桂男−3
他の授業についても特に優秀というわけでなく普通らしいということは数日間過ごしていく中でわかってくる。正直ただ顔が良いだけの一般人だとしか思えなくなってくる。
いくらこの町が特殊な場所だからとはいえ新参者を厳しい目で見すぎたと反省するようになってきた。
「桂、お前の事怪しいだなんて疑って悪かった。」
「どうしました?急に。」
昼休み、突然の謝罪に驚いた顔を向ける。
「だってほとんど一緒にいたけど別に怪しい素振りないんだよなぁ。そういうわけで無理に俺といなくてもいいぞ。」
「これから怪しい動きをするかもしれませんよ?それに、高明といるのは嫌じゃないです。これからも今まで通りに過ごしてもいいですか?」
「桂がそれでいいなら構わねぇけど。」
桂は部活には入らずに放課後はグラウンドから見える校庭のベンチに座り読書をしている日々が続いていたがある日、吹奏楽部が気になっていると言い出してきた。高明に見学の許可を尋ねてきたので詳しく聞くとテレビで見たフルート演奏者がカッコよく音も綺麗だったので吹いてみたいらしい。
案内という名目である放課後一緒に音楽室を訪ねると吹奏楽部に入っているクラスメイトに怪訝な目を向けられる。
音痴が何の用だと言いたげな様子に説明すると「それなら」と安心した表情になる。文句を言いたい所だが言ったところで正論を返されるのは辛いので桂を引き渡すとさっさと音楽室を出ようとしたが引き止められる。
「君にいて欲しいのですがダメですか?」
「そ、そういう顔するなっ」
自分でなく女子に向けるべきだと思うほどイケメンの無駄遣いではないかと思ってしまう。
捨てられた子犬のような目を向けられては無視はできず見学として残ることにする。
桂のフルートは不器用さは感じるものの聴きやすい音である。当然歓迎をされ入部する事になりそうだ。
「上手いな。吹いたことあるのか?」
「いいえ、前の学校の授業で少し吹いただけで久しぶりですが何とかなるものなんですね」
「何とかってレベルか?おぼつかなさは確かにあるが少しは慣れていると思えた」
「じゃあ私は才能があるって事ですね」
笑顔で返す桂を呆れて見る。
「そういうの自分で言うか?で、入部するのか?俺は別に良いと思うぞ」
「高明が良いなら入りますよ」
吹奏楽部の生徒たちは「お前は入らないよな?」と言いたげな顔を向ける。
「俺は入らないからな。陸上部だけで十分だ」
その言葉に桂は残念そうな顔をするものの他の生徒たちは安心した表情になる。
そんなある日の夕方に女性が何者かに襲われて倒れる事件が時々起こる事が起きた。どうやらそれは生気を吸い取られるようだ。1日程寝込むがそれだけのようだ。
大した被害はないといえばそうだが不気味な話しである。
高明は女子生徒と話している桂をつい見るとちょうど目が合い甘い笑顔を向けられる。
男にそういう顔をされても嬉しくはないと正直思うが桂は何故か嫌な気にさせないのは不思議だと思う。
念のため事件があった時の事を聞いてみる。
「アリバイですか。探偵みたいでワクワクしますね」
「あのなぁそういう楽しい話しじゃないだろ。言い方は悪いけどお前容疑者ってことだぞ」
「ますます面白いじゃないですか。フフッ」
自分が疑われていることを面白がる神経は信じられないが吹奏楽部の部室にいたと証言があり目撃者もいるとなれば違うという事になる。
時間帯は部活動が終わるか終わらないかの時なので犯行は正直不可能ではない。ただしそれは桂が急いで帰ったか早退もしくは休めば可能と言えるが聞いた話によればそんな事は一度もしていないのだ。だとすれば手掛かりはゼロである。
被害者の情報によると襲撃者のうろ覚えだが絶世の美男子で髪型はポニーテールで着物を着て宙に浮いているというのは証言者の共通である。
うろ覚えという割にはそれなりに特徴を掴んでいるのでは?とツッコミたくなったが黙っておく。それに、最後に道端で倒れた事を除けばまた会いたいと夢見がちな表情で言われては呆れるしかない。
しかしそんな目立ちそうな人物がいればすぐに見つかりそうだと疑問に思う。