神様に会いに行きましょう~白銀と紫紺の場合~
レンの姿が、白い部屋に溶け込むようにスウーッと消えていく。
ヒューたち家族の待つところへ戻ったのだろう。
俺と紫紺は、まだ神様であるこの方に聞きたいことやお願いしたいことがあるから、神界に残った。
「もう、そんな怖い顔をしないでよっ!」
「……貴方はレンに何を望んでおられるのか?」
「あんな小さい子に、世界の選択を任せたんじゃないでしょうね?」
紫紺も俺と同じ疑問を持っていたみたいだな……。
「ええーっ!誤解だよ、誤解!あ、ああー……レンくんがリヴァイアサン、瑠璃だっけ?瑠璃と契約したからそう思ったのかい?」
俺たちは揃って頷く。
「んもうっ!それは偶然だよ?まさかレンくんが、海に飲み込まれるとは思わないじゃないか。単純に助けを求めたのが瑠璃だったんだよ。契約については……レンくんが可愛くて大人気としか言えないよ?」
別に、僕は特別な魅了の力を授けた覚えはないよ……とぶつぶつ文句を言う。
「でも、アタシたち全員と契約させようとか思ってるんじゃないの?」
「まさかまさか。僕はねぇ、あっちの世界で不憫だったレンくんが、僕の世界で幸せにほのぼの過ごしてほしいの!だから使命とか与えてないし、試練を与えるつもりないし……」
他の神獣と聖獣と契約させるつもりはないのか?
てっきり、この方は俺たちを結びつけて、在りし日の約定を守らせるつもりかと疑っていたのだが?
「だいたい、レンくんの保護を求めて全員に断られているんだよ?こっちが頼み込んで脅してようやく白銀と紫紺が保護してくれたレンくんを、他の子たちに会わせて意地悪されたら、かわいそうじゃないか……」
しょんもりしてしまったこの方に、何もいえなくなる俺。
そういえば、最初に話を持ってきたときに、威嚇してほとんど真面目に話を聞かなかったな……俺。
隣を見ると、紫紺も「そういえば……」みたいな顔をしている。
「ただ、レンくんが無条件で転生するのに心苦しそうだったから、テキトーに言っただけだよ」
「なんて?」
「みんなと友達になってねー、て。そこに神獣聖獣となんて文言は入ってません!友達になるのは人族はもちろん獣人とか亜人族でもいいし、精霊妖精ドンとこいっ!て感じ」
はあーっ、と脱力する俺たち。
この方は相変わらず……とんでもなく呆けた方だ……。
「じゃあ、たまたまレンの周りに、いろんな種族が集まるだけなのね……」
「うーん、僕が作った体だから、多少は運の巡り合わせはいいかも……。でも特に他の子たちに会うように仕組んではないよ?下手なことして怒られたら怖いじゃないか!君たちはすぐに怒るから……」
「怒られるようなことを、するからだろうが……」
ブルッと体を震わせて、尻尾をふさりと大きく振る。
「まだよ白銀。アタシたちの力のことを確認しなきゃ」
おっと、そうだった。
レンの側に早く戻りたいが、失われた自分の力を戻してもらわなければならない。
「大丈夫だよ。向こうとこちらの時間の流れを止めているから。レンくんは君たちと離れているのに気づかないよ」
「俺たちがすぐに戻りたいんだ」
ふふふと笑うあの方は、俺たちのレンに対する態度に至極満足しているようだった。
「アタシたち……使えない力があるんだけど、失った力を取り戻すことはできるかしら?」
んんーっ?と俺と紫紺の体を上下左右に眺める。
「失ってはいないよ?確かに使える力にムラがあるみたいだけど。気持ちの問題かな?あんなことがあって、自分たちの全力を解放することに、恐怖や罪悪感があるんだね……」
全力を解放するのに戸惑う自分の心……。
「僕から力の解放を促すようにするけど、自分で必要だと思わないと難しいかも……。レンくんを守るのに力を求める意識を持つことが大事だよ?」
ほいっ!と軽い掛け声で俺たちに神力を流す。
「なるべく、使えない力を使おうと練習してね」
神獣様である俺様が……いまさら練習するのか…。
しかし、レンのためだと思えば、できるかな?
本当に目を離すと、何かトラブルに巻き込まれていそうで怖いんだよ、あいつは。
タシッと紫紺の前足が、俺の肩に乗せられる。
「頑張りましょう」
「ああ……」
そうして、目的を達成した俺たちは、レンの元へと戻るのだった。
「じゃあねー!また来てねー!レンくんのことお願いねー!」
ぶんぶんと神様に手を振られ見送られながら。