火山の街へ 1
誤字脱字報告ありがとうございます!
いつも、ありがとうございます。
ブルーベル辺境伯領最大の街、ブループールは雪降る冬を越え春の歌声が聞こえ始める時期になりました。
ぼくこと、レン・ブルーベルもこの『カラーズ』の世界に転生して、神獣聖獣の白銀と紫紺と出会って、ヒューバート兄様たちと家族になって、そろそろ1年を迎えようとしています。
ブルーパドルの街でお祖父様たちと会ってからも、いろいろとありました。
まず、ギルバート父様の弟でブルーベル辺境伯ハーバード様が、奥様のレイラ様と嫡男のユージーン様と一緒に王都へ行かれました。
王様に直接報告しないといけない案件が重なったので、珍しく家族総出で王都へ行かれました。
ぼくと兄様もいつか王都へ連れて行ってくれるそうです。
楽しみだなぁ~。
ハーバード様が王都へ行かれるときは、その代理で父様とブルーパドルの街からお祖母様がヘルプに来られているんだけど、今回は違ったらしいよ?
まず、辺境伯様に付いて王都に行くはずのセバス兄は居残りで、お祖母様の代わりにブループールの街にやってきたセバス父がセバス兄弟をビシバシ指導しながら、辺境伯様のお仕事を頑張ってました。
父様も手伝ってたけど、「今回は楽だなーっ。いつもこうだったらいいのに」と上機嫌でした。
よかったね!父様。
なんでか、セバスたちは目に光が無くなって生ける屍のようだったけれども……。
そして、もうひとりの助っ人は……、ジャジャーン!父様の末弟のアルバート・ブルーベル様だよ!
冒険者であちこちを冒険して旅をしている人なんだ!
今回、ブループールの街に戻ってきたんだけど……、父様とハーバード様にもの凄ーく怒られていた。
よくわからないけど、お約束を破ったからなんだって。
兄様が説明してくれたんだけど、「叔父様はね、ブルーベル辺境伯家にトラブルがあるときは、父様たちを助けるって約束で自由にさせてもらってたんだ。だけど、この間、僕たちが拐かされたとき、ダンジョンに潜っていて間に合わなかったから、そのペナルティなんだよ」って。
あー、タイミングが悪かったんだね?そういう人いるよね?
冒険の話を聞きたかったけど、父様がニコニコしたお顔で「あいつらは、冒険者ギルドの困った仕事を請け負っているから、しばらくは忙しいからな。またあとでな?」と教えてくれました。
困った仕事って?なんか、下水掃除とか、お化け屋敷みたいな空き家の調査兼取り壊しとか、孤児院の補修工事とか……冒険者に人気の無い仕事がいろいろあるみたい。
残念だけど、大人しく待っているよ?アルバート様はしばらく冒険しないで領地にいるらしいから。
プリシラお姉さんは、なんとか人に馴れてきて、女性と子供は接しても大丈夫になりました。
でも急に大きな声を出したり、触ったりしたらびっくりするから、そこは注意だよ!
キャロルちゃんと一緒にお勉強したり、趣味のお裁縫をしたり、騎士団の寮母さんにお料理習ったりして過ごしているよ。
海王国のベリーズ侯爵からのお手紙は頻繁に届くので、お遣いに来る水の精霊さんとぼくやチルとチロは仲良しになりました。
レイラ様たちが冬の前にブループールの街に戻られてからは、淑女教育?を辺境伯様のお屋敷で受けたりしているみたい。
たまに、レイラ様とプリシラお姉さんと母様と人化した紫紺とで、街へお買い物ツアーをしているよ。
「一緒に行く?」と誘われるけど、首をブンブン振ってお断り。
だって……お買い物の時間……すごい長いんだもんの。
カフェのスイーツには心動かされるけど……、護衛のアドルフやバーニーが帰ってきて「稽古の方がラクだー」って愚痴ってるの聞いたら、ねえ?
兄様はアリスターと剣の稽古をして、貴族子息としてお勉強もしっかりして、マナーやダンスも習得して、念願のお馬さんデビューもしました!
文字通り、白馬に乗った王子様ですよ!かっこいい、兄様。
まだ、ぼくを乗せるのは許されてないけど、春になったら兄様のお馬に乗せてもらって、丘に行ってお花畑でお弁当を食べるんだーっ!
ぼくも少し、成長しました。
身長のことじゃないよ?気持ちのほうだよ?
んっとね、ちょっとだけ自分のしたいことや嫌なこととか言えるようになったの。
前は兄様が気が付いて「どうしたの?レン」と尋ねてくれたけど、今は「ぼくはこれやりたい」とか「ぼくはあんまりすきじゃない」とか意思表示できるようになりました。
だって、兄様はもちろん、父様も母様もみんながぼくの気持ちを慮ってくれるのがわかるから……。
我儘かな?って思うことも、なるべく言葉にするの!そうすると、兄様たちが「レンの思っていることが分かって嬉しい」って喜んでくれるから!
ねえ、瑠璃、シエル様。
ぼく、とっても幸せだよ?
「すまない」
朝、いつものように剣の稽古を終えた僕と兄様は身支度を整えて食堂へ。
いつものように朝のご挨拶をしたら、父様はテーブルに両手をついて頭を下げているし、母様は困ったように笑っているんだけど、どうしたの?
「父様、どうしたんですか?」
兄様は、動揺しながらもぼくを椅子に抱き上げて座らせて、自分はセバスが引いた椅子に座る。
顔を上げた父様は、つーと視線を逸らす。
「その、な。アルバートのことなんだが……。そろそろ仕置きを終わらせようと思ってな……。最後の面倒事を押し付けようとしたんだが……それどころでなくなった」
かなり言いにくそうに言葉を詰まらせながら、父様は語る。
兄様はその間も、ぼくのお皿のソーセージをひと口サイズに切って、チーズをハムで巻いて、レタスとトマトをひとまとめにして、と甲斐甲斐しくぼくの朝食のお世話をしてくれる。
もきゅもきゅ、うん、今日も美味しいよ。
「アルバートとそのパーティーにはハーバードから指名依頼を出して、ブルーフレイムの街へ行ってもらうことにした」
「ブルーフレイムですか?」
ブルーフレイムとは、お祖父様たちが住むブルーパドルの街とは反対側にある山間の街。
隣国との逆目になるハーヴェイの森と標高の高い山々バース山脈があり、その中でもオルグレン山は火山でモクモクと白煙が立ち昇っているんだって。
ここから馬車で3日ほどの旅程だ。
父様と兄様の話を聞いていて、ぼくは呑気に「火山があるなら温泉があるかな?」と思っていた。
日本人なら温泉、好きだよね?
こっちの世界の人は、あんまり入浴に拘りがないんだよ。
生活魔法の「クリーン」で体も洋服も綺麗になるしね。
騎士たちもお風呂にゆっくり入る人が少なかったけど、ぼくが「つかれがとれる」「よくねむれる」と訴えまくったら、お風呂に入る人がグーンと増えたんだ。
「ある魔獣が目撃されてな、騎士団でも騎士を派遣する。そ……それで……」
父様は、お口をもごもご。
「すまないっ!辺境伯家としてヒュー、お前もブルーフレイムへ調査に行ってくれ!」
父様、ふたたびガバァーッと頭を下げる。
ぼくと兄様はふたり揃って、コテンと首を傾げた。
「いいですけど……。なぜ、僕に?」
「いろいろと事情があってな……。だが、辺境伯家として行かないわけには……。ちっ!アルバートじゃ辺境伯家としての面子が守れないなんて……」
なんだろう?
辺境伯家として誰かが行かないと、領民に対して立場的にマズイのかな?
「わかりました。詳しいことはあとで聞きます。で、いつ出発ですか?」
「急ですまないが、明後日にはアルバートたちと一緒に発ってくれ」
「はい。あ……目撃された魔獣ってなんですか?」
父様は眉間にぎゅっとシワを強く寄せて、忌々し気に口にした。
「……ドラゴンだ……」