火山の街へ 4
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いつも、ありがとうございます。
2階建ての大きな建物の前で、ぼくと兄様は手を繋いで立っています。
ぼくの横には、白銀と紫紺。
後ろには、セバスと護衛のアリスター。
チルとチロもそれぞれの契約主の髪の中に隠れています。
やってきました!ブルーフレイムの街の冒険者ギルド!
ぼくは冒険者ギルドに来るのが初めてだから、ドキドキワクワクしてるよ!
兄様とアリスターは、ブループールの街で冒険者登録しているし、白銀と紫紺は冒険者として依頼を受けているし、初めての場所に興奮しているのは、ぼくだけだ。
「さあ、行くよ」
「あいっ!」
いざ!突撃ーっ!
セバスが扉を開けると、ドアベルがカラーンと軽やかな音を立てる。
朝ご飯を食べて既に動き出している時間だから、冒険者ギルドの中は比較的落ち着いているようだった。
朝早いと、条件の良い依頼を受けようと冒険者たちがひしめき合っているらしいので、少し訪問時間をズラしたんだよ。
依頼書が掲示されている依頼ボードを見てみると、常設依頼と言われる薬草採取など低ランクの依頼書を確認している幼い冒険者たちと、依頼書を整理しているギルド職員さんがいる。
店の奥に一列に並んだカウンター席があり、そこには上に吊るし看板で「受付」「買い取り」「登録」等など担当窓口がどこか分かるようになっている。
「とうろく?」
「ううん。違うよ。レンはまだ登録できないよ。もう少し大きくなってからね」
「ぶうっ」
兄様の言葉に思わず頬が膨らんじゃうよっ!
ギルドのフローリングの床を、不機嫌にドタドタとわざと音を立てて歩く。
「ドタドタ?」
「ぽてぽて、としか聞こえないわ」
うるさいですっ!
セバスが受付に座る綺麗なお姉さんに、「ギルマスと約束している者ですが…」と声をかける。
どうやら、兄様はギルドマスターにドラゴンの目撃情報を確認するようだね?
じゃあ、ドラゴンを見た冒険者たちもいるのかな?
ぼくは、キョロキョロと周りを見回す。
右奥にはギルドに併設されている酒場があって、まだ朝の時間なのに何人かは酒瓶を煽ってます。
ぼくは、その人たちと目を合わせないように、そおっと反対側に顔を向ける。
酒場の反対は、魔道具やポーションを売る小さなお店になっていて、店番にお耳の尖った綺麗な女の人がいた。
エルフ族…かな?
「レン。ギルマスは2階で待ってるから、行こう」
「あい」
ぼくは、なんとなくエルフのお姉さんに手を振ってみた。
ひらひらと、振り返してくれました!
ギルドマスターの部屋は大きな執務机と、年季の入ったソファセットがある、やや殺風景な部屋でした。
兄様とぼくがソファに座って、セバスとアリスターは後ろに控えて立っています。
対面のソファに、ドカリと大きな体の男の人が座りました。
「ブルーフレイムの冒険者ギルドマスターのトバイアスだ。よろしくな」
ツンツンに立てた短髪に鋭い目付きで大きなお口のおじさんが、ニッカリと笑います。
筋肉が盛り上がっている大きな体は、まだまだ冒険者現役ってイメージなのに、あの大きな執務机で書類仕事をしているなんて似合わないよね?
「ぼくはブルーベル辺境伯の代理で来ました、辺境伯騎士団長ギルバートの一子、ヒューバートです。こっちは弟のレンです」
「レン、でしゅ」
ペコリと、ぼくは頭を下げてしまう。
「おう。ギル坊は元気か?」
「……元気です。父とは?」
「俺とギル坊は昔馴染みだ。だからそんなにかしこまるなよ」
ギルマスはにゅっと両腕を伸ばして、ぼくと兄様の頭をガシガシと撫でる。
ちょっと力が強くて、頭がグワングワン揺れる~。
「お前さんたちの父親がまだガキの頃に、一緒に冒険者として依頼を受けたことが何回かあってな。いやあ、懐かしいっ!なあ、セバスティーノ」
「……。そうですね」
ぼくは驚いてソファに座ったまま、セバスを仰ぎ見る。
セバスは苦笑して、ぼくの頭の位置をそっと戻してくれた。
「トバイアス様が父の知り合いとは嬉しいです。後で昔の話を教えてください」
「いいぜ」
ぼくは兄様と顔を見合わせて、ニッコリ微笑んだ。
わーい!楽しみだなぁ。
「ところで、ドラゴンのことですが……」
ゴホンゴホンとセバスが咳払いをして、ギルド訪問の本来の目的に軌道修正してくれた。
ギルマスは「俺のことは、ギルマスでいいよ」と気さくに笑い、ドラゴンの話には後頭部を掻いて言いにくそうに視線を彷徨わせる。
「昨日、エドガー様に挨拶したときに、ドラゴンは見間違いではないか?と言われましたが……」
「ううーん。見間違いって訳ではないが、ドラゴンかっていうと……自信はねぇな」
「ドラゴンしゃん、いない~?」
ぼくは首を傾げて尋ねる。
ドラゴン……見てみたかったな……、瑠璃が言うには「亜竜」だから、本当のドラゴンじゃないらしいけど……。
「坊主の期待に応えたいような応えたら大事になって考えたくないような…。俺の勘じゃドラゴンじゃねぇな」
「そうですか。ドラゴンが街の近くに出没したとなると騎士団総出での対応が必要になるので、ドラゴンじゃなくて良かったです。でも、一応調べますね?」
「おう。後で目撃した冒険者たちにも、聞き取りしてくれ。ただ…あいつらはドラゴンを見たとは言ってない」
「ドラゴン…みてないの?」
ギルマスは、テーブルに置かれた紅茶の入ったティーカップを鷲掴みしてグイッと口に運ぶ。
一気に紅茶を飲み干した後、口元を拳で拭い、
「あいつらは……火の鳥を見たんだとよ……」
火の鳥?
はて?そんな生き物がこの世界にはいるのかな?
ぼくの隣にお座りしていた白銀と紫紺の尻尾が、ぶわっと膨らんだ。