火の精霊王 3
オルグレン山の山頂付近は、白い煙がモクモクしていて、とっても視界が悪い。
トカゲの空間移動で山頂にほど近い、やや平坦になっている場所にやってきたぼくたち。
トカゲと複数の火の妖精に魔力を吸い取られたアリスターは、肩でゼイゼイ息をして四つん這いになっています。
大丈夫かな?
「よしっ。アイツを捕まえる前に、あの野郎を捕まえようぜ」
白銀は体を元の大きさに戻したまま、その場でグルグルと廻って余った力を発散しているようだ。
「そうね。いい?作戦はこうよ?」
紫紺は白銀とふたりで、またこそこそと話を始めてしまった。
「にいたま。アリスター?」
ぼくは兄様に抱っこされたまま、アリスターが気になって兄様の服を引いてみる。
「おい。大丈夫か?生きてるか?」
「はーはー、生きてますよ!しかし、しんどい……」
ありゃりゃ、魔力がかなり減ったみたいだね?
「うーん、魔力回復ポーションでも持ってくればよかったな」
兄様がぼくを腕から降ろして、蹲ったアリスターに手を貸してあげた。
「いや、いらねぇ。あれは不味い」
アリスターが心配なのか、トカゲと火の妖精たちがアリスターの周りに群がってくる。
「……あちゅい」
んん?火山の影響かな……ここにいると暑い……、汗が……、暑いよぅ。
「レン。暑いの?大丈夫?」
「あー、確かに、さっきまでいた洞窟に比べてかなり暑いな」
アリスターは、襟に指を入れて首元を少し緩めた。
「あら?貴方たち暑いのかしら?レン、瑠璃に頼んであれ、海の中で張ってもらっていた防御膜を作ってもらったら?水の膜だから少しは涼しいんじゃない?」
「んゆ?」
そんな理由で瑠璃に頼んでいいの?
瑠璃って、偉い聖獣なんでしょ?
「レン。お願いしてもらっていいかな?」
「にいたま、あちゅい?」
「うん、暑いのは暑いんだけど、火の精霊や妖精たちの様子がおかしいんだよ」
アリスターの周りに集まっていた火の妖精たちは、ふわふわすることもなくアリスターの体に張り付いているし、トカゲはアリスターの足先に顎を乗せてぐったりしている。
「あらあら?たぶん、ここに居るだけで精霊力が奪われているのね。じゃあ、レン。瑠璃の防御膜の中で大人しくしていてね。アタシはちょっと行ってくるわ」
どこに?
首をコテンと傾げているうちに、紫紺は何もないところに駆け出していく。
空中に……。
「「「えっ!」」」
ぼくたちは唖然です!
紫紺はダッ!と勢いよく空中に駆け出し、そのまま空を駆け移動している。
す、すごい!
ぼくは紫紺をずっと目で追いながら、瑠璃にもらった鱗を手に握って防御膜を張ってもらうようにお願いしました。
風魔法の応用で足場を空中に作り、空を駆けて移動する。
あの神使が、木の上で高みの見物しているのは知っているのよ。
アタシの突進に、避けることも逃げることもできずに、バササッバササッ!と空しく羽ばたくだけでカプリとアタシに後ろ首を噛まれたわ。
「ちょっと、付き合ってもらうわよ」
「……カァー?」
こいつが止まっていた木の枝に着地して、レンたちの様子を見る。
あら、いい眺めね。
流石、あの方にレンの行動記録を撮って見せているだけあるわ。
「これから白銀が捕まえる奴を、あの方の所へ連れて行ってほしいのよ」
「カァ?カーカーガァーッ!」
なんか、抵抗してるわね。
アンタがあっちの世界の神の使いだってことは分かっているけど、アタシたちにとってはレンの望みが全てなのよ。
アタシは牙に少し力を込めてみた。
「カアーッ!」
「これはお願いじゃないのよ?」
グッと顎にも力を込める。
「……カア」
よしっ、こっちは成功。
あとは、白銀がアイツを捕まえるだけね。
レンたちが瑠璃の爺の作った防御膜で包まれたのを確認して、山を駆け上る。
爺は火の精霊と妖精に気を遣ったのか、水の防御膜ではなく風の防御膜を張っていた。
火の気を失わせないように水ではなく冷たい風で気温を下げ、レンたちの体を少し浮かせて山と接触しないようにしている。
山にアイツの影響が満ちているため、接触していると際限なく精霊力を奪われてしまうからだ。
ダダダッと、ほぼ垂直に山を登ると、火口が見えてきた。
白い煙で視界は悪いが、アイツの気はハッキリと感じることができる。
「だいぶ、弱ってんな?」
弱ってるから再生するのか?再生し続けるから弱ったのか?
本当に、アイツは何がしたいんだが?
白い煙の中、チラチラと赤い布が宙に舞うように見え隠れするアイツの翼。
「……小さくねぇか?」
はて?アイツはあんなに小さかったか?
結構、デカイ大きさの鳥だと思っていたが、例の神使よりも小さく見えるぞ?
本当に、神獣フェニックスなのか?
しかし、長い尾羽が空にたなびく様は、よく知っているフェニックスのものだと思う。
「まあ、いっか。捕まえりゃ分かるだろう」
奴が近づいてくる。
火口に飛び込む直前に、一発当ててやろう。
俺は全身に力を漲らせ、バチバチと放電を始めた。
バリバリバリ、ドガァーン!!
「ぴゃっ!」
轟く音に、ひしっと兄様の足に抱き着くぼく。
雷?こんなに晴れているのに?
兄様とアリスターも、周りを警戒してキョロキョロと見回しながら腰の剣の柄に手を添える。
ボタッ。
「んゆ?」
なんか、落ちてきたよ?
首を伸ばして、ちょっと離れた所に落ちた何かを確かめてみる。
「とりしゃん?」
小さくてピクピクしている赤い羽根の小鳥?
ところどころ焦げてブスブスしているけど、生きてるよね?
「にいたま、とりしゃん?」
ぼくが小鳥を指差すと、兄様は困った顔で笑っていた。