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もうひとりのセバス

「うわーあぁぁっ、しゅっごーいぃぃぃ」


ぼくは今、信じられないほど素晴らしく綺麗な景色を、馬上で見ている。


「ああ、ほらほら、そんなに興奮すると落ちるぞ」


アリスターがお腹に腕を回して、ガッチリぼくをホールドしてくれた。

アリスターが乗っているお馬さんの前に、ちょこんとぼくがお邪魔しているんだ。


そして、目の前には、青い空!青い海!白い砂浜!白い家に青い屋根の街!

ここは、ブルーベル辺境伯領のブルーパドルの街!

隣国との戦端にもなる、辺境伯の要の街だ!


でも、すっごい綺麗な街なんだよ?

前世で見たことがある地中海の国みたいに、全てが眩いんだ!

ぼくが、ほわわわ、と見惚れている間、馬車の中では父様が兄様におねだりされていたらしい。


「父様!絶対に帰ったら、僕に馬を買ってくださいね!」


「わかった、わかったから」


「絶対ですよ!練習用の子馬じゃなくて軍馬ですからね!アリスターより乗馬を上手くなるんですっ」


「わかったから……ちょっと手を緩めてくれ……ぐるぢい」


どうして、ぼくがアリスターと一緒に馬に乗っているかというと、それは数日前のこと。




ガタンゴトン。

ブループールの街を出て、すっかり風景が変わりました。

一本の広い道と草原、遠くに見える森。

あのあと、翌日には荷物をまとめてブルーパドルに向けて出発することになりました。

今回は母様とセバスさんは、お仕事があるのでお留守番。

マーサさんも、母様が残るからお留守番です。


父様と兄様とぼく、白銀と紫紺とちみっこ妖精ズが馬車に乗って、メイドとしてリリとメグ。

騎士団から護衛としてアドルフさんとバーニーさん。

あと、騎士見習い兼兄様の従者候補のアリスターが、今回のメンバーです。

なんか、護衛が少ないと思う……。


「ん?領内の移動だし、父様も騎士だし、こんなものだよ?」


兄様の清々しい笑顔で納得。


初日はまだ平気だったの。

すぐにお昼ご飯で、馬車を降りて休んだし。

馬車の中でお昼寝して、お茶の時間でまた馬車から下りて、夕方には泊る予定の村に着いたし。

でも次の日……。

泊る予定の街まで距離があるからと、休憩を少なくして移動していたぼくに、襲い掛かる激痛。

我慢、我慢、我慢しなきゃ!

でも……でも……、お尻…………痛いぃぃぃ。


「どうしたの?レン。そんなに涙を溜めて」


兄様が、ぼくの様子に気付きました。

ぼくは両目に涙をいっぱいに溜めて、口を引き結んで、首をふるふると振ります。

我慢です!


「どうしたんだ?具合が悪いのか?おい、馬車を止めてくれっ」


ああーっ、父様、ぼく、頑張るから馬車を止めちゃダメー!

白銀と紫紺も心配して、ぼくの手をペロペロ舐めてくれる。


「ああ……、レン、お尻が痛いんだね?今日は長い間、馬車に揺られてるから」


かわいそうに、と兄様が抱っこしてくれた。

うっ……呆気なく涙腺決壊です。

ダバダバダバ……。


「うわっ、そんなに痛かったのか……。ごめんな、父様気づいてあげられなくて」


父様がよしよしと頭を撫でてくれます。


「うっ、ごめんしゃーい。いちゃいの……がまん……むりぃ」


ぐすぐすと洟を鳴らすと、父様は鞄から薄黄色の瓶を取り出し、ほんの少し飲んでごらんと言う。

ぼくが不思議に思いながら、ひと口ゴックン。


「ポーションだよ。これで、痛みは取れるだろう。ただな……馬車に乗るのは変わらないしな……。おい、バーニー」


「はい」


「ちょっと、変わってくれ」


「へ?」


父様は、兄様からぼくを取り上げて、そのままひょいと馬車を降りてしまう。

そして、馬車の横を並走していたバーニーさんを馬から降ろすと、ぼくを抱っこしたまま自分がその馬に乗る。


「よしっ、しばらくこのまま移動する。行くぞ」


片腕でぼくを抱っこしたまま、父様は颯爽と片手で手綱を操り馬を走らせる。

おいていかれた馬車の中から、兄様の「父様ーっ、ずるいーっ」と叫ぶ声が聞こえた気がした。


その後は、アドルフさんとバーニーさんにも交互に乗せてもらった。

父様のように片腕で手綱を操るなんて、素晴らしい!

いつか、ぼくも上手にお馬さんに乗りたいな。

ときどき、拗ねた白銀と紫紺の背中にも乗りましたよ?

あれ?ぼくってば、大人になってもお馬さん乗れないかも?

だってふたりがヤキモチ妬くから……。

あと、兄様がずっと「帰ったら乗馬の稽古だ!」て気合入れてたけど……どうしたんだろう?


そして、そろそろブルーパドルの街が見えてくる頃、アリスターが乗る馬に乗せてもらったんだ。

アリスターは両親が冒険者だったから、小さい頃から馬に乗っていたんだって。

でも危ないから、ぼくのことを抱っこして乗るんじゃなくて、前に乗せてもらいました。

兄様が「アリスター……お前まで裏切るのか……」とか呟いていたって、チルが教えてくれたけど、兄様はそんなこと言わないよ?





ブルーパドルの街。

またまた、騎士団専属の門から入りました。

なんかズルしたみたいで、申し訳ないです、はい。

街に入ると、馬車の乗り心地が変わった。


「んゆ?」


「レン。ブルーパドルの街は、大きな街道は石畳なんだよ。それも綺麗な色石なんだ」


「へえー」


父様と兄様に馬車の窓から見えるあれこれを教えてもらっていると、見えてきましたお祖父様たちが住んでいるお屋敷が。


「わあっ、まっしろ」


他の家と同じく、真っ白な家と真っ青な屋根。

ガラガラと馬車が門を通りすぎ、お庭の噴水をぐるりと囲むようにできた道を通って、お屋敷の玄関前に到着。

兄様に抱っこしてもらって降りると、そこには……あれあれ?セバスさん?


「ようこそ、お待ちしておりましたギルバート様」


「ああ、世話になるよ、セバス」


へ?やっぱりセバスさん?

深緑色の髪は襟足の長さで切られていて、ひと房額にかかってる。

切れ長の黒い瞳だけど、片眼鏡はしていない。

セバスさんより、ちょっと年上……みたい。

ぼくがジロジロ見ていたのに気づいたのか、そのセバスさんは腰をかがめて、ぼくと目線を合わして穏やかに微笑む。


「ようこそ、レン様」


「セバスしゃん?」


首を傾げたぼくに、ちょっと眉を顰めて。


「あいつは、レン様にさん付けで呼ばれているのですか?」

「ひぇっ」


うわっ、急に怖い人モードになった。

ぼくは慌てて兄様の足にへばり着く。


「うーん、レンが遠慮して、使用人はさん付けで呼ぶんだよ。年上だからって理由でね」


ぼくはコクコクと頷く。

かろうじて、ぼく付きのメイドのメグだけは、メグと呼ぶ。

もうひとりのセバスさんは困った顔して、その場に両膝を付きぼくと向き合う。


「レン様、それはいけません。仮令幼くてもレン様は主家の方。けじめのためにも使用人にさん付けは無用です」


「うう……ん、でも……」


セバスさんは、なんでもできるスーパーマンみたいな人だし、マーサさんは逞しいお母さんって感じだし……、ぼくは困って兄様を見上げる。


「レンの好きなように」


苦笑しながら、そう答える兄様。


うんっと、うんっと……。

ここは前世とは違う世界。

身分がある貴族社会だ。

ぼくは拾われっ子だけど、ブルーベル家の養子だし。

うう……ん、難しいけど……頑張る。


「あい。セバス……て、よぶ」


「はい。私のことも息子同様にセバスとお呼びください。セバスチャンと申します」


「セバス……」


セバスさんとセバスチャンさんは、親子でしたかー!





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◆◇◆コミカライズ連載中!◆◇◆ b7ejano05nv23pnc3dem4uc3nz1_k0u_10o_og_9iq4.jpg
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