別れ 3
お手々をよく洗ってエプロンを付けて、ぼくは背が低いから踏み台に乗って、準備完了!
一緒に料理する、兄様もお揃いの白いエプロンを付けてます。
白銀と紫紺も料理にチャレンジするみたいで、久しぶりに人化して手を洗って……、おいおい、白銀ってばちゃんとタオルで手を拭いてよ!ブンブン振り回して乾燥させちゃ、ダメです!
うーん……。
「メグ、リリ」
ぼくはメイドのメグとリリと内緒話。
こしょこしょ。
いい顔で口角を上げたふたりは、さっそく白銀と紫紺を捕まえて。
「ちょっ……、ちょっと!なにをするのよっ!」
「うわっ、イテッ!痛いぞ?」
ふたりの長い髪を櫛でとかして、結ぶのです!
清潔第一だよ?と諭したら、大人しくなってくれました。
紫紺は緩やかウェーブの髪を、緩やか三つ編みにしてもらってサイドに下ろします。
紫紺が自分で用意したエプロンがピンクのフリフリなのは……黙ってスルーしよう。
とっても似合っているけど、触れちゃダメなヤツ。
白銀は、いわゆるポニーテールにしてもらいました。
着ている服も白シャツ黒ズボンで、クールな装いです。
うーん、白いエプロンよりも……。
「しろがね、あのね……」
「ん?」
白銀は、内緒話がしたくてぴょんこぴょんこ跳ねているぼくに気づいて、体を屈めて耳を貸してくれる。
そこへ、こしょこしょ。
「なんだ、そんなことか?変えられるぜ」
フッと白銀の姿が靄に包まれたあと、黒いギャルソンエプロンをした白銀が立っていました。
「かっこいいー!」
ぼくの賛辞に、ふふんと白銀は上機嫌になりました。
「さあ、クラーケンの足を出すわよ。この調理台ぐらいの大きさでいいかしら?」
お祖父様の屋敷の厨房にある調理台は、銀色でピッカピカでもの凄く大きいよ。
でも、クラーケンの足はもっと大きいもんね。
「適当の長さまで出してくれ。俺が切る!」
人化しているけど、爪だけシャキーン!と出して、白銀がクラーケンの足を切るようなデモンストレーションをしてみせる。
「じゃあ、ほいっ」
「よっしゃー!ええいっ」
スパンッ!ゴトンッ!
「「「「おおーっ!」」」」
ぼくたちと屋敷の料理人たちが、立派なクラーケンの足にどよめく。
さあ、これで美味しい料理を作ろう!
ぼくは、屋敷の料理長に頼んでボウルと塩を用意してもらう。
「しろがね。これを……これぐらいに、きって」
「おうっ」
そして、またもや爪でスパン!スパン!切っていくけど……、白銀は包丁は使わないのかな?
白銀が適当な大きさに切ってくれたクラーケンの足を、ボウルに入れて塩をかけて、揉む!
「うひゅあああっ」
「うえええっ」
「ひいいっ」
なんか阿鼻叫喚な図ですが、ぬめりを取っているだけですよ?
ぬめりのある海産物って他にもあるでしょ?
ぼくの不思議顔にアリスターがむむむの顔で、
「クラーケンの足……、触ることなんか、生きてて経験する奴はいないんだよっ」
ボウルから顔を背けても、ちゃんと手を動かす律儀なアリスターが、ぼくは大好きですっ!
ぼくは、手が小さいから兄様と一緒にもみもみ。
途中、水で洗い流して、また塩をかけて、再びもみもみ。
兄様の麗しい顔が、ずっと微妙に歪められています。
「しろがね、しこん!さぼっちゃー、めー!」
ふたりも、ぬめりが気持ち悪いらしく不参加だったけど、そんなことは許しません!
美味しいタコ料理のために、頑張るのです!
ぬめりが取れたら、あとは料理長におまかせです!
「レン様。この具材を入れてパエリアを作ればよろしいのですね?」
「あい!」
あと、あと、タコのマリネ風サラダもお願いします。
うふふふ、楽しみだな。
あっ!あと、疲れていた父様のために、アレも作ろう!
「「「「アヒージョ?」」」」
「あい。かんたん、できう!」
兄様と白銀と紫紺とアリスターで作りましょう!
「りょーりちょー、キノコとにんにく、オリーブオイル、くだしゃい」
調理台に並べられるそれらの材料を見て、ぼくはにんまりと笑いました。
それを見ていた白銀が、「悪魔の微笑み」と言っていたけど、失礼な!
だって、お酒飲む人には、とっても美味しいおつまみだって、同じアパートに住んでいたオネエさんが教えてくれたんだよ。
他の料理の知識は、深夜のお料理番組のタコ料理を見てたのを覚えてました!
夜になり、今日の晩御飯はクラーケンの足が供されるということで、急遽庭にテーブルを用意してガーデンパーティーのようになりました。
セバスチャンが指揮をとり、テーブルセッティングや、飾りつけ、ランタンの灯りによるライティングなどを鮮やかに施してくれたんだ。
お庭を見ていると、わくわく楽しい気持ちになってきます!
「これで、出される料理がクラーケンじゃなければな……」
父様ったら、まだそんなこと言ってるの?
美味しいから大丈夫だよ。
ぼくたち、ちゃんと味見したよ?
「いやいや、クラーケンだぞ?美味しいって……毒でもあるんじゃないのか……」
んっもう!疑り深いなぁーっ。
「レン、放っておけ。こやつは昔からこうじゃ。おい!ギル、口を開けろっ。ほれっ」
「なんで……んががぐうぅっ」
お祖父様が父様の口に、無理矢理パエリアを突っ込みました。
「んんんっ。……旨い」
そのあとは、父様はにっこにっこでクラーケンを食べてたよ。
美味しくてよかった!
ぼくも兄様とアリスターたちと、クラーケン料理以外も食べて大騒ぎです。
あ、このクラーケンパーティーには、屋敷の使用人たちも騎士たちも参加しています。
ちょっと離れた場所のガゼボに、レイラ様とプリシラお姉さんが参加して御馳走を食べています。
ぼくは、父様たち大人組が食事よりもお酒を楽しみ始める頃に、料理長に頼んで「アヒージョ」を持ってきてもらいました。
「とうたま。じいじ。これ、にいたまたちと、つくったのー」
小さな器に入れられたキノコのオイル煮に見えるけど、しっかりクラーケンも入ってます。
父様とお祖父様、セバスチャンがフォークでツンツンとクラーケンを突っつく。
ぼくたち子供組には、バゲットと果物が追加された。
「うむ、旨いな」
「おっ!いいな」
「そうですね。お酒が進む味です」
「……セバス。ちょっとワインを2~3本、持ってきてくれ」
その日は夜遅くまで、宴会が続きましたとさ。
ぼくたちは、いつもの時間にお休みなさーい!