別れ 2
ぼくらは無事に、ブルーパドルの街へ戻ってくることができました。
無事だけど、問題は発生してました。
まず、ひとつしかない馬車に誰が乗るか問題です。
レイラ様とプリシラお姉さんは乗車決定!じゃあ誰が同乗するの?
まだまだ人が怖いプリシラお姉さんのことを考えて、父様は馬に乗ることが決定。
海の中では、同じしゃぼん玉もどきで一緒だったけど、馬車の狭い空間ではちょっと厳しいかも?で兄様も脱落。
残ったのは、ぼくと白銀と紫紺(子犬&子猫バージョン)だけ。
ここで、兄様が珍しく駄々をこねた!
兄様はひとりで、馬に乗ることができない。
だから、アリスターの馬に同乗するように父様に言われて、思いっきり拗ねた。
その珍しい姿に、ぼくは驚いて目を真ん丸にして見ちゃったよ。
アリスターもどうしたらいいのか分からずにオロオロするし、バーニーさんが遠慮して「自分の馬にどうぞ」って誘ってくれたけど、兄様の両頬がぶーっと膨れるのは治らないまま。
微妙な雰囲気に、ぼくも居た堪れない気持ちになったところで、ボフンッと白銀が大きな姿になった。
「しろがね?」
「しょーがねぇから、乗せてやるよヒュー。俺にだったらひとりで乗れるだろ?」
白銀は、お馬さんよりやや小さいぐらいの大きさになったけど、たぶん走るスピードはこの中で一番早いと思う。
パアーッと顔を輝かせて、兄様は「ありがとう。よろしくね」と白銀の背を撫でた。
……いいなーっ。
「ぼくも、しろがねに、のりたい」
兄様の問題が解決して、さあ出発と馬に乗ろうとした父様がズッコケた。
えー、だって、ぼくも乗りたいよ、白銀の背中。
「レン。乗せてやりたいが……落ちそうだな……」
「白銀。僕が乗ってレンを抱っこしても無理かな?」
「うん?うーん」
白銀は自信が無いのか、しょっぱい顔をして悩んでいる。
「しょーがないわね!アタシが協力するわ」
ぴょんと馬車の窓から飛び降りて、おすまし顔で紫紺がぼくの横にお座りした。
「しこん?」
「まずヒューが白銀に乗って、その前にレンが座って、ヒューはレンが落ちないようにちゃんと抱っこしてるのよ?で、アタシがレンの前に乗って、ふたりが落ちないように風魔法で固定してあ・げ・る!」
「ガオッ!お前も乗るのか?」
「なによ。アタシが乗ってあげるから、レンも乗れるのよ?嫌なの?」
「ぐっ……、そ、それは……」
白銀は、チラッとぼくを見る。
ぼくは期待いっぱいのキラキラした「お願い」の目で、白銀を見つめる。
ガクッと首を深く落として、消え入りそうな声で「わかった」と白銀が呟いた瞬間、ぼくと兄様と紫紺でハイタッチ!
こうして無事に、ブルーパドルの街に帰ることができました。
兄様は白銀に乗って移動している間、アリスターの方を睨んでは、「絶対に馬に乗れるようになってやる」と呪文のように言い続けてたけど。
「……んゆ」
昨日、ブルーパドルの街に戻ってきて、お風呂に入って、そのあとから記憶がない……どうやら爆睡してました。
びっくり!ぼくってば昨日の晩御飯、食べてません。
なのに、いつもより遅い時間に起きたみたい。
目をこしこし擦って、ゆるゆるとした動作でベッドから起き上がります。
「んゆ……。しろがね、しこん、おあよー、ごじゃいましゅ」
んー、まだ眠いけど、お腹減った……かも。
「やっと起きたか、レン」
「おはよう、レン」
シュッタと、ベッドに飛び乗るふたり。
そこへタイミングよく、兄様が部屋に入ってきた。
「おはよう、レン。やっと起きたね?お腹が減っただろう?ご飯を食べに行こう」
朝から爽やかですね?兄様。
そして剣の稽古は、すでに終わったみたいですね。
後ろに控えているアリスターが、死にそうな表情で立っています。
深くは聞かずに、ぼくは黙ってメグに身支度を整えてもらいました。
朝ご飯をお祖父様とお祖母様、レイラ様と父様、兄様たちと食べます。
ユージーン様は今日も釣りに行っていて、プリシラお姉さんはみんなでご飯を食べるのは、まだハードルが高いらしくひとりでお部屋で食事中。
「とうたま?だいじょーぶ?」
アリスターのボロボロ具合も酷いけど、父様はもっと酷いよ?死相が出ているよ?
「ああ。大丈夫だよ。ちょっとプリシラのいた集落のことでね……父上とね……。そしてブループールに戻ったらハーバードにも報告か……」
ああっ、父様がパンを千切ったまま口に運ばないで、遠くを見つめたままフリーズしちゃった。
そ、そんなに大変だったのかな?
瑠璃がしたことって、ダメなことだったのかな?
「いい、いい。気にするな、レン。聖獣瑠璃様がされたことは、我々ブルーベル家にとっても、ブリリアント王国にとっても損はない。多少は根回しが必要じゃが、それをするのはハーバードの奴じゃ」
え?じゃあ、父様はなんでそんなに魂抜けてるの?
「こやつは、帰ってハーバードの仕事を増やしたことでネチネチ嫌味を言われるのを、今からうんざりしているだけじゃ」
「まあ、ハーバードは嫌味なんて言いませんわよ、お義父様。ちょっーと、仕事を手伝ってもらうぐらいですわ。おほほほ」
気のせいか、段々父様の顔色が悪くなっていくような……。
「……とうたま、がんばれ!」
「…ありがと、レン」
その日は、ぼくと兄様とアリスター、護衛の騎士さんたちでブルーパドルの街の観光に行きました。
レイラ様とお祖母様はプリシラお姉さんを連れて、初日のぼくたちみたいにお洋服屋さんに行ったみたい、ご愁傷様です。
おおぅ、あのお店はいろいろとおふたりの煩悩が爆発するから、プリシラお姉さん頑張って!
父様?父様は笑顔のお祖父様に、「これぐらいで消沈するとは鍛え方が足りないな!」と言われて騎士団の稽古場に引きずられて行ったよ……。
そして、その夕方……。
とうとうクラーケンを料理をするときが来たのですっ!
じゅるるる。