クラーケン討伐 1
ぼくと聖獣リヴァイアサン、いやいや「瑠璃」と仲良くキャッキャッと戯れていたら、瑠璃の力で眠らされていたみんなが起きだしてきた。
「な、なんでーっ!おいおい!爺さんっ、なんで…レンと…魂の結びつきが……。嘘だろっ、俺……紫紺に殺されるぅーっ!」
急に白銀が喚いて騒いで、両前足で頭を抱え始めた。
「しろがね、うるしゃいっ」
顔を顰めて耳を塞ぐぼくに、白銀が情けない顔を近づける。
「なんで、レン。この爺さんに名前付けちゃったの?」
「え?おともだちになったから」
瑠璃の腕の中で、万歳と両手を上げて嬉しさをアピールしてみます。
兄様も眠そうな目を手の甲で数度擦ったあと、ぼくのところに歩み寄ってきて、華麗な早業で瑠璃からぼくの体を奪う。
あれ?あれれ?
「聖獣リヴァイアサン様とお友達になったの?どんなお名前を付けたのかな?」
「えっとね、るりー!」
白銀も紫紺も瑠璃も、前世のぼくの国の色の呼び方だから、兄様には意味が分からないかもね。
「瑠璃……様。いいお名前だね」
兄様、にっこり。
ぼくも、にっこり。
瑠璃は、ぼくを抱いていた腕を名残惜しそうに見ていたけど、ふんっと鼻を鳴らして、白銀に向けて腰に手を当てる。
「白銀よ、儂のことはこれから、瑠璃と呼ぶがいい」
「はーっ、よりによって爺が……。俺、紫紺に殺されるかも……」
「情けない声を出すな。それより、そろそろクラーケン退治にいくぞ」
「……。そうだな。このイラついた気持ちをクラーケンにぶつけるか。レンが食べたいと言ってるし」
陸に戻る前にクラーケン退治します!
でも、クラーケンが居た所って、まだまだ遠い所だったけど?
あんまり、戻るのが遅くなると父様が心配するし、お祖父様とお祖母様との晩ご飯に間に合わなくなるよ。
「大丈夫。すぐに行って倒して戻ってこよう。ただ……この防御膜が心配だから強化していきたいな」
このしゃぼん玉もどきの膜が破れちゃうの?
ぼくとプリシラお姉さんは、しゃぼん玉が破れたのを想像して顔が青褪めちゃう。
「さすがに、儂もあ奴もデカイからな。激しい海流に揉まれて破れるかもしれん。ふむ、そこの水妖精よ。ちと力を貸せ」
『ワタシ?』
兄様の髪に隠れていたチロが、ひょっこり顔を出す。
「ああ。儂の防御に沿うように、お前も防御膜を張れ。それでいくらか強くなるだろう」
チロはキョロキョロと瑠璃の作った防御膜を見て、ちょっと眉を顰める。
『まりょく……たりない。ひゅーだけじゃ、たりない』
チルとチロは、魔法を使う前と使った後に、ぼくたちから魔力をもらう。
食事するみたいなイメージだけど、使う魔法の威力によって、ぼくたちからもらう魔力の量も変わるらしい。
チルは気ままな妖精だから、あんまり強い魔法がそもそも使えない。
だから、ぼくはほんのちょっぴり魔力をあげるだけで済むんだけど……、チロはもうすぐ精霊にランクアップする予定の妖精だから、チルより強い魔法が使える。
『ひゅーに、むりはさせられない』
プンと横を向いてしまうチロ。
「しょうがない。レン、少しこの生意気な妖精に魔力を与えてくれ。おい、小癪な妖精よ、お前から水の力を奪うこともできる儂の機嫌は損なうなよ?」
瑠璃が怖い顔で低い声を出す。
チロはビクンと小さな体を震わせて、兄様の首の後ろに隠れてしまった。
「チロ。僕からもお願いするよ。レンもチロに魔力を分けてあげて」
「あい」
ぼくは、人差し指をチロに差し出す。
これで、なんとか安心してクラーケン退治に出発できます!
瑠璃がリヴァイアサンの姿に戻って、猛スピードで海を泳いで進んでいく。
しゃぼん玉もどきの中は、快適なんだけどね。
白銀はぼくが瑠璃と友達になったことで拗ねてるし、チロは瑠璃に脅かされたのが怖かったのか、兄様の胸に抱き着いて?張り付いて離れない。
ぼくはプリシラお姉さんと隣り同士座って、お話ししてます。
ぼくが、一方的にブルーパドルの街のことや、ブループールの街のこと、ブルーベル騎士団のことを話してます。
プリシラお姉さんは、ぼくたちと一緒にブルーパドルの街に行き、レイラ様を保護者としてブループールの街で生活するんだ。
でも、海王国のベリーズ侯爵様たちが「1年に1度は会いたい」てごねたから、そのときには、ブルーパドルの街で過ごすんだって。
ぼくは、プリシラお姉さんが初めて行く街の紹介をしてるんだよ?
「レン。クラーケンが見えてきたよ」
「んゆ?……わああっ、おっきい」
まだ大分離れているのに、ウネウネと動くが足が超巨大!に見える。
「そろそろ、行く」
白銀がキリリとした顔で、しゃぼん玉もどきの中から海へと出て行く。
でもその体には別の防御膜が覆っていて……。
「うわーっ」
白銀の体が子犬から成犬、そして初めて会ったときのサイズから、まだまだ大きくなっていく。
前足からシャキーン!と鋭い爪が伸びる。
「待っていろ!レン。あいつの足を持ってきてやるからなー」
……白銀、凄い大きな体になって海の中でも銀色の体毛がキラキラ輝いて、恰好いいんだけど……、泳ぎは犬かきなんだ……。