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神獣クラウンラビット 5

神界では、この箱庭をどうするのか議論がまとまらず、ずっーとシエル様が泣いている。

狐の神使たちは「箱庭のリセット」を訴えており、狸の神使は「命のリセット」を提案していた。


どっちにしても、神獣聖獣もろとも滅せられる。

俺としては、どちらでも構わないと口にしようとして……躊躇した。

自分の命が惜しいわけではない。


ただ……あの子までもが死んでしまうと、悲しくなったからだ。






























チマチマと世話をして箱庭を創ったシエル様の嘆願もあり、このまま箱庭は存在できることとなった。

問題の神獣と聖獣は一度神界へ戻し、再教育することにした。


これは、箱庭の要であるエンシェントドラゴンとリヴァイアサンが持ち場を守護し続けたことが大きい。

同胞たちを捕縛するのに、この二人の助力は望めないため、俺がその任を命じられた。


「でもね、フェンリルとフェニックスの力は君より強いし、レオノワールの魔法は厄介だ。くれぐれも気をつけてね」


シエル様は涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔で俺を見送ってくれたが……、そんな心配をするなら俺の力を増やしてくれ。

神獣最弱なんだぞ。


箱庭の消滅は避けられたが、俺への負担が倍増し、なんだか釈然としないままオアシスへと帰った。


ここは、キャラバン隊の中継地であり、王政となったが商人気質が抜けない国だ。

あちこちで領土争いが苛烈さを増しているが、ここは商人たちの重要地で戦場となることはなかった。


懸念されたのはオアシスの枯渇。

水不足だ。


何が原因かわからないが、久しぶりに見たオアシスの水はいささか少なく、雨が降らない砂漠ではすぐに干上がってしまいそうだった。


ふむ……。


別に俺が水魔法でこのオアシスを潤してもいいのだが、それで俺が神だと誤認されても面倒だ。

このときの俺は、こんな呑気なことを考えていた。

そう……水不足を恐れた権力者たちが、何をしようとしたのか。

いや、何をしたのか。

想像することもできなかった。


俺はオアシスの畔でのびーっと体を伸ばして、少女の訪れを待ち続けた。

もう来ない……巫女の少女を。





























幾日待っても姿を現さない少女に、なんだか胸騒ぎをして探しまくった。


白い建物の中にも、賑やかな芝居小屋の中にもいない。

木々が茂る花咲く場所にも、子どもたちが駆け回る広場にもいない。

夜が更けて月明りだけが照らす道を姿を隠し進む王と神官を見つけ、嫌な予感を感じながら跡をつけた。

神殿の裏の小高い丘を登ると、そこには石で設えた大きな棺があった。

その棺の上には、白くて細い人が……。


ヒクヒクッ。


血の匂い。

ぞおおおっと背中に凍りつくような寒気が走る。


「まだ生きているのか」


「王よ。今宵の水乞いの儀式が終わるまでは生きていなければなりませぬ。こうして卑しい身の血を流し、水を乞うのです」


ギラギラと趣味の悪い装飾品で身を飾ったでっぷりした男の不満を、白いローブを着た細身の老人が宥める声が聞こえる。


「こうして水乞いの儀式のため、身寄りのない子を巫女と崇めて育てていたのです。まさか、自身が神の生贄になるなどと思ってもいなかったでしょう」


フフフと笑い声が周りに伝播して広がったとき、俺の記憶は途切れた。


気が付いたら体の縮小化が解け、元の大きさで冷たい石の上に横たえられた少女をじっと見つめていた。

血の匂いはむわっと濃くなっていた。


「……っ」


息がある!

まだ、生きている!


……なのに、俺は……俺たち神獣聖獣は治癒魔法が使えない……。


怪我してもすぐに治るし、病気など罹らない俺たちには不要と創造神が与えなかった治癒魔法。

神獣フェニックスだけは、火の力を使い再生魔法が使えるが……俺は神獣なのに死にそうな少女一人を助けることもできない。


視界がじわっと滲む。


「う……さぎ……さ……?」


なんで、そんな状態で笑うことができるんだ?

お前の痩せぽっちで薄い体には、ナイフがぐっさりと突き刺さっているのに。


ああ……命が流れてしまう。

この子の命が……。


「あの、ね。……なま……え、あ……たの……な……まえ」


どうして!

神獣として創られたのに、俺は少女の命が救えない!


どうして!

治癒魔法を授けてくれなかった!


「い……いい、か……な? あ……の……まえ、……っ」


ああ……命が……命が……。

見えない目がうっすらと開けられ、見えない俺の姿を見て、血で濡れた口で微笑み、何かを呟いた。

そして……再び、目は閉じられた。


永遠に……。






















神獣なのに、何もできなかった。


その力を与えられなかった。


人同士が争ったから、その争いに同胞が力を貸したから、武器商人の行き来が頻繁になり、オアシスの水が枯れた。


すべては、この地の命あるものが悪いのか?

いいや……いいや、違う!




神が悪い。




力を与えない神が悪い。

神獣聖獣などを創った神が悪い。

この地を、箱庭などを創った神が悪い!


そう……全ては神が悪いのだ。

ならば、俺が正してやろう、すべてを。


同胞を殺し、神を殺し、箱庭を壊し、俺が邪神となってやろう!















砂漠のオアシスは一昼夜にてその姿を消し、白い砂は黒い砂に変わったという。



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◆◇◆コミカライズ連載中!◆◇◆ b7ejano05nv23pnc3dem4uc3nz1_k0u_10o_og_9iq4.jpg
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