神獣クラウンラビット 1
最終章連載の前に短編の閑話が入ります。
最終章はまだ思案中ですので、本編の再開はもうしばらくお待ちください。
別に不満はない。
四番目に創られたせいで、私には他の者より多少理性があり、問題ばかり起こす同胞の尻拭いで一日が終わろうとも。
派手な色合いの奴らに囲まれた私の体色が、地味な茶色だったとしても、不満はない。
「ええーっ、兎っていったら白い毛に赤い眼だろう?」
ちいっとばかり頭の足りない同胞が、赤い翼をバサバサとしても気にならない。
「まあああっ、ヒドイわ。白い鱗に赤い眼の私に対するクレームね!」
いや、誰も文句など言っていないから、デカイ体でくねくねとするな。
あと……お前の鱗はほんのり桃色で白ではない。
「ふんっ。雪のごとく白い毛といえば僕のことでしょう。角までも美しい僕……」
ああ、厄介な奴まで参加してきた。
ここは神界。
といっても、別の世界の土地神が自分の世界が欲しいと作り出した箱庭の中だ。
その世界の神で流行った遊びの一種で、この箱庭の中でなら土地神は創造神となり、自分好みの世界を創ることができるという。
創造神シエル。
この箱庭の持ち主で、私たちを創りだした神……のハズ。
「うわあああん、うわあああん。フェンリルが僕のお尻を噛んだあぁぁぁぁっ」
その神は、号泣している。
周りにわらわらと狐の神使と狸の神使が集まり、ペロンと神の衣を捲り尻についた歯形にペタリと薬を塗ったガーゼを当てる。
「ひゃああああぁっ、し、沁みるよおおおぉぉっ」
薬が痛いと、今度は床に伏して泣きじゃくる創造神に、仕事は終わったと神使たちはバーッと散開していった。
……ここは神界。
私は創造神が創り出した四番目の神獣、クラウンラビット。
神獣が四体、聖獣が四体、計八体の神獣聖獣がこの箱庭を守護する。
守護する前に……神界が破壊されそうだ。
とにかく一番目に創られたエンシェントドラゴンと二番目に創られたフェンリルの仲が悪い。
どっちが一番強いかと張り合っている……のはフェンリルだけで、エンシェントドラゴンはボーッとしている。
そこに喧嘩を売っていくのは三番目に創られたフェニックスだ。
四六時中、火炎を振りまきながら二体の神獣に突っかかっていくのだ。
……私は四番目に創られた神獣クラウンラビットだが、本当にあいつらは私の同胞か?
もしかして、頑強な体を創ることを優先して、頭が少し足りない……?
「クラウンラビットぉぉぉっ。なんとかしてよぉぉぉ。僕の神界が燃えちゃうよぅ」
私の自慢の耳をギュッと掴まないでいただきたい。
ムッとした心情そのままに、後ろ足がダンダダンッと床を強く踏み、グラグラと神界が揺れる。
「はぁぁぁぁぁっ」
深く息を吐き、ピョンピョンと奴らが暴れているところへと移動する。
絶対防御のエンシェントドラゴンは涼しい顔でお座りしているが、その周りはフェンリルが吐き出す氷とフェニックスが煽る炎でとんでもないことになっていた。
ついでにフェンリルの野郎はバリバリと雷を落としまくっている。
「はああぁぁぁっ」
あれに収集をつけるのは、毎回骨が折れるんだが……。
しかし、これが私が持って生まれた宿命と諦め、同胞を諫めに今日もいく。
私が創られたあと、四体の聖獣が創られた。
神曰く、神獣は少し力に重きを置きすぎたので、聖獣は力を少し落として調整力を高めたとのこと。
聖獣レオノワールは、確かに魔法の使い方が上手く多才だ。
ただ……なぜ男性体を好むくせに趣向が女性なのか?
コントロールはピカ一だが、ヒステリーなのはなぜなのか?
その反動か、聖獣ホーリーサーペントはそのデカさに反比例して、肝が小さい奴だった。
ほんの少しの音にも過敏に反応して、すぐに泣く。
正直、創造神と一緒に泣いているのを見ると、うんざりする。
聖獣ユニコーンは何も語りたくない。
ナルシストでロマンチストの要素は聖獣にはいらんだろうがっ。
ちなみに、このロマンチストはレオノワールとホーリーサーペントの教育によるらしい。
教材は創造神の元の世界の恋愛小説とやら。
……シエル様、アンタ、何やってんだ!
この余計な教育が、後々ユニコーンの「聖なる乙女」「清らかな乙女」に繋がっていく。
私にとって救いだったのは、最後に創られた聖獣リヴァイアサンだ。
理知的で冷静。
エンシェントドラゴンと対等な力。
あの、フェンリルとフェニックスを抑えこめる力。
ようやく、あのバカ者ども……あ、違った……同胞たちを真っ当な神獣聖獣として教育できると喜んだ。
しかし……創造神は、我らに下界にいき箱庭を守護するよう命じられた。
エンシェントドラゴンは箱庭の大地を、リヴァイアサンには箱庭の海を守るように。
この二人が崩れたら、箱庭は崩壊するという。
フェンリルとフェニックスは、二人それぞれの属性に沿った土地を。
ホーリーサーペントとユニコーンには、力量に沿った穏やかな土地を。
だが、レオノワールが与えられた土地は、ややレオノワールの性格とは合わなかった。
しょうがない……私の場所と交換してやろう。
こうして、私は日中は日に炙られて熱く、夜は凍えるような冷気に満ちる砂漠を守護するため、下界へと降りた。
まさか……奴らが下界でも好き勝手に行動するとは思わずに。
少しは成長しろっ。
ダダンッと、後ろ足が止まらない。





