騎士団の見学に行きましょう
おはようございます!
今日は朝ご飯の前に、久しぶりに剣のお稽古です!
でも、でもね?
今日はプリシラお姉さんと、アリスターの妹のキャロルちゃんと、父様が一緒なんですっ!
「なんでレンは、こんなに興奮しているんだ?」
白銀が器用にぼくの突進を、ふわさっと尻尾でいなしながら、紫紺に尋ねる。
「みんなと一緒に稽古ができて嬉しいんでしょ。このあとの騎士団見学とか」
そうです。
朝の稽古が終わったら、兄様とアリスターも一緒に、騎士団の食堂で朝ご飯を食べるんです。
母様がひとりぼっちで可哀想だけど……、でもでも好奇心マックスのぼくは、楽しみでしょうがないの!
だから、お稽古にも気合が入るってもんでしょ?
そして繰り返される、「てやー」「やー」「いちゃい」と力の抜けるぼくの掛け声に、副団長の生温い視線を感じるが、無視です。
「やー!」
「おっと」
ふさふさ、ふささーっ。
「てやーっ!」
「ほい」
ぷにっ。
「わーっ!」
「残念!」
ヒラリと避けられて、ポテンと転んで、べちゃと顔を地面に打ち付ける。
「いちゃい…。いちゃ…。うえっ……いちゃいの……びええぇぇん!」
「しまった!ごめんごめん。レン、悪かった!ごめんって」
「何やってんのよ!レン、大丈夫?」
紫紺のしなやかな尻尾に捕まって、立ち上がります。
「……ちゃい……」
ぐすぐすしてたら、キャロルちゃんが薬箱をうんしょうんしょと運んできて、手当をしてくれました。
そのあとは大人しく、兄様対アリスターとか、父様対マイルズ副団長の立ち合いを見学しました。
みんな、格好良かったよ?
兄様の剣術は、流れるように舞うように繰り出される正確な剣。
アリスターは粗削りな力技が多いって、大剣使いのアドルフさんが解説してくれました。
ちなみに、父様とマイじいは引き分けでした。
なんか、つい熱が入ってやり合ったら、模擬剣が折れちゃったって。
凄いね?刃は潰れされているけど、ふたりとも分厚い刀身がポッキリ折れてます。
「朝の稽古はここまで!」
父様の号令に全員一同礼をして、散開していきます。
「レン、お待たせ。食堂に行こうか?」
兄様の爽やかな笑顔はいつもと変わりませんが……汗が凄いですよ?
ぼくが拭きます。タオルを両手に持ってふきふき……手が届かないーっ。
兄様が屈んでくれました。
ふきふき。
アリスターもキャロルちゃんに汗を拭われているよ?
なんでかアリスターは、がっくしポーズだけど。
兄様が、ちょっとシニカルに笑って「体力不足だな」って言いました。
みんなで食堂に移動します。
プリシラお姉さんは、大勢に囲まれるとドキドキしちゃうから、わざわざ食堂の一角をパーテーションで区切ってあるらしい。
ぼくたちが席に座ると、バーニーさんたち騎士さんが、食事のトレイを運んできてくれました。
「ありがとー、ごじゃーましゅ」
ぼくは、ペコリとお礼を言います。
プリシラお姉さんも小さな声で、「ありがとうございます」と言ってます。
少しずつ人に馴れていこうね!
大丈夫、ぼくだって少しずつ馴れてきたもん!
「レン、本当に騎士たちと同じ食事でいいの?」
兄様が、心配そうにぼくを見ます。
……。
うわぁおぅっ!まさしく騎士の食事って感じ。
それもダメなパターン……。
肉、肉、肉のオンパレードでした。
あ、白銀は大喜びだね?
チルが『うまくなさそう、きょうは、まりょくだけで、いい』と顔を顰めて、ぼくの指から勝手に魔力をちゅーちゅー吸っています。
丸パンは籠に山盛りで、大きなお皿には大きなソーセージがデーンと2本、鶏肉の香草焼きがデデーンと鎮座して、ハンバーグ並みの大きさの肉団子が幾つも赤いソースに溺れています。
そしてお皿の端っこに、ちょろっとサラダ。
前世の感覚では……栄養バランスが悪い食事なのでは?と思う。
「ん?多かったか?料理人には少な目にオーダーしたはずだが?」
父様とマイじいが、自分たちの食事トレイを持ってやってきた。
念のため、プリシラお姉さんとは一番離れた席に座る。
そのふたりの食事量に、目がテン。
え?朝から肉しか食べないの?しかもその肉の量が前世の大食いタレント並みの量……。
「とうたま……たべきれにゃいので、これあげましゅ。あと……これをこんぐりゃいにきって、こうして、こうしてくだしゃい」
ぼくは丸パンを上下に割ってもらい、ソーセージを3等分にしてもらった。
パンの上にサラダから葉っぱを取って敷いて、パプリカっぽいのを細切りにしてもらって、櫛切りのトマトを薄切りにしてもらって、その上にソーセージ。
肉団子の赤いソースをかけて、パンで挟みます。
ハンバーガーもどきにして、口を大きく開けて、
「いただきまーしゅ」
がぶり。
もきゅもきゅ。
うん、美味しい。
「どうちたの?」
みんなぼくを見て、食事の手が止まっているよ?
「レン……それは美味しいのか?」
「父様、そんなのレンの顔を見れば分かります!」
「俺も真似してみよう」
「あ、アリスター、とりさんでもいいの!これにゃりゃ、こうして、こう!」
アリスターは、ぼくが教えたとおりに鶏肉を挟んだバーガーと、肉団子を薄切りにしたのを敷き詰めたバーガーを作って齧り付いた。
「んー!んー!」
「アリスター、美味しいんだな?」
「ん!ん!」
アリスターは、口にリスのように食べ物を詰めて、うんうんと頷く。
そのあとは、父様もマイじいも兄様も真似をして、プリシラお姉さんとキャロルちゃんも美味しそうにパンに具材を挟んで食べていました。
白銀と紫紺の分も作ってあげたよ、兄様たちが。
チルが食べたそうにしていたので、ミニミニサイズのバーガーは、ぼくが作りました!
気が付いたら、食堂にいた騎士さんたちも、みんなバーガーにして食べていました。
あとで気が付いて、オロオロしちゃったんだけど、手づかみで食べるってお行儀悪かったかも……、ごめんなさい。