海底宮殿 2
人魚王様にお会いするとは言ってましたが……まさか海底宮殿のメイン、謁見の間と思われる大広間でお会いすることになるとは思いませんでした。
ここまで誰に止められることなく、スルスルと宮殿の奥へと進めたのは、もちろん聖獣リヴァイアサンが先導してたから。
ぼくや兄様は人族だから、人魚さんたちには物珍しそうにジロジロ見られてたけどね。
海底宮殿まで、ずっとしゃぼん玉もどきの中に居たわけじゃなくて、途中から歩いてきたんだよ。
海王国に入ってしばらくは海の中だったんだけど、実は陸もあった。
どうやら、海水の中で生活する人魚さんと、陸の上で生活する人魚さんと、好みに沿って生活できるようになっているらしい。
でも、ここって海底の海底、いわゆる海溝の底だよね?なんで、水のない陸と空気があるんだろう……。
そんな不思議な国、海王国はお魚のヒレのままでも陸上の移動が容易いように、あちこち川が流れているんだ。
前世の外国、ヴェニスの街みたいに。
宮殿は大きな川に丸く囲まれていて、大きな橋を渡って中に入った。
人魚の兵士さんがいっぱいいたけど、みんな聖獣リヴァイアサンに気が付くと、膝を付いて騎士の礼をして通してくれた。
宮殿の中も不思議がいっぱい。
基本は水のない廊下やお部屋なんだけど、両側に人魚さんが泳げる幅の川が、宮殿の中の至る所で流れていて、天井のもっともっと上の上の方から、滝のように水が流れ落ちている壁がずっーと続いてるの。
宮殿を遠くから見ると大きな噴水みたいなんだよ。
そして、今、広間の中央に立ったまま、玉座に座る人魚王様と接見しているのです。
「久しいな、王よ」
「聖獣リヴァイアサン様、ようこそお越しくださいました。もっと頻繁に顔を見せていただきたいのですが、今回の来訪も急ですね?」
人魚王様は、にっこり笑って玉座から立ち上がり、ゆっくりとした歩調でこちらへ。
「ふむ。ちょっと頼みたいことがあるのだ」
「私にですか?……それと一緒に居られるのは…人族?」
聖獣リヴァイアサンは、サッと体をズラして、あの子の肩を抱いて王様の前にズズイっと押し出した。
「この小さき人魚の血縁を探している」
と、要件を率直にズビシッと突きつける。
ぼく、びっくり!え?説明ナシでいきなり、それ?
兄様も、えっ!て顔しているし、当の本人はここまで驚きの連続で、どこかぼーっと呆けているようだし。
王様も目を大きく見開いて驚いていたけど、ふむふむとあの子の髪や顔を真剣に見定めている。
「人魚との混血児ですな。思いついた者がおりますので、別の部屋にてお待ちください。その者を呼びましょう」
「おお!やっぱり王に頼むのが早いな!よろしく頼むぞ」
「ははっ」
王様は、広間にいた他の偉そうな人魚さんたちにテキパキ指示を出し、ぼくたちは何がなんだか分からないうちに、人魚のメイドさんに誘導されて謁見の間を離れ、別の部屋へと移動した。
「しろがね、あーん」
パクッと白銀が、ぼくがポーンと投げたお菓子を空中でキャッチ!もぐもぐと咀嚼する。
「しこん、あーん」
同じく紫紺にもポーンと投げる。
紫紺は白銀と違って、タン、タタンとテーブル、ソファの肘を足場にして飛んで、お口でキャッチ!
もぐもぐ。
「おいしい?」
「「うん」」
ぼくは自分のお口にもポンと放り込んで、もうひとつを手に持って、
「にいたまも、あーん」
兄様のお口まで運ぶ。
「あーん。ん!美味しいよ、ありがとう」
兄様がぼくの頭をなでなで。
人魚王様とお会いしたあと、人魚メイドさんに案内されて、豪華な調度品に彩られた立派なお部屋に通された。
座って待つように言われた後、瞬く間にお茶とお菓子と軽食を出されて、寛いでいます。
このお部屋も壁には、お水が上から下に流れていて滝のよう。
部屋の隅には、噴水があってお水がパシャパシャ溢れています。
「仲がいいな、お前たちは」
聖獣リヴァイアサンが微笑まし気にぼくたちを見て、お茶をひと口。
白銀と紫紺が、ふふーんと小さな胸を反らしているのが、かわいい。
ぼくは、ちらっとあの子を見る。
ひとり掛けのソファに、体を小さくして座ってじっと自分の膝を見つめて動かないし、喋らない。
うーん、どうしよう……。
ここまでお守りをしてくれていたチルとチロは、お皿に小さくしてあげたお菓子に夢中だし……。
でもな…話しかけても答えてくれないんだよね。
兄様に目で訴えてみても首を左右に振られて、お手上げ状態なのが分かる。
そこへ、コンコンとノックの音。
「待たせたな」
部屋の扉が左右に開かれ、入ってきたのは人魚王様と綺麗な人魚さんと……あの子と同じエメラルドグリーンの髪を後ろに撫でつけた壮年の人魚さんだった。