神獣クラウンラビット 2
住めば都とはよく言ったものだ。
砂漠という環境が厳しい場所の持ち場だったが、私は案外快適に過ごしていた。
そもそも、神獣なのだから日中の暑さも陽光の熱さも、夜の冷気さえも、私の毛皮が防いでくれる。
そよそよと吹く風もあれば、砂嵐もあるが、私の体に毛ほどの傷をつけるでもなし。
地味だ、地味だと同胞にからかわれた体色は、この砂に紛れてしまうが、目立たなくていい。
創造神に頼まれたのは、地の守護である。
箱庭に息づき始めた人型の種族たちに見つかることは断じて避けなければならない。
ましてや、ごく一部の種族を守護するなどという暴挙は決してあってはいけない。
私たち神獣聖獣が守るのは箱庭であって、人ではないのだから。
この種族たちも、やがて神獣エンシェントドラゴンと聖獣リヴァイアサンの神気によって大地や大気が落ち着き、様々なことが巡り出せば、淘汰される種族、生き残る種族に別れ、少しずつ箱庭が形成されてゆくだろう。
私たちはそのために地を守る……守る……って、あいつら~!
神獣エンシェントドラゴンは、創造神に指示された山の頂上で大人しくしている。
大人しくし過ぎで、それはそれで不安だが、まあいい。
聖獣リヴァイアサンは、海の中でしっかりと魔獣や人魚族を管理している。
素晴らしい!
大型魔獣は浜から離れた奥の奥、海の深い深~い場所へ追いやり、バラバラで同士討ちが多かった人魚族を一つの海中国家としてまとめ上げた。
ちょっと、人魚族に関わりあい過ぎているが、種族の保存として認められた行為だった。
創造神は、人魚族を残す種族としているらしい。
あとは……考えたくないし、見たくない。
フェンリルは、なぜか氷で覆われた山と森に生息する人狼族の守り神となっていた。
フェニックスは、炎を噴き出す山々の近くに住む鬼人族のマスコットとなっていた。
……なぜだ?
なぜ、創造神に任された地ではなく、その地に住まう者たちを守護するのだ?
しかも、私と守護する地を交換した聖獣レオノワールまでもが、森に隠れ住む小人族と交友を得ていた。
交友までなら、人魚族と関わりがあるリヴァイアサンと同じだが、明らかにレオノワールは情を傾け過ぎていた。
私が指摘すると、小人族が作るものが好きなだけだと言い訳するが、そんな訳あるか!
ホーリーサーペントは、まだ恐怖心が勝るのか守護する地から出ることはないが……ちと怯え過ぎでは?
あと……ユニコーンな。
ユニコーンについては、変な教育を施したレオノワールとホーリーサーペントにも非があるが、湖を訪れた少女に対して「乙女」呼ばわりをし、勝手に守護を押し付けている。
あれ……聖獣としてもダメだが、人族からも嫌われていないか?
鬱陶しいだろうが?
大丈夫か? そのうち教会に「悪しき馬を退治してくれ」とか祈られたらどうしよう。
俺は何もない砂漠の地の平穏を幸いとして、同胞を諫めるため下界でも東奔西走、大忙しだ。
念のため、エンシェントドラゴンとリヴァイアサンの様子も見ていくことにする。
あの二体が暴れたら、箱庭は崩壊するしかないからな。
フェンリルとフェニックスに注意しても聞きはしない。
力で無理やりどうこうしたくても、四番目の私は、あいつらよりも力は弱い。
レオノワールとユニコーンはお気に入りに夢中で、私の注意を軽く扱うし、ホーリーサーペントは引っ込み思案すぎて守護地から少しずつ外れていく。
あ~もう! どうして俺だけがこんな目に遭うんだーっ!
その日も俺は、箱庭の中をあちこち走り回り、同胞と喧嘩越しの交流を経て、ヨロヨロと砂漠へ戻ってきた。
あ~疲れた。
もう、あいつらのことは放っておこうかな?
箱庭の要である、エンシェントドラゴンとリヴァイアサンが動かないなら、もういいや。
話を聞かない同胞たちとのやり取りに疲れていた俺は、フテ寝とばかりに巣穴に潜り目を瞑った。
ほんの少しだけ休むつもりで。
ちょっとだけ休んだら、またあいつらに会いに行くから。
ほんの少しだけ……。
……あ、寝過ごした。
うっかりと数日単位で休息をとるつもりが、数年単位で休んでしまった。
ゴソゴソと巣穴から這い出た俺が見たものは……すっかりと変わり果てた砂漠の風景。
し……知らんうちにオアシスができてるーっ!
パッカーンと口が開き、グワッと目を剝き出して、その光景を見る俺はこのまま眠り続けてしまいたいと現実逃避を企むのだった。