お仕置き 2
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ぼくが聖獣リヴァイアサンに名付けをしてお友達になっていたことの衝撃をなんとか乗り越えた父様は、集落に住んでいる人達を捕らえたことを瑠璃に報告する。
「ふむ。では、仕置きをするか」
そう言うと瑠璃は、砂浜でじゃれ合っている白銀と紫紺の元へ歩いて行ってしまう。
「おしおき?」
ぼくが父様の服を掴んでクイクイと引っ張ると、父様はちょっと怒った怖い顔で、
「少女を虐げた挙句、海に生贄として放り込むなんて、許されることじゃないからな。ちゃんとお仕置きして罪を償ってもらう」
と、ぼくに教えてくれた。
まあ、プリシラお姉さんは人魚族だったし、その人魚族を守護している瑠璃は、今回のことを知って怒っていたし、お仕置きもしょうがないのかな?
ぼくは、捕らえられてひと塊になっている集落の流民たちを見る。
縄で体をグルグルに縛られて猿轡まで噛まされて、バーニーたち騎士が周りを囲んで逃げないように睨んでいた。
でも、お仕置きって何するの?
「レン……」
名前を呼ばれて振り向くと、兄様と申し訳なさそうに三角耳と尻尾をしょんもりさせたアリスターがいた。
「アリスター!」
ぼくは、とてとて走ってアリスターの足に飛びつく。
「アリスター、けがは?いたい?」
ぼくたちが舟に乗りこむ前、アリスターはおじさんたちに殴られたり蹴られたりしていた。
とっても痛そうだったし怪我をしてるかもって、心配してたんだよ?
「ああ……大丈夫だ。ポーションを飲んだし、普段から鍛えているから」
「……そのわりには、格下にやられ放題だったみたいだが?」
ニッコリ笑って答えてくれたアリスターに向かって、トゲのある言い方をする兄様。
「しょ、しょうがないだろーっ!一応、ブルーベル家の立場を考えて、市民に反撃して問題にならないように……した、つもり……。ヒューは、なんで怒ってるんだ?」
「つまらないことを考えるなよ。騎士になるなら守る者と守り方を間違えるな」
「うっ……。わ、悪かったよ……。レンのこと、守れなかった…。ごめんな、レン」
アリスターがしゃがんで、ぼくと目線を合わして謝罪してくれるけど……、兄様が怒っているのはそうじゃないよ?
ぼくは、アリスターに抱っこをせがむように、両手を上げた。
「ん!」
アリスターは、兄様の様子を窺ってからぼくを抱き上げる。
優しい腕の中でぼくは、アリスターの頬に手を添えて。
「アリスター、ぶじ、よかったの!にいたまも、しんぱい、してたの!」
そう、兄様はアリスターのことを心配してたのだ。
おじさんたちに囲まれたときに、大人の事情なんて考えずに、自分の身を守るために反撃すればよかったのにと、兄様は思っていたのだ。
たぶん、ぼくのことを守れなかったって反省してるのは、アリスターだけじゃなくて兄様もだと思うよ?
「ぼくが、わりゅいの……。ごめんしゃーい」
ぼくが悪いんだよ?
また、ひとりで勝手に動いて、白銀と紫紺も巻き込んで、父様たちを心配させて。
だから……。
「にいたま、アリスター、なかよく、して」
いやぁ、ふたりとも仲良いけどね?
珍しく兄様はアリスターに対してだけ素直じゃないからなぁ。
「うん。レン、ありがとな。俺、もっと鍛えて強くなるからな!」
「ありがと。ぼく、アリスター、しゅき!」
ぼくはニコニコ笑いながら、アリスターの胸にすりすりする。
すりすり。
「イテッ!イテテ!ちょ、ヒュー、止めろっ。蹴るな蹴るな、地味に痛いぞ!」
アリスターが顔を顰めて兄様を睨む。
あー、兄様がぼくには王子様スマイルをしているけど、足でアリスターの脛をゲシゲシ蹴っているね?
「……にいたま」
「ん?レン。僕も鍛えてアリスターより強くなって、ちゃんとレンを守れる兄様になるね!だから、こっちにおいで」
兄様はひょいとアリスターからぼくの体を奪ってしまう。
「あーっ!ヒュー、ずりぃぞ!」
「何がズルいんだよ?レンは僕の弟なんだから、僕が抱っこするの!」
あれ?あれあれ?ふたりとも、また口喧嘩を始めちゃった……。
んもう!仲良くして!
さて、お仕置きだ。
まずは、この者たちが住む家を潰すか。
「白銀。お主の魔法でここら辺の物を全て壊してくれ」
白銀は紫紺に散々怒られて少々元気がないが、生来暴れるのが好きな奴じゃ。
思いっきり力を使えば、少しはスッキリするじゃろう。
「あー、わかった。雷しかできないけどな……」
落ち込んでるのう。
海の中で話した白銀の能力の欠如の話を紫紺にもしたが……。
「はあ?白銀の能力が本来よりも劣っている?なにそれ?その駄犬は、昔も今も駄犬のままよっ!」
いやいや、お主、腐っても神獣に対して不遜すぎんか?我ら聖獣も神獣に負けず劣らずと自負はしているが……。
儂、怯えながら紫紺に説明する。
「お主は平気かの?前より使えない力など、ないか?」
紫紺は儂の言葉に目を丸くして驚き、自分の魔力で体を薄く覆って探査していく。
「なにしてんだ?紫紺」
白銀はそんな紫紺の様子に、首を傾げて見ているが……、お主は大人しくしておれ、また怒られるぞ?
「あ……、あら?あらあら?」
レンに「紫紺」と名付けられた毛色が悪くなるぐらいに、青褪めてガクガクと震えていく。
「アタシ……使える魔法が……減っている?」
どうやら、元々得意だった風魔法と魔法操作が必要な空間魔法や防御系・付与系魔法は使えるが、相性が良くなかった土魔法系が行使できなくなっているらしい。
「そんな……。どうして?」
「だから、あの方に申し出て能力の調整をしてもらえ。そのために教会に行き神界との道を繋げと白銀に言ったら……」
「あの方にレンを連れて教会を訪れるという命令を思い出したのだ…。こんなに時間が経っていたら、もの凄く怒られるのだ……。あれ?あの方は無限の時間を生きる方だし……そんなに気にしてないかな?ちょっとぼんやりしてるしな……」
白銀、それは不敬だぞ?
確かにあの方は、その畏怖するお力とは反対にぽややんな方ではあるが……。
「たぶん、アタシたちが教会にくるのを指折り数えて待っていたわよ……。待ちきれなくて鴉の神使を寄こしてレンのこと盗み見してたんだわ……」
そんなことをしていたのか!
あの方もお茶目な方だのぅ。
「ヤベェー、ヤベェじゃん!紫紺、お前さぁ、鴉の神使をボコボコにしてたよな?」
「そういうアンタは、次元の境目に投げ入れたわよね?」
何をしているんだ?お主らは?
儂、そこまでお主らがアレだと、フォローできんぞ?
ふたりして獣体のままお座りして頭をガックリと下に向けていると……、まるで、怒られた飼い犬と飼い猫じゃな。
「そのことも、教会に行きあの方に直接謝るしかないの。儂からも執り成してやるから。ほれ、ここの仕置きをさっさと済ますぞ」
「「はぁぁぁい……」」
シャキッとせんか!シャキッと!
その後、儂らは白銀のやけくそな雷魔法で家屋を破壊し、紫紺の風魔法で巨大竜巻を起こし瓦礫を巻き上げ、その竜巻の中で風の刃を生じさせて瓦礫を粉砕、最後に儂が土魔法で瓦礫とその場所の土とを混ぜて、あっという間に流民の集落を更地に変えてしまった。