夢の中で会いましょう
ブルーパドルの街から帰ってきて、辺境伯様にお会いして、騎士団の施設を見学して、教会に行って、他にも街でお買い物したり、兄様の乗馬の練習を見守ったり……。
毎日、毎日、楽しくて目まぐるしく過ぎ去っていくようだったなぁ。
兄様のベッドに潜り込んで、幸せに眠っていたぼく。
夢の中で、誰かに呼ばれている気がするの?
どこ?だあれ?
真っ白い空間を、なんとなくぽてぽて歩き続けると、ぼんやり霞む誰かがぼくを待っていた。
深い緑色の髪をゆるく三つ編みにして左胸に垂らして、着物みたいなズルズルした服を腰の飾り紐で縛って、穏やかな青い瞳を細めて、ぼくを愛おし気に見る、瑠璃だった。
「るり?」
ここはぼくが見ている夢だと思うんだけど……、かなりリアルな瑠璃が立っているんだけど?
どうして?
「ははは。ここはレンの夢の中じゃよ。渡した儂の鱗のお陰で、こうして夢の中で会えるのじゃ」
瑠璃にもらった鱗って……、このペンダントのことだよね。
じゃあ、ここにいる瑠璃は本物なんだ!
ぼくは嬉しくなって、跳ねるように走って瑠璃の足にポスンと飛びつく。
「るーりー!あのね、あのね!」
瑠璃と別れたあと、クラーケン料理を作って食べたことや、ブルーベルの街に戻ってきてからのこと、シエル様に会ったことを瑠璃に話して聞かせていく。
「そうか、そうか、よかったのう」
胡坐をかいた足の上にぼくの体を乗せて、ゆらゆらと体を揺らしながら話を聞いてくれる。
「やっとシエル様に会えたか、よかったのぅ。あの方も安心したじゃろう」
「んー、なんかぼくに、たくしゃん、ちからをくれたみたい。でもおおきくなるまで、おあじゅけ」
この世界でも安全に暮らしていけるように、強い力を与えてくれたらしいけど、確認はできないんだよね。
魔力検査もまだできないし、ステータスオープンとか呟いても何も起こらなかったし。
大きくなるまで力は封印されているから、今はお預け状態なのだ。
「ふむ。鑑定のスキルを持つ者ならば、レンの能力が分かるかもな。ただ、かなり優秀な者でないと、あの方の施した隠蔽を見破ることはできんのぅ」
隠蔽?
「レンの力を悪い奴らに悪用されないように、隠してあるのじゃよ。だが、スキル能力の高い者なら看破することもできるじゃろ」
「むーっ。しろがねは?しこん?」
「あ奴らは、今は失った能力を取り戻すので精一杯じゃ。儂も鑑定は持っとらんし」
うーん、じゃあやっぱり大きくなるまで待ってなきゃダメなのかな?
あとあと、加護もプレゼントしてくれたよっ!
「運よく他の神獣と聖獣に会えれば鑑定スキルを持っている奴もおるじゃろ。加護はちゃんと『創造神の愛し子』がついとるようじゃぞ?」
「んゆ?」
ぼくは首を傾げる。
それって、どんな加護なの?
「うん?そうじゃな、力がちょっと強くなって、病気にかからなくなって、いいことが起きやすくなるぞ」
「……ラッキーてこと?」
「そうじゃな。らっきー!てことじゃ」
くふふ。あははは。
そのあとも瑠璃と夢の中で、いろんなお話をしたよ。
プリシラお姉さんにベリーズ侯爵家からお手紙が届いたんだけど、海王国から届けにきた水の上位精霊さんがチルとチロを見てびっくりしていたとか。
ブループールの街にも、人魚族の人が住んでいるぞ、もしかしたら騎士団にいるかもな?ていう情報とか。
ぼくの夢の中なのに、瑠璃の足の上でこっくりこっくり眠るまで、ずーっとお話ししていたの……。
「レン、寝てしまったか?」
足の上のレンの重みを愛しく思い、ぎゅっと抱きしめた。
柔らかくて、甘い菓子の匂いがする。
毎日、夢渡りをしてこうして言葉を交わしたいが、さすがにレンの負担になるだろう。
残念だが、月に2~3回ぐらいにしよう。
頭を撫でながらレンがヒューバートの隣で目を覚ますまで、聖獣リヴァイアサンは創造神の愛し子を愛でていた。