かよ、とはおもったが、やはり誰もあれが冬に咲く理由はわからないようだった。自然とは不思議なものだ……。一応、そういうことにしとく。
さらに後日、僕は親に話した。
「就活、内定出たよ。〇〇水産に」
「え、あの会社はだめだって、遠いって、言ってたでしょ?なんで受けちゃったの?」
「いや、僕は決めたから。」
「一人暮らしなんてできないくせに。家にいなさい。」
「いや、もう内定出たから。大丈夫、案外勘違いってなんにも意味ないから。真冬にも満開だったりするから。」
「何を言って……まあ、内定はおめでとう。一人暮らし、覚悟してがんばるのよ。」
一人暮らしのことばかりだ、うちの親は。
覚悟、か。あんな一本桜になるには度胸もいるのだろう。一本杉か。いやまあ、どちらでもいいけども。
僕はスマホをつけた。あれから背景画像はあの桜のままだ。
読んでいただきありがとうございました。
朝の寝ぼけ頭をフル稼働しました。
理性かなにかをねじ伏せて書きました。いろいろすみません。