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決勝戦 2

兄様とは反対側から入場してきたのは、兄様より小さい男の子だった。


革の胸当てとグローブ、ブーツの簡素な防具しか身に着けていない兄様に対して、対戦者はフル装備をしているようだ。


お、重くないのかな? 金属製のフルメタル鎧にしっかりと顔を隠すヘルメットまでしている。

体に比べて長すぎる剣をズルズルと引きずって歩いている……ヨタヨタしているみたいだよ?


「あれじゃ、試合開始前に倒れるな」


白銀が呆れた声でそう言い放つと、紫紺も憐れむ目で小さな鎧騎士を見下ろす。


「にいたま、かてる?」


「ああ。むしろ、不戦勝じゃねぇか?」


白銀が兄様の勝ちを約束してくれたところで、対戦者がべちゃとその場に倒れてしまった。


「んゆ?」


ピクピクして倒れたまま起き上がらないよ?

あ、兄様と審判が慌てて救助に走る。


「あら、ヒヨコクラスの試合は終わりかしら?」


紫紺がつまらなさそうにペシンと尻尾を床に叩きつけた。


「にいたま、かった?」


コテンと首を傾げて試合会場を見つめる。


おやや? 兄様が試合に勝ったなら、ホワイトバード公爵家の寄子貴族席からヒドイ悪口と黒いモヤモヤが湧いてきてもおかしくないのに……今日は静かだなぁ。


「くろいモヤモヤ、ないの」


「あら? ヒューが試合に勝ったのに?」


紫紺が言葉を発すると同時に審判が兄様の不戦勝を宣言した。

途端に、試合を観戦しているお客さんからブーイングが浴びせられる。


でも、ヒヨコクラス、お子様同士の試合ということで、笑っているお客さんもいて、兄様の試合は不完全燃焼ながらも平穏に終わった。


さて、次はアリスターの試合かな?

















兄様の対戦相手、まだ十歳の男の子は重い防具を着用し動いた疲労と、大量の汗を一気に放出しての脱水症状が起きて、ドクターストップがかかってしまい、兄様の不戦勝で決勝戦は幕を閉じた。


病室にお見舞いに行った兄様に号泣しながら文句を言っていたらしい。

大人なのにヒヨコクラスに出場してズルい、と。


どうも、その子は準決勝戦までは兄様と同じような防具で試合をしていたんだけど、決勝で当たる兄様の強さにビビッてフルメタル鎧を知り合いの防具屋さんで借りてきたらしい。

子ども用の鎧などないから、一番小さいサイズの鎧を改良して着用したけど……想像より重くて蒸して暑かった。


問題はここから!

大泣きの子どもに責められた兄様は、優勝を辞退しちゃった!


え? 剣術大会で兄様かアリスターが優勝しないと最難関ダンジョンへの挑戦を父様は許してくれないんでしょう?


ぼくは、兄様の様子を見に行ったバーニーさんから話を聞いて、ムムムッと顔を顰めてしまった。


「しょうがないでしょ。年齢はともかく、ヒューがヒヨコクラスに参加するのは無理があったもの」


「そうだな。実力も段違いだし。今年参加のガキどもにとっては、嫌がらせのようなものだ」


……そうか、兄様が強いのがいけないんだな。


白銀たちの話を聞いて、ぼくはそう自分を納得させた。

強いんだもん、しょうがないよねーっ。


落ち込んでいたのに、急にペカッとした笑顔で窓に張り付いたぼくの姿に白銀と紫紺は苦笑していたみたい。


次はアリスターの試合だよ。

アリスターは強くて経験豊富な大人たちと試合をして勝ち進んできたんだもの。

今日だって、ガキン、バキンと頑張ってくれるはず。


「アリスター。おうえん、するの」


アリスターが優勝してくれないと、最難関ダンジョンへの道も閉ざされちゃうからね。

















係の人に呼びだされ、俺はパチンと両手で自分の頬を強めに叩いた。


今日は剣術大会ブロンズクラスの決勝だ。

相手は冒険者で階級は中級……の上クラスだ。


気合いを入れるのと、ここ数日の試合で起きた不可解なことと同じことが起きても冷静に対処できるように。

レンが見えている黒いモヤモヤ、つまり神気が混じった厄介な瘴気のせいで、対戦相手が格下の俺に対して反則してきたり、公平な立場の審判が襲いかかってきたりしたのだ。


どうにか、そんな状況でも勝ち進んではきたが、決勝ではどんなトラブルが起きるのか……。


ヒューの試合で起きたような微笑ましいトラブルなら大歓迎だけど……結局ヒューの奴は優勝を辞退してしまった。

ま、ホワイトバード公爵家の寄子貴族たちの罵詈雑言よりも、子どもの泣き言には敵わないってことだ。

実際、俺も年下の子に号泣され卑怯者呼ばわりされたら、心が折れちゃうぜ。


ブンッと剣を右手だけで一振りし、真っ直ぐ前を見つめ足を一歩踏み出す。

きっと勝ってみせる。


ここまできたら、優勝しないなんてありえない。

ブルーベル辺境伯騎士団の騎士として、必ずこの手に勝利を!


……そういえば、今日はずいぶんと観覧席が静かだなぁ。

俺はあれ? と首を捻る。


いつも聞こえる俺やブルーベル辺境伯騎士団を揶揄する言葉が聞こえない。

なのに、背中がヒヤッとする、嫌な気配が足元からジワジワと上がってくる気が……した。


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