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お仕置き 3

「うわっ!しゅっごおぉぉーいっ!」


集落に建てられていた全ての家屋と、鶏小屋、井戸の屋根が、神獣聖獣たちの魔法で綺麗な更地に変えられた。

それも、あっという間に。

ちゃんと瑠璃が周りに防御膜(シールド)を張って、森に被害が出ないようにしてくれていたけど、びっくりするぐらいの威力だったよ?

捕らえられている人達は、目を大きく見開いてガクガクと体を震わせている。


「よしっ、じゃあ次の段階にいくぞ」


瑠璃が白銀と紫紺に声をかけて、ふたりが気のない返事をしたあと、ペタリと瑠璃の左右の足に前足を付ける。

瑠璃が両腕を大きく開いて、体全体で魔力を集落跡地に覆うように広げていく。

白銀と紫紺のふたりも薄っすらと自らの魔力で光り出し、その溢れた魔力はそれぞれの前足から、瑠璃の体へと注がれていくように見えた。


ポコッ。


「んゆ?」


地面にポコッポコッと穴が空いてくよ?

あ、ちがう。

何かが生えてきた?


「うわあっ」


小さな双葉がたちまちに若木になり、スクスクと育って幹が太くなり、葉が茂り根がうようよと地面の中を這いまわる。

1本や2本じゃない、沢山の木が一辺に生えたけど……。


「ちょっと、ちいちゃい?」


周りの森の木は太くて大きくて見上げるほど高いけど、新しく生えた木は兄様やアリスターぐらいの背しか高さがないのだ。


「ああ、そうだ。儂の魔法でもっと成長させることはできるけどな、あんまり魔法だけで大きくなると弱くなる。この木たちはここから自分でゆっくりと大きくなるんじゃよ」


瑠璃が優しく微笑みながら、そう教えてくれた。

もう、集落の長だったお爺さんなんて滂沱の涙だし、猿轡を噛まされているのに「うああああっ」てずっと呻いてる。

ショックだったのかな?

国を捨てて、自分たちで開拓して住んでいた場所が、瞬時に開拓前の状態に戻ってしまって。

んー、プリシラお姉さんのことは許せないけど、ちょっと同情しちゃうかなぁ?


「レン、気にしなくていいよ。ここに住んでいた大体の人は、隣国に居られなくなった悪い人だから」


「そうなの?」


兄様が教えてくれたことに、びっくりした。


「ヒューが集落の子供たちから話を聞き出したらしいが、長の爺さんからしてお尋ね者らしいぞ」


アリスターが言うには、兄様は集落の人の調査をするために、子供たちに話を聞いていたんだって。

てっきりぼくは、兄様が集落の子たちと仲良くなりたくて、遊んでいるのかと思った。

誤解しててごめんなさい。


「さて、今度はこっちだな」


瑠璃はクルリと反転して、海の方へと体を向ける。

ここは、入り江になっていて、左右には海から陸に上がるのには無理な高さの崖があるんだ。

猫の額ほどの砂浜があって、拙い作りの桟橋の横には、ぼくたちも乗った小さな舟が3艘繋いである。


「白銀と紫紺。また手伝ってくれ」


「「人使いが荒い!」」


「お主らは、人ではないだろう……」


瑠璃は海に向かって両腕を大きく開いて、白銀と紫紺がペタリと前足を再び瑠璃の足に付ける。

魔力がふわふわと3人の体から溢れて海へ注がれていく。


「おい、海が…潮が引いていくぞ」


どんどん海が沖へと引いていくと、ピタリと止まる。

止まった潮は高波へと姿を変えて、まるで町ひとつ飲み込んでしまいそうな凶悪な姿を晒した。


「……なんだか、怖いな」


兄様がそっと呟いた。

ぼくはその海の状態を「津波」だと思ったら、ダァーッと駆け出していた。

とてとてと、不安定な体を左右に揺らして瑠璃たちの元へと走る。

ボスンと瑠璃の足に抱き着くと目をぎゅっと瞑って、体の中から溢れる力を瑠璃に注いだ。


「レ、レン?」


「爺、いいからやれ!」


「早くしなさいっ」


「ちっ。いくぞ!」


力の奔流に体がバラバラになりそうだ。

ぼくたちの周りでびゅーっびゅーっと風が吹き荒れている。

地面がグラグラ揺れて、立っていられないぐらいの振動に、ぼくは瑠璃の足に強い力でしがみ付く。


後ろで兄様たちの驚く声や、レイラ様たち女性の怯える声が聞こえる。

だって、今、ぼくたちが立っている場所が左右の崖と同じ高さにまで、隆起しているんだよ?

それは……地面が揺れるよね?

グリングリンからグラグラになって、ユラユラと揺れが小さくなってきた頃、高波の状態で止まっていた海が動き出して、新しくできた崖にバッシャアーン!と激しく打ち付けた!

飛沫がいっぱいぼくたちに降り注いで……うー、ビシャビシャ……だよぅ。


「しょっぱー!」


うえええっ、口の中に入っちゃったー!

びーびー、と泣いていたら、兄様が急いで駆け寄ってきて、ハンカチで顔とか拭いてくれました。

アリスターが水筒を差し出してくれたので、っんくっんくと飲んでしょっぱいのを流します。

うええっ、ひどい目にあったよぅ。


「爺!なんで、防御膜(シールド)張ってないんだよっ!濡れちまっただろうが!」


「さいてーっ!アタシの毛が塩水で濡れてベタベタじゃないの!」


ふたりでブルルルって体を震わせないで!飛沫がこっちに飛んでくるー!


「しろがね!しこん!やーの!」


「ごめん」


「あー、ごめんなさい。ほら、クリーンしてあげるから」


「あははははっ!お主ら、間抜けじゃのう」


瑠璃の周りだけ防御膜(シールド)していたのか、瑠璃だけ無傷な姿でぼくたちを見て大笑いする。


「ぶーっ!」


「おお、悪い悪い。怒るなレン」


ぼくの頭をクシャクシャと撫でて、瑠璃は集落の人たちのところへ歩いていく。

ひとりひとりじっくり見て、細身の女の人とその子供、片腕がない男の人とそのお母さんかな?お婆さんだけを騎士さんに預ける。


そして、残りの人たちを、ぼくたちが海の中で入っていたしゃぼん玉もどきみたいな膜で包んで、ふわっと浮かした。


「るり?どうするの?」


「ん?返すんじゃよ。こんなのがあったら、困るじゃろ?」


「かえすー?どこに?」


ほくの問いに、ニヤッと笑って瑠璃はボールを投げる動作をする。

すると、集落の人たちを包んでいた丸いしゃぼん玉もどきがブーンと飛んで海にボチャン!と落ちた。


「おちちゃった!」


「そらっ」


瑠璃が右手を左から右へと払う仕草をすると、海が()に流れていく……?


「ん?」


兄様とアリスターとぼくが、その不思議な光景に首を傾げてしまう。


集落の人たちは川の急流下りをするかのように、速いスピードで海を横に流れて行き、見る見るうち小さくなって、豆粒ぐらいになって、とうとう見えなくなった。


「ど、どこに流したんですか?」


父様が青い顔をして瑠璃に尋ねる。


「隣国から流れてきたのだろう?隣国に返したのじゃ。大きな港町に着くようにしたから、すぐに向こうの兵に捕まるじゃろう」


「……それは……助かります……」


と、疲れた顔をして父様が瑠璃にお礼を言った。


「あの者たちは、あの中では善良な者たちじゃ。プリシラのこともこっそり助けていたみたいだし、転移で安心に暮らせる国の教会にでも送ろうと思う」


瑠璃の言葉に残された集落の人たちは、ハラハラと涙を流した。



うーん、これで、一件落着、なのかな?









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◆◇◆コミカライズ連載中!◆◇◆ b7ejano05nv23pnc3dem4uc3nz1_k0u_10o_og_9iq4.jpg
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