お仕置き 1
俺はあの方の命令を失念していた失態に、地の底を突き抜けるほどに落ち込んだ。
爺さんに陸まで送ってもらい、仲間の紫紺にあの方の話を……その前に、爺さんとレンの契約のことで無茶苦茶怒られた。
俺様、げっそり……。
なので、爺さんの仕置きを手伝う名目でストレス発散!
流民の作った集落の家屋に向けて、俺様の雷魔法を乱れ打ちにしてやり破壊する。
バリバリバリバリッ!ドンガラ、ガッシャーン!!ビカビカビカッ!ズッドオォォォォーン!
あっという間に、辺り一面が瓦礫の山と変わり、あちこちで火が燻っている。
はあぁぁぁっ、スッキリ……しないなぁ……。
いい加減許してくれよぉぉ、紫紺。
海を見ながらやきもきしながら、レンたちの帰りを待つアタシ。
はあーっ、心配だわ。
白銀……ちゃんとレンたちを守ってるかしら?
チロはヒュー以外の人も気にしてあげて欲しいわ。
白銀のバカは、ちゃんとクラーケンを倒して足をゲットできたかしら?
レンがあんなに食べたがっていたんだもの、食べさしてあげたい……、そもそも食べれるのかしら?あんなもの……?。
ふうっと、ため息。
海がブクブクと泡立ち、こちらに向かって何かが猛スピードで近づいてくる。
来た!
アタシはスクッと立って、レンたちを出迎えた。
……、……。
この駄犬!
なによっ、なによっ!なんなのよ、あれは!
聖獣リヴァイアサンの爺さんが人化して、海から現れたのはいいわよ、しょうがないわ。
あの、人魚族の少女のことでギルたちともいろいろ話す必要があるものね。
でもでも、なんでレンと繋がりができているの?
アタシたちと同じ絆で結ばれているのよっ!
「ごめん、ごめん。ごめんなさーい!気が付いたらレンと爺は……名付けして契約済んでた」
海から戻るなり、アタシの目の前で滑るように伏せをして謝り倒す、神獣フェンリルこと白銀。
アタシは、自分より前に尊きあの方に創られた神獣の頭を、ぐりぐりと踏んづける。
「なんだって、アンタが付いていながら、そんなことになるのよっ。阻止しなさいよ、止めなさいよ!もうきっちり契約できちゃってるじゃない。キャンセルできないのよ?魂の結びつきは!」
ひいーぃっと悲鳴を上げて、体を縮こませる駄犬。
格下の聖獣にビビッてないで、説明しなさい。
「わかりません、わかりません。なんか……気が付いたら……寝てた」
てへっと笑っても可愛くないのよっ!
なにそれ?なにそれ?レンの真似?ぶっ叩くわよ?
バシッ!ゲシッ!
あ、叩いて、ついでに蹴っちゃった。
ひたすら謝るだけの白銀にムカついて、さらにゲシッゲシッと足と尻尾で攻撃する。
「こらこら、紫紺。そこまでにしてやれ」
「なに、気軽にアタシの名前を呼んでるのよ?」
アンタもアタシと同じ聖獣なんだから、遠慮はしないわよ?
神獣の白銀に対して遠慮していたのか?という質問は受付ないわ。
ふんっ。
「儂もレンに名前を貰ったのじゃ。これからは儂とも良しなに頼む」
「ぐぐぐぅぅぅぅっ・・・。分かったわよ」
「そんなに渋面をするな。契約を交わしたと言っても、儂は守護する海からは離れられん。いざというとき以外は大人しく海で見守ることとする」
「……そう」
その言葉を聞いて、少しアタシの中での焦燥が落ち着いたわ。
人化した聖獣リヴァイアサンは「瑠璃」という名前をレンから貰ったのだと、嬉しそうに教えてくれた。
爺さんのそんな嬉しそうな顔を見たのは、いつぶりかしら……。
しょうがないわね。
レンを守るにしても強い仲間は大歓迎よ。
しかも、レンと生活を共にすることなく、必要な時だけ協力する、使い勝手がいい存在。
あら、やだ。
白銀よりもいい条件かも。
土下座ならぬスライディング伏せをし、アタシに殴る蹴るの楽しいスキンシップを受けた白銀は、瑠璃の執り成しに安堵して、砂まみれの体をブルブルと振るっていた。
「ん?なんだよ?まだ怒ってんのか?」
「あったり前でしょっ!」
「それより、白銀。あの話は紫紺には?」
「あ……、まだ。なあ……紫紺。俺たちレンと会ってすぐに……そのう、教会に行くって指示をすっかり忘れていると思うんだけど……」
「……え?」
そういえば……そんなことを……あの方から、言われていた……ような?
「ああああぁぁぁーっ!」
アタシ、大絶叫を上げたわよ!
「とうたまーっ」
瑠璃にそっと砂浜に体を降ろしてもらったぼくは、両手を広げて待つ父様の腕の中を目指して、とてとてとてとて。
ばっふん。
「レン!よかった、無事で……。心配したんだぞ!」
「ごめんしゃーい。ごめんしゃーい、とうたま」
ぼくは父様の胸に、ぐりぐりと頭を擦りつける。
父様がぎゅっと強めに抱きしめて、頭を撫でてくれる。
いつもなら兄様が父様からぼくを取り上げるんだけど、兄様は後ろに控えていたアリスターの元へ。
暫し、親子の感動の対面を満喫していると、瑠璃の忍び笑いが聞こえてきた。
「ふふふ」
「ん?この人は……!もしかして……!」
抱きしめていたぼくの体をゆっくりと離して、父様はぼくの後ろから歩いてきた瑠璃の姿を訝し気に見つめる。
「お主がレンの父か?初めましてだな。儂は海の守護者、聖獣リヴァイアサンだ。此度はレンとお友達になり瑠璃の名前を貰った。お主たちも瑠璃と呼ぶがいい。それを許そう」
父様は、ぼくと瑠璃がお友達になったと聞いた途端、お口を大きく開けて呆然としちゃった。
あれ?兄様のお手紙に書いてなかったけ?
あ、お手紙書いた後にお友達になったんだった。
「とうたま。るりー!ぼくのおともだち。ぼくがつけたなまえ、るりー!」
ちゃんと父様に、大事なお友達を紹介しないとね!