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聖獣リヴァイアサン

聖獣リヴァイアサンは、ぼくの前で両膝を付いて視線を合わせ、ゆっくりとその頭を下げていく。


「すまん、レン。儂はあの方からお主の保護を頼まれたとき、断ってしまった。儂の守護する人魚族やあの方に任された守護地が海のため、人の子であるレンを側で守ることが難儀だったのだ」


「んゆ?」


それは、白銀と紫紺がぼくを保護しているけど、そもそも聖獣リヴァイアサンがシエル様の頼みを断ったからってこと?


「そうだ。あの方は儂が断るとは思わなかったと思う。儂への信頼は高いはずだ。神獣聖獣の中でも、あの方に任された守護地をいまだ守っているのは儂ともうひとりしかおらん」


とりあえず、話しにくいから、頭は上げてください。

でも人化したリヴァイアサンは背が高いから、座ってぼくとお話ししましょう。


「できれば、レンのことも引き受けたかった。レンが前の世界でどのように過ごしてきたのか、あの方から話を聞いたからには…特に。しかし、あの方がレンの体を人族として再生したというから……。人魚族に変えてくれって頼んでも、融通きかんし……」


「ぼくが……にんぎょ?」


おおーっ!リヴァイアサンがぼくの保護者になってたら、ぼくってば人魚さんだったんだ……。


「うんっと、ぼく、いましあわせ。にいたま、とうたま、かあたま。アリスター、セバス、マーサ、あとあと、しろがねとしこん!みんないっしょ!」


指折りながら、ひとりずつ名前を挙げて、こんなにぼくの周りに大切な人が増えたんだよ!

にっこにこで、チルとチロ、リリとメグ、バーニーさんたちの名前を次々に挙げていく。


「そうか……。幸せか……」


「うん」


リヴァイアサンは胡坐の上にぼくを座らせて、顎をぼくの頭に乗せる。


「……。レン、フェンリルとレオノワールのことじゃが……。あいつら、というか儂たち神獣と聖獣はそれぞれ個人主義でな、あんまり仲は良くない。まあ、単純明快なフェンリルと繊細で世話好きなレオノワールの組み合わせは悪くないが、他の奴らは些か個性が強すぎる」


他の神獣と聖獣、だと?


「レンのことは、あの方からの話で皆が事情を知っている。これから会うこともあるが……友好的な奴らばかりではないので、気をつけろ。フェンリルと仲が良くない者やレオノワールと性が合わない者もいる……」


「しろがねとしこんと?」


神獣と聖獣同士で真剣に喧嘩なんてされたら、周りが凄い迷惑だと思うんだけど、ぼくじゃ止められないよ?


「そういえば、レンはフェンリルとレオノワールを、白銀と紫紺と呼ぶな?」


「なまえ、つけたのー」


「!!レンがフェンリルとレオノワールに名付けを行ったのか?それは……契約では?」


ぼくは頭を左右に振る。


「ちがうよ。ぼくとしろがねとしこんは、おともだちー!シエルさまも、いっぱい、おともだちつくってほしーいって」


「あの方が……。そうか、()()()()がきたのかもしれん。なあ、レン。儂もお友達にしてくれんか?」


「んゆ?」


ぼくは頭を少し上にあげて、リヴァイアサンの美々しいお顔を見つめた。

お友達?ぼくと、リヴァイアサンが?


ぼくはいいけど?いいの?






「はぁーっ」


「なに、ため息吐いてるのよ、ギルバート」


俺は、今しがた読み終えたヒューバートからの手紙を、無言でレイラに突き出す。

不審気な顔をして、レイラは手紙に目を落としていく。


……俺のかわいい息子、ヒューバートが最近、腹黒弟のハーバードに似てきているような……。

そういえば、ハーバードの息子のユージーンは、俺のもうひとりの弟に似ている気がするな。


俺はもうひとつため息を吐いてから、騎士たちに改めて指示を出す。

まず、集落の奴らは縄で縛ってひと纏めに。

ヒューの指示で集落の中ではなく、海の近くの砂浜に奴らを移動しておく。

集落の中の私物で大切な物は、各自で身に付けておくこと。

人魚族の生き残りとして海に放り込まれてしまった少女の私物は、レイラに頼んで纏めてもらう。


うん?集落の爺……じゃなかった、長がギャーギャー騒いでうるさいから、全員に猿轡を噛ましておこう。

集落の人間が変な真似をしないように周りを騎士で囲んで、他の騎士には引き続き森の中で魔獣が襲ってこないよう監視だな。


本当は……詳しい話を聞きたいんだよ、俺は。

海からどんぶらこと現れたのが手紙を咥えた紫紺だったのは、ラッキーだったと思ったんだけどな……。

レンに付いてるふたりのうち、白銀より紫紺の方が理性的で理路整然としている。

なのに……紫紺はすごく機嫌が悪い。

何も喋らないまま、厳しい目付きで海を睨んでいる。

あ、舟で少女を海に放り込んだ男たちにはちゃんと噛みついていたけど。


どうやら隣国では人魚族は迫害の対象というか……、恐怖の対象らしい。

もう、伝説となっているほど昔、神獣と聖獣を巻き込んだ大戦があった。

そのとき、人魚族は海から陸へと覇権を求めて攻めてきた。

しかし、馴れない陸での戦いと、守護者である聖獣リヴァイアサンが参戦しなかったせいで、次第に形勢が悪くなり、海へ撤退するまで追いつめられる。

その地こそが隣国であり、隣国は降伏した人魚族や捕虜を含めて、酷い殲滅戦を行った国でもある。

だから、隣国では人魚族の報復を恐れて、人魚族について独自の意識があるんだろう。

だからと言って少女を虐めたり、「生贄」として海に放り込むのは許されないけどな!


「ギルバート。こっちの準備はできたけど……ヒューが書いてきたことが、可能なの?」


「さあな、聖獣リヴァイアサンがどれぐらいの力があるのか……。うちの神獣様と聖獣様を見ていると、ちょっと不安だな」


俺はクスッと笑ってしまう。

御伽噺や神話に描かれる尊き存在の神獣と聖獣だが、うちの白銀と紫紺を見ていると、その力に首を傾げてしまう。

それぐらい、人間臭い方たちなのだ。


レイラと並んで海を見て待っていると、紫紺がスクッと立ち上がる。

紫紺の周りを一緒に海から帰ってきていたチルが飛び回っているのが、光の明滅で分かる。


「……きたか」


押し寄せる波よりも早い速度で、こちらに何かが向かってくる。

白浪を立てて、海に丸く切り取られたような穴が生じた。


「待たせたな!」


そっちに目を奪われていた俺たちの目の前で、海からザバアーッと何かが現れた。


…………えっ!

その何かは巨大な体を徐々に現し、俺たちの前で蛇のようにとぐろを巻いていく。

その中心に、ヒューとレンと白銀と例の少女が顔を出した。

え?

もしかして……、この巨大な海の魔獣が……。

聖獣リヴァイアサン?


「とうたまーっ」


レンがかわいい笑顔で、こちらにお手々を振っていた。






んー、お友達になるには「名前」を付けてあげないとね。

そもそも、ぼくのお口では「リヴァイアサン」てちゃんと言えないんだもん。

なのでぼくは……じっと見る……けど人化しているからなー。

ぼく、ちゃんとリヴァイアサンの姿を見てないし……。

そういうことを回らない口で説明したら、リヴァイアサンもうーんと唸って腕組みして考え中。


「そうだな……。儂の本体を見せるなら、大分遠く離れないと難しいのう」


「なんで、リバーサンは、しゃべりかた、おじーちゃん?」


白銀も紫紺もそんな喋り方しないよ?「儂」だなんて。

シエル様も、もっとお兄さんっぽい口調だよ?どっちかていうとヘタレ口調だったよ?


「ふふふ。あの方がヘタレか……。フェンリルとレオノワールや他の神獣と聖獣たちは理由があって、長い間眠っていたことがある。あの方から生み出されたあと、ずっと起きているのは儂ともうひとりぐらいじゃ。だから、生きている時間が違うともいえるの」


「ふーん」


そんなに長い間、眠ってたの?

お仕事があるのに?

白銀と紫紺ったら、ダメダメだね!と鼻息荒く言ったら、リヴァイアサンはまた「ふふふ」と笑ってくれた。


「そうじゃ。儂の本体を映像として見せよう。それで、勘弁してくれ」


リヴァイアサンは、ぼくを膝から降ろして正面で向かい合わせる。

そして、額同士をくっつけて、目を瞑れって言われた。

ぎゅっと目を瞑る。


何か……頭の中で……海が広がっていく。

そこに、一体の生き物が……大きな、大きな体。

鱗に囲まれた、長細い体……蛇?ううん、海竜?

ぼくは、どんどん近づいて、よく見てみるの。

鱗の色も鬣も爪も綺麗な海の色。

ぼくを優しく見つめる瞳の色。

紫味を帯びた高貴な色……。


「るり……」


瑠璃色の「瑠璃」ってどうかな?

ぼくは静かに目を開けると、そこには少年のように無垢な笑顔の「瑠璃」


「瑠璃か……、いい名じゃ」


「きにいった?」


「ああ、とってもな」


瑠璃はぼくを抱きしめて立ち上がると、その場でクルクルと回り始める。

ぼくと瑠璃の間が光のリボンで結ばれて、その光の粒子も一緒にクルクルと回って輝く。


シエル様!ぼく、またお友達できましたーっ!





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◆◇◆コミカライズ連載中!◆◇◆ b7ejano05nv23pnc3dem4uc3nz1_k0u_10o_og_9iq4.jpg
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