熱烈歓迎です!前編
セバスさ……じゃなくて、セバス父に先導してもらいながら、屋敷の中へ。
そして、ぼくの知らない、セバス家の真実が……今、明かされる。
ゴクリ。
「ギルバート様にお仕えしているのが、次男のセバスティーノ。辺境伯であるハーバード様にお仕えしているのが、長男のセバスティアゴ。三男はアルバート様と一緒に冒険者などになって、ふらふらしています、名前はセバスリンです」
「みんにゃ……セバスさ……、セバスなの?」
セバス父はにっこり笑って。
「覚えやすいでしょう?」
ええーっ、そんな理由なんだ……。
代々、ブルーベル家に仕える一族で、父様曰く、とても優秀で剣術も魔法もできる万能型なんだって。
そして、とってもお仕事に厳しいらしい。
「ギルバート様のところで鍛えられて、ティーノも遣り甲斐があるでしょうね」
「嫌味か……。まあ、助かっているよ。ティーノは俺が辺境伯を継がなかったのが不満かもしれないがな」
セバス父はひとつ頭を振って。
「いいえ。あの子はギルバート様を主人と決めていました。爵位など気にもしていませんよ」
「なら、いいが」
ぼくと兄様は手を繋いで、大人しく父様たちの後ろを歩く。
白銀と紫紺も尻尾をピンと立てて、ひょこひょこ着いてくる。
「こちらで、ロバートさまがお待ちです」
ガチャリと開かれた重厚な扉の向こうには、上部がアーチ型をした大きな窓に見えるエメラルドグリーンの海と、白に金糸の蔦模様の壁紙、オーク材の調度品の数々があり、その中央には……。
お、鬼だ……、鬼がいるぅ。
ぼくは、カチンと恐怖で固まった。
ああ……やっぱりこうなったか……。
俺はその場で立ったまま、やや虚ろな目に久しぶりの両親の姿を映していた。
父のロバート・ブルーベルは、その厳つい顔にデカイ体に似付かわしくないデレデレの脂下がった顔で、片手にレン、もう片手にヒューを抱き上げ、ふたりの頬にキスしては頬ずりを繰り返している。
レンには「かわいい」を連呼して、ヒューには、時折り腕から降ろし「飛んでみろ」「足踏みしてみろ」と、足が治ったのを確認すると、再び抱き上げぐりぐりと頬ずりをする。
俺とハーバードは母に似たのか、どちらかというと細身のタイプで、父は副団長のマイルズと同じく筋肉お化けだ。
年のわりには、隆々と盛り上がった筋肉と、俺より高い身長。
この街で過ごしているからか日に焼けた肌に、髪の毛と同色の金髪のラウンド髭が近寄りがたい雰囲気を出している。
本人は気さくで快活な人なのだが、子供にはその容貌は怖いだろう。
馴れているヒューはともかく、レンはビビって、ひしっとヒューの足にへばり付いていたしな……。
まあ、今は別の意味で、魂をどこかに飛ばしたような顔をしているが、すまん、父様は助けてやることはできない、許せ。
そおっと、顔を背けると、そんな父の姿を無表情で見つめている、母の姿が。
青い髪をひっ詰めて後ろでまとめて、首の詰まった古めかしいデザインのドレスを着ている女性。
いささか女性にしては、背が高くスレンダーで隙のない立ち姿だ。
ピクリとも動かない表情は、弟のハーバードを思い出させる。
冷たく光る眼は、濃い青色。
ナディア・ブルーベル、前辺境伯夫人で、父がマイルズ以外に己の背を預けられる一流の剣士であり、一撃必殺の魔法士でもある、「闘う貴婦人」こと、俺の母だ。
一見、孫に愛情を注ぎまくる父を、冷たく見つめているように見えるが、それは違う。
よく見ると、母の両手はわきわきと動いている。
あれは、自分もレンとヒューを撫でくり回したいと思っているか、父の足元でレンを助けようと、ニャーニャー、ワンワンしながら、ぴょんぴょん跳ねている白銀と紫紺を抱っこしたいと思っているかのどちらかだ。
俺は両親に挨拶するのを諦めて、さっさっとソファーに座る。
はあーっ、疲れた。
セバスが冷たい紅茶と焼き菓子を幾つか用意してくれた。
…………母上、変わりませんねぇ。可愛いもの好きの性格が……。
俺は遠い目をして、昔を思い出す。
ヒューの小さい頃やアンジェを紹介したときも、母は両手をわきわきさせ、思う存分撫でていた。
あまり、子供を褒める人ではないが、あのときは「こんなかわいい嫁が!でかしたギル!」「あんたみたいな子から、こんな天使な孫が!よくやったギル!」とベタ褒めだったなぁ……。
母上の部屋……昔、兄弟で屋敷の探検ごっこで無断で入ったことがあるが……見事にピンク、ピンク、ピンクの大洪水だったけ…………。
「ずるいですわっ!貴方!わたくしにも……わたくしにも、ヒューとレンを抱っこさせてくださいませっ!」
「おおぅ、すまん、すまん。いやー、我が孫ながらめちゃくちゃ可愛いな」
「当たり前ですわっ。さあ、お祖母様ですよ~」
母上、その猫なで声……気持ち悪いです。
「はあーっ」
俺はため息を吐いて、焼き菓子をひとつ口に放り込む。
これは、落ち着くまでに時間がかかるな、と半ば諦めた。
窓から海を眺め、紅茶で菓子を流し込む。
「ああ、茶がうまい」