森の調査 3
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思わずセバスたちと話し込んでしまったせいで、長い休憩になってしまった。
ヒューバートは、騎士たちに隊列を組ませ出発の準備をしようと、大人しく座ってお菓子を食べているだろうレンの姿を探す……が。
「レン?」
敷物の上に、ちょこんと座っていたはずの愛らしい姿が、ない。
白銀と紫紺と一緒に散歩しているのかもと辺りを見回せば、ふたりは顔を突き合わせて何かを相談をしていた。
その周りに、ふよふよと浮かぶ水の膜に包まれたチルとチロ。
……でも、レンの姿は見えない。
ヒューバートは、キョロキョロと辺りを見回すが、いない。
「セバス……」
「はい?」
「レンが……いない」
「は?」
セバスも左右に忙しなく顔を向け、小さな姿を探す。
「白銀!紫紺!」
ヒューバートが発した大声に、ふたりがビクッと反応してこちらに顔を向ける。
ヒューバートは、震えそうになる手をぎゅっと握りこんだ。
「レンがいない!」
ヒューバートのその言葉に弾かれたように、白銀と紫紺が動きだす。
危険な気配は感じなかった。
レンの叫び声も助けを求める声も、聞こえなかった……。
レンがここから姿を消して、どれぐらいの時間が経ったのだろう。
タタタ、と走り寄ってきた白銀と紫紺。
「そんなに遠くに離れてはいないと思うのだけど……、上手く気配が掴みきれないわ」
イライラした様子を隠しもせずに紫紺が伝える。
「おい……、紫紺。奴がいるところにレンはいるんじゃないのか?」
白銀は空を仰ぎ見て、紫紺に問いかけれる。
ヒューバートもつられて上を見ると、オルグレン山の近くの空に、黒い大きな鳥が飛んでいた。
しかもグルグルと同じ場所を旋回して飛んでいる。
「あれは?」
「「レンのストーカーだ!」」
ストーカーとは……なんだろう、とコテリと首を傾げたが、あの鳥の真下にレンがいるのだと分かると、ヒューバートはセバスを呼び、騎士たちを半分その場に残して、森の中へと入って行く。
レンを無事に連れ戻すために。
白銀と紫紺はヒューバートたちを待たずに、ダッと駆け出し森の中へ消えて行った。
「アリスター、行くぞ」
「おうっ!」
ととと。
トテトテ。
ととと。
トテトテ、ピタッ。
クルリ。
トカゲがぼくを見るので、ひらひらと手を振ってみる。
トカゲは安心したように前を向いて、トテトテと歩いて行く。
途中、風景がぐんにゃりとした場所を通ったような気がしたけども、トカゲの後を追いかけるのに夢中で、足を止めることなく進んでしまった。
ふと、兄様たちに何も言わないで森に入ってしまったことに、罪悪感を感じた。
ピタッと足を止めて、後ろを振り返る。
「んゆ?」
随分と……森の奥に入ってきてしまったような……?
おかしい……。
沢山歩いてきた気はするが、いつもそうは思っても実際にはちょっとしか進んでいないのが現実だ。
自分の感覚と、悲しいかな自分の足の長さが違うのだから、しょうがない。
今も、夢中で歩いてはいたけど、たぶん10メートルぐらいしか進んでないと思ってたのに……、後ろに広がるのは深い森、森、森……。
兄様たちと一緒に休んでいた場所が、どこだか分からないぐらいに離れてしまった。
「……ふぇっ」
急に怖くなってきた。
ひとりで、よくわからない森の中で、ここは魔獣も出る危ないところで、しかもトカゲは何も喋らない。
「びえっ……、ええっぐ」
じわっと目が熱くなって、涙が溢れてきた。
ひっくひっくと胸が上下して、口がピクピクと震えてくる。
兄様?
セバス?
アリスター?
白銀と紫紺?
チルとチロ?
どうしよう……、迷子になっちゃったかも。
真っ直ぐ進んできたのだから、来た道を戻ればいいのかもしれないけど、何故かそれでは兄様たちのいる場所には戻れないことが分かる。
クイクイ。
「……っく。ひっく」
何かがズボンの裾を引っ張っている。
足元を見てみると、あの赤いトカゲの口がレンのズボンの裾に噛みつき、クイクイと引っ張っている。
まるで、こっちにこいと誘うように。
「だめ……。にいたま、だまってきたもん。だめ…。まいごは、うごいちゃだめ」
レンはその場でしゃがみ込む。
トカゲは真っ直ぐにレンを見つめ何かを訴えているようだが、あいにくレンにはトカゲの言葉はわからない。
「ギャウギャウ」
可愛い声で鳴いてるけど、ぼくには何を言ってるか分からないよ?
白銀と紫紺が一緒にいれば、通訳してくれたかもしれないけど。
ごめんね、という気持ちを込めて背中を撫でてみた。
「ツルツル。スベスベ」
トカゲは、触り心地が意外と良かった。
トカゲを撫で続けていると、目の前にふわふわと何かが浮かんでいるのに気づく。
「んゆ?」
ふわふわ。
これって、チルとチロと初めて会ったときと同じだ。
よく見てみると、ふわふわは小さな人の姿で背中に羽がある。
薄い羽は赤い色をしていて、小さい人の顔はチルとチロよりも意志の強そうな顔付きをしていた。
「……ようせいしゃん?」
レンの周りをふわふわ、ふよふよ。
いつのまにか、レンとトカゲの周りは火妖精たちでいっぱいだった。
トカゲはずっとレンの服の裾を噛んで、あっち、あっちと誘導している。
「あっちに行くの?」
トカゲはレンの言葉にウンと頷いたように見えた。
いっぱいいた火妖精もふわふわ、ふよふよ、漂いながら整列し、レンに道を示す。
こっちに何があるんだろう?
その妖精の作った道の先には……オルグレン山が聳え立っていた。