森の調査 1
誤字脱字報告ありがとうございます!
いつも、ありがとうございます。
ブルーフレイムの街の外門を出て、ぼくたちは森へと向かっています。
冒険者ギルドのギルマス、トバイアス様との会談を終えた後、ギルドの部屋を借りて2組の冒険者パーティーの話を聞きました。
まだ冒険者になりたての獣人たちのパーティーは、オルグレン山の頂上付近で噴煙にチラチラと赤く燃える竜を目撃したことを、やや興奮気味に語ってくれた。
大人しく聞いていたぼくも、ふおおっ!と気分が盛り上がってしまう語り口だったけど、冷静な兄様とセバスの質問にパーティーのリーダーは「竜っぽく見えただけ」と証言を変えてしまった。
次のパーティーは、ブルーフレイムの街を拠点に稼ぐ中級冒険者パーティーで、ドワーフがリーダーの亜人混合パーティーだった。
こちらは、オルグレン山の頂上に火が噴き出したように見えたので、噴火が起きるかも?と思っているぐらいのお話だったよ。
噴煙を吹いている火山だから、確かにいつ大噴火してもおかしくないよね?
つい、前世の知識で「じしんあった?」「においした?」など質問して、兄様に変な顔をされてしまった。
ちなみに地震は感じないことと、匂いはずっと昔からなんか腐った匂いがするとのこと。
噴石もここ最近は無いけど、噴煙が多いときに小さい噴石はあるらしいって。
ふむ……よく分からないな……。
セバスが言うには、特に変わったことではないらしいよ。
そして、そのまま屋台で食べ物やお菓子も買って、宿に戻って騎士たちの調査を待ちました。
お菓子は冒険者がよく買って行くらしくて、ひと口サイズの焼き菓子がいっぱい売ってました。
美味しいそう……、じゅるり。
マカロンみたいな可愛いお菓子、カヌレみたいなお菓子、マドレーヌ……、じーっと見てたら兄様たちに笑われちゃった。
夕方には森に調査へ出ていた騎士たちが戻ってきて、兄様にご報告。
特に何もない……って、報告でした。
オルグレン山の状態も通常と変わらず、森の状態も、出没する魔獣のレベルも変化なし。
「うーん、話だけだと判断できないな……」
兄様も腕を組んで眉間にシワを刻んで考えます。
「では、明日はヒューバート様たちが直接、オルグレン山まで行かれますか?」
「そうだね。騎士たちの編成を頼む。あ、アリスターも交ぜてくれ」
「かしこまりました」
セバスが部屋から出て行くと、リリとメグがお茶の準備を始めてくれる。
宿はブルーフレイムの街で1番大きい宿で、最上階のフロアは貴賓室扱い、辺境伯様や王族、高位貴族が利用する部屋なんだって。
ぼくたちは、その下のフロアを使っているけど、充分に豪華なお部屋です。
「レン。明日は森に行ってお山まで歩くから、宿で待っているかい?」
「……、やー」
ぼくはブルブルと頭を左右に振る。
ひとりでお留守番は寂しいもの……。
森の中は魔獣が出るから危ないのは分かるけど、白銀と紫紺もいるし、付いて行きたいな……。
わざとじゃないけど、うるうる潤んだ瞳で兄様を上目遣いで見て、そう訴えたらお許しが出ました!
「レンは守るから安心しろ」
「そうよ。ここら辺の魔獣なんてたいしたことないわ」
白銀と紫紺も、ぼくのボディーガードよろしく胸をふんすっ!と張ります。
「そうだね。白銀と紫紺、レンをよろしくね」
兄様の言葉に尻尾を振って応えるふたりでした。
だから、今日は森に入るので兄様もぼくも動きやすい服装で、兄様は簡易鎧と籠手を身に付けて、帯剣しています。
よしっ!探検へ、レッツゴー!
僕たちの前に、昨日も森に入った騎士たちが先導し、列の真ん中に僕とレンと白銀と紫紺。
すぐ後ろにアリスターとセバスが続き、後衛にも騎士を連れていく。
レンは体を大きくした白銀に乗っているので、何かがあったときには安全に逃げられるだろう。
本来、レンを背中に乗せるとご機嫌になる白銀だが、レンが落ちないように紫紺も背中に乗っているため、複雑な顔をしている。
さて、森の様子は変わらないように見えるし、遠くに見えるオルグレン山の噴煙も昨日、一昨日と見たものと変わらないように感じる。
辺りをさりげなく見回すと、低レベルな魔獣がチラホラ見える。
父様の話では、オルグレン山の噴火が疑われるときは、レンが言った「地震の頻発」「匂いの変化」「噴石」そして「魔獣の移動」があるらしい。
僕たちよりも異変に敏感な魔獣や動物は、危ない山から逃げようとするらしいから、鳥や低ランクの魔獣たちの行動を観察しているけど、問題なさそうだな。
ただ……。
「チロ?」
『……なあに?』
僕と契約している水妖精のチロは、だいたいいつも僕の髪の中に隠れているけど、森に入った頃から元気がない。
レンと契約しているチルも新しい街に来たら大抵「情報収集」と名の散歩に行くが、ブルーフレイムの街に来てからは、ずっとレンにくっ付いている。
変化があるとしたら、この水妖精ふたりのことだな……。
「何かあるの?」
『……ここは、いやなの』
つーん、と顔を背ける。
『ここは、おれたちの、にがてなやつ、いっぱい』
レンの頭の天辺からひょこり顔を出したチルが、顔を顰めて言う。
「にがてー?」
レンが自分の頭に両手を乗せて、チルをそっと捕まえると、自分の顔の前に連れてくる。
『そうだぞー。ここは、おれきらーい』
水妖精が苦手なものってなんだ?
僕が不思議に思っていると、セバスが何かを思い出したように手を叩く。
「そういえば、ここの森一帯には火精霊が多いと聞いたことがあります。火精霊の加護のおかげでブルーフレイムの街は火魔法属性の市民も多く、この森も火魔法による延焼が起きないとか」
「火精霊?」
「せいれーしゃーん?」
そんなに沢山、精霊とかがいるのか?
妖精や精霊って普通はそんなに会ったり、存在を感じたりできないと思うんだけど……。
父様からも聞いていなかった新しい情報に困惑していると、チロが忌々し気に言い放った。
『ここは、ひせいれーおうの、あそびばなの!』
また、精霊王なの?