出会い 6
「んにゅ?」
誰……なの?いや、誰か分かってるけど…ほんとうに?
白い煙と共に現れた謎の騎士さんそのいちは、銀色に輝く長髪をあちこちに跳ねさせて、見るものを凍らせてしまいそうなアイスブルーの瞳。
しかも切れ長の目を飾るのは銀色のふさふさ睫毛。整ったお顔もどこか厳しくて冷たい印象なんだけど…クッと片方を歪めた薄い唇とドヤッとしたやや上げられた顎を見てると、かわいいなと思う。
背も随分高い。ぼくが縮んだせいもあるけど、騎士団の中で一番背の高い団長さんよりも高いよ。
細身だけど骨太でがっしりした手足の長い…素晴らしいスタイルですね!
騎士さんたちと同じ騎士服を着崩してるのに、なんだか凄い迫力でカッコいいです。
もう一人は真っ直ぐの黒いような濃い紫のような髪を頭の上でひとつに括ってる性別不明な人。
猫目は明るい黄緑色で白い肌にやや厚めの赤い唇と口元に黒子がある…綺麗な人。ニッコリ笑顔だけど、ちょっと怖い笑顔だなー。
みんなと同じ騎士服を着ているけど、なんか裾に刺繍があったり、シルバープレートの騎士鎧と違って全部黒色で揃えている。
皮の長靴がヒールなんだけど…。ヒールを入れても背は団長さんよりやや低いぐらいで、細身の体はしなやかな鞭のよう。ん、やっぱり手足は長いんですね!
ぼくもそうなりたいな。
「どうだ~レン。カッコいいだろう?」
銀髪の騎士さんがぼくにそう問いかける。
「しろがねー、しゅごいねー。かっこいい」
「そうかーそうかー!」
むふっと満面の笑顔、いただきました。
ヒョイとぼくの体を抱き上げて、紫髪の人が頬ずりする。
「あー、かわいい。レンのほっぺ、やわらかーい」
……。やっぱり、紫紺はおネエさんでした。声が低いのもそうだけど…喉仏があるのが…見えました。
「しこん。すっごく、キレーイ!」
「ほんと?嬉しいわー」
きゃいきゃい三人ではしゃいでたら、団長さんの弱々しい声が…。
「まさか…人化できるのか……」
周りの騎士さんたちも「まさか」「うそだろっ」とややパニック状態です。
え、神獣や聖獣が人化できるのは、異世界あるあるなんだけど?こっちの世界の人は知らないのかな?
「余計にマズイじゃないかっ!」
「……なんでよっ」
「…お二人が冒険者になれば、間違いなく生活に困らない金銭は稼げます!でも依頼中にレンどのはどうするんですかっ!預けるんですか?連れていくんですか?それよりも!急に現れた強い冒険者は目立つんですよっ!お二人のように容姿にも恵まれていたら、絶対に妬まれます!そのとき、危害を加えられるのは貴方様達ではなく、か弱いレンどのになるんですよっ!」
へ?
ぼくは団長さんの言ったことを反芻する。
確かに二人が冒険者になったら強いと思う。いきなり高ランク魔獣討伐依頼もこなせるだろう。いや、依頼は受けられないけど、倒しちゃうだろう。
それって新人冒険者のすることじゃないから、目立つよね?
冒険者の中にはなかなかランクが上がらず焦ってたり、自分の実力を見極めてやさぐれてる人がいるのは、アニメや漫画でもよく見たし…。そういう人にとって二人みたいな冒険者って…鼻につくよねー。
そして嫌がらせしても嫌味を言っても、二人は気にしないだろう。態度も不遜だろうし……。
ああ…確かにそういう人たちの攻撃が一番弱くて、二人が大事に守るぼくに向かうのは納得できるなー。そうなったらぼくから目が離せないから、危ない依頼でも連れていくしかないけど…。
「……ぼく、いたいの、やー」
せっかく、生まれ直したのに、また誰かに叩かれたり蹴られたりするのは嫌だな…。言葉でも傷つくし…。二人はぼくを守ってくれるだろうけど…そんな荒々しい環境はちょっと嫌…かも。
しょんもりしたぼくに、二人は慌てる。
「だ、大丈夫だ!絶対に俺が守るから。お前に何かしたら永遠に消してやるし、そんな街も潰すし、なんなら国ごと消滅させてやる!」
「そうよそうよ!もう、国ごと潰してレンを王にしちゃえばいいんじゃないの?そうしたら、誰も痛いことなんてしないわよー」
「や、止めてくださいっ。そんな簡単に国を…」
「「うるさいっ!!」」
……ぼく、王様は嫌だな。友達できなさそうだし…、お仕事難しそう。
「ぼく……ふつうがいいの」
普通が一番難しいんだけど…、二人が一緒にいてくれて、朝起きてみんなとご飯を食べて、あ、ご飯はせめて一食はちゃんと食べたい。おやつもあったら嬉しいな。学校…は無理でも、お勉強したり、スポーツしたり、お友達と遊んだりして、夕方にちゃんとお家に帰って。夜は寝る前にお風呂に入って布団で寝たいな…。
褒めてくれなくてもいいの、抱きしめてくれなくてもいいよ。
でも、痛いことは嫌だな…。
所々噛みながらそう話すと、二人と騎士さんたちはお目々をうるうると潤ませて、頭やら肩やら背中を撫でてくれた。
どうしたの?
「本当は領主邸に預かってもらうのが一番いいんだが、あいつのところは今は事情があって奥さんと子供が不在でな……。戻ってくるまでは俺の所で面倒をみよう」
ずずっと鼻を啜りながら団長さんが、ぼくを抱っこしながら言った。
「だ…団長。よろしいのですか?そのぅ…坊ちゃんが……」
「ああ。話せば分かってくれるだろう。誰か先にブループールに戻って領主と俺の家に説明しに行ってくれ」
団長さんのお願いに二人の騎士さんがハッと返事して、馬に飛び乗りパッカラパッカラと去っていく。
わー、お馬さんに乗るのカッコいいなー。ボケッと見送ってたら、団長さんがぼくの顔を覗き込んで。
「すまないが、しばらくウチに居てもらうぞ。その間にブループールの街に慣れればいい。お二人も、その間に街にというか……人の世界に慣れてください」
「……」
やや気まずそうに頷く二人。ぼくは、小さくなった手を二人へと伸ばす。
「いっちょ。しろがね、しこん。ずっと、いっちょ」
照れ笑いしながら、白銀と紫紺は僕の手を強く優しくにぎってくれた。