火の精霊王 4
空から落ちてきて、ピクピクしたまま動かない小鳥さん。
前の世界の住んでいたアパートの前で、チュンチュン囀っていたスズメぐらいの大きさだなぁ。
「おう、生きてるか?」
山頂まで駆け登っていった白銀が、ズザザザッと山肌を勢いよく滑り降りてきた。
「しろがね、とりしゃん?」
「ああ、鳥だけど。こいつが神獣フェニックスだよ」
白銀が前足で、ちょんちょんと小鳥さん……神獣フェニックスの体を突つく。
「あら、ちゃんと生きてる?」
高い木の上から、やっぱり何もない空間を駆け下りてきた紫紺。
口に咥えているのは、何?
黒くて大きくて……別の鳥さん?
ぺっ、と口からそれを吐き出して、紫紺も動かない小鳥さんの体を前足でツンツンする。
紫紺の口から解放された鳥さんは、バササッと両翼を大きく広げて嘴で乱れた羽を直し始めた。
「……とりしゃん、だあれ?」
ぼくが、黒い鳥さんに声をかけると、その鳥さんはタタタとぼくに近づき身振り手振りを交えて喋り始めた。
「カァーカー、ガガァカアー」
ペコリと頭を下げられる。
ごめんなさい……鳥さんは烏さんみたい。
烏語はぼく、わかんないよ?
困ったなぁ……。
ぼくはそっと手を伸ばして、烏さんの頭をヨシヨシと撫でてみました。
「カアーッ」
もじもじと身もだえる烏さん、喜んでくれたかな?
「何やってんのよっ!勝手にレンと顔合わせてんじゃないわよ!」
ビタンと尻尾を地面に叩きつけ、紫紺が牙をむき出しにして烏さんを威嚇する。
「カー」
「ほら、早くあのフェニックスを、あの方のところに運んでちょーだい」
「カア」
烏さん、紫紺にビクビク怯えながら赤い小鳥さんのところへ。
あれ?あの烏さん足が変じゃない?
ぼくは、握った拳で目をこしこし擦ってから、烏さんの姿を改めて見てみるけど……あれ?
「ピイ」
「お、気がついたか?お前、何やってんだよ、こんな所で。ここら辺の精霊力が奪われて精霊たちに迷惑かけてたみたいだから、移動しろよ。ちゃんと連れていってくれる奴も用意してやったから」
白銀が、弱々しく鳴いた小鳥さんの体をゴロンと前足でひっくり返して、悪い顔で笑いながらそう告げる。
「カアカアカー」
烏さんが小鳥さんに偉そうに何か言ってるけど、ぼくには分からない。
「はい。よろしくね。あの方にもちゃんと伝言してね」
「カア」
烏さんは一声短く鳴くと、鋭い爪でガシッと小鳥さんの体を無造作に掴み、バササッバササッと羽ばたき上昇する。
「うわああ。たかーい」
烏さんは、あっという間に上へ上へと飛んでいく。
「じゃあ、俺も行ってくるわ」
白銀が体勢を低くして四肢に力を溜めると「アオーン」と吠え、全身を跳ねるように動かし空を駆け上っていった。
烏さんに追いつくと、ニョキと爪を出し何もない空間を切り裂く。
「なんだあれ?」
「空を切り裂いた?」
兄様とアリスターは呆然。
ぼくは、切り裂かれた向こう側の真っ黒な世界に興味津々です。
あの向こうは、シエル様に繋がってるのかな?
「いいえ。あれは次元の裂け目よ。あそこからあの方へ辿り着くのは運まかせ。でもあの烏の力で迷えずに行けるでしょ」
「しょうなの?」
なんだ、じゃあ白銀に頼んで気軽にあっちに行けるかもと思ったけど、無理なんだね。
紫紺はポンポンとぼくの頭を肉球で撫でて、
「教会に行けば、会えるわよ」
「あい」
白銀が音もさせないで、いつのまにか陸地に戻ってきてました。
「じゃあ、ここ一帯の力が戻るかもしれないんだね?」
「ああ。フェニックスの力を解放してここら一帯にぶち撒ければ、失った分のいくらかは戻るだろ」
あんなに小さい体の小鳥さんの力を、取っても大丈夫なの?
「大丈夫よ。腐っても神獣なんだから。死んじゃうこともないでしょ。なんだったら神界で休んでればいいのよ」
紫紺はふんっと鼻を鳴らして、そう言い放つ。
神獣聖獣同士って、どういう関係なんだろう?
どうも仲良しって……感じじゃないんだね?
「だったら戻ろうぜ、ヒュー。セバスさんも心配してるぞ。ここに来るのもめちゃくちゃ反対されたんだから」
アリスターの焦った声音に促されて、ぼくも帰り支度をしましょう。
洞窟出るときのセバス……怖かったもん。
瑠璃に頼んで張っていてもらった防御膜を解除して、早く山を下りよう、空間移動で!
「ギャウ」
トカゲが、申し訳なさそうな情けない顔でひと鳴き。
「あら?アンタたち力が残ってないの?困ったわ……空間移動できないみたい」
「えっ?」
「いやいや、ここから俺たちだけで下山するとしたら、何日もかかるぞ」
「セバスたちが心配するレベルじゃないな。捜索隊が出るレベルになる」
「……おなか、へっちゃ……」
ぼくの言葉に、兄様たちが「あっ!」て顔になる。
「そうだな。食事も水もない」
「山は夜は冷えるのに、防寒具もない」
あれだけ暑かった山頂は、小鳥さんがいなくなると同時に少しずつ気温が下がっていった。
そういえば、白い煙もモクモクからチョロチョロになっているね。
「どうしようか……」
ぼくたちが困っているのが分かるのか、トカゲと火の妖精さんたちしょんぼりしている。
「要するに魔力があればいいんだろう?俺のじゃダメか?」
トカゲと火の妖精さんたち、ブルブルと頭を左右に強く振って否定する。
遠慮ではない、否定だ。
「あら?アタシのでもダメ?」
コクコクと強く頷く。
当然、兄様でもダメで、アリスターは魔力がほとんど無くなったので問題外。
あれ?残ってるのは……ぼく?
「あい!ぼくのー、あげりゅ」