出会い 3
プラプラ、左右に揺れる体。
「アタシたちだけで人の街に行ったら大騒ぎになるから、シエル様が選んだ人族の保護者と会ってから行きましょうね」
「あい」
シエル様は、白銀と紫紺以外にもぼくの面倒をみてくれる人を選んでいてくれたようだ。
ありがとう、シエル様。
でも保護してくれる人はぼくのこと知らないんだって。知らないのに、保護してくれるの?
前の世界でもそういう組織はあったけど、そういうお仕事の人なのかな?
「向こうもアタシたちの魔力を感じて、この森に入ってきてるから、すぐに合流できるわよ」
「あい」
プラプラ揺れながら、コクンと頷く。
白銀と紫紺は、ぼくに会う前に、わざとその強い魔力を放出して「森に異変あり」と間接的に知らせたらしい。
魔力感知できる人にとっては「なんかヤバい魔獣が出た!」と分かるそうで、そうなったらそれなりに力のある人が調べに森に来ることになる。
「シエル様に選ばれた本人か選ばれた人に近しい人が、調べにくるでしょ。レンを守るのにいろんな意味で強くないとねー」
紫紺の足取りは軽い。ルンルンって感じ。
反対に白銀は黙ったまま。
そうだよね。だってぼくの首元の服を噛んで、ぼくを運んでるんだもん。喋れないよね?
だいたい、3歳の体のぼくが歩ける距離なんて微々たるものだ。
すぐに疲れちゃうし、頭が重くて歩きにくいし。
それで、白銀の背に乗ったんだけど…バランス悪いし白銀も動くし…コロコロ転がって落ちちゃうんだ。
それで紫紺が猫の子のように咥えたら?って言ってこうなった。
ぼくは楽しいよ。
ブランコで遊んでるみたい。
でも、白銀は情けない顔をしているらしい。紫紺が意地悪そうにニヤニヤ笑って揶揄ってたからね。
「あ…。魔獣がいる。あー、あっちと当たったわ…」
え?魔獣って強いの?その人たち大丈夫?
「急ぎましょ。たぶん大丈夫だと思うけど、念のためにね」
紫紺は、タッと走り出す。
白銀も後を追うように走り出した。
ブラーンブラーン。ぼくの体の揺れが左右大きくなる。
「きゃは。ははは」
なんだか楽しくて、はしゃいだ声で笑ってしまうぼく。
えー、中身が9歳のぼくとしては、そんな自分が少し恥ずかしい…、でも楽しい。
木々の中を走り抜けたぼくたちは、森が開けた場所で足を止めた。
4~5人の剣を持った騎士たちと、大きな生き物が対峙している。あの魔獣って…。
「あら、ビックバードね」
「たいしたことないな」
…ニワトリみたい。大きな白い体にやや短い翼を左右に広げて、頭には赤い鶏冠。
「コケッコー、コー!」
威嚇で叫んだ鳴き声も、ニワトリだ。
大きさはアレだけど、見慣れているせいか、全然怖くない。
でも騎士さんたちは、じりじりと魔獣を囲んで慎重に攻撃しようとしている。
「面倒だわ。早く倒しちゃいましょ」
紫紺は、クイッと右前足を動かした。
どこからか、風の音がする。
魔獣を見ると足元から旋毛風が起きて、段々と大きく膨らんでいく。
あれ、竜巻になるんじゃ…と危惧してたら、あっという間に魔獣を飲み込む竜巻に育って、魔獣を囲んでた騎士さんたちは姿勢を低くして自分の身を守ってる。
ぼくが、あんぐり口を開けて驚いてると、唐突に竜巻の風は収まって、錐揉み状態でビックバードが落ちてきた。
しっかり首も落とされている。
「わああああ」
凄い。それって、紫紺がしたの?魔法なの?
「風魔法よ。首も落としたから血抜きもできるでしょ」
ふふんと得意そうに言う紫紺が可愛い。
ぼくは褒めるように紫紺の体を撫でた。
ふわぁっ、スベスベで気持ちいい。
「お、俺だってあれぐらいできるんだぞ!雷で一撃で倒せるんだぞっ」
なんか、白銀が紫紺と張り合ってるけど…、雷は今度、見せてね。
今は、ぼくたちを不審気に見て剣を構えてる騎士さんたちをなんとかしてほしい。
ぼく……向けられてる剣が怖いの…。刃物をぼくに向けないで……。
じわっと涙が滲む。
ママ……。
ママの握ってたアレ。
ぼくに振り落としたアレを思い出すから…。
ぼくに剣を向けないで……。